氷焔の冒険者~元ヲタは異世界で侍になるそうです~

不知火 氷雨

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第一章

27 不吉な予感

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「え......? ダッシュボアがそんなに?」
「そうなんだ。少しおかしいと思って」

 空が暗くなり、夜の領分が強くなり始めたころ。俺たちの姿はギルドにあった。
 この時間帯になると依頼終わりの冒険者たちで酒場が賑わってくる。
 そんな騒々しさと裏腹に、ミライアさんと依頼の報告を終えた俺たちは深刻な表情で会話していた。

「……少し気になりますね。そんなに大量に出てくるという話は聞いた事がありません」
「生態的にもまずないだろうから、そうせざるをえない状況だったのかなぁ」
「そうですね……あの、アリアを疑う訳では無いのですがギルド職員としても、鵜呑みにする訳にはいかないのです」

 話の途中、ミライアさんが申し訳なさそうに申し出てきた。これは、つまり証拠を見せてくれということだろうな。

「ソウジ君」
「はいよ」

 俺たちは徐ろに、カウンターの上に手を出して……。

「あ、あの! ちょっと待ってください!」
「あぇ?」

 ディメンションバッグからボアの牙を出そうとしたのだが、他ならぬミライアさんに止められてしまう。

「話が本当なら、数十個単位ですよね?」
「そうですけど……あっ」
「はい、こんな所で出しては騒ぎになってしまう上に、スペースが足りません」

 ……こんなことにも気づかなかったのか。
 俺たちは恥ずかしさのあまり、黙り込んでしまう。
 アリアなんて、顔から火が出そうなくらい顔が赤い。

「なので、こちらの奥でお願いします」
「「……はい」」

 彼女に先導され、俺たちはギルド奥の素材買取所へと向かうのだった。

 ◇

「ここでいいですか?」
「はい」

 ギルドの買取所一角、そこに俺達の姿はあった。
 今度こそ確認を行い、テーブルの上に手を出す。

──────時空魔法Lv.1 ディメンションバッグ

 俺とアリアの手の下に、ブゥン……と蚊の羽音のような音と共に時空の歪みが発生する。

「じゃあ出すよ」
「お願いします」

 その瞬間、盛大な音と同時に大量の牙がテーブルの上に落ちる。
 余りと云えば余りな量に他の職員さんも目を大きく見開き、固まっている。

「こ、これはまた……」

 ミライアさんもやはり驚いたようで、表情こそ変えていないものの笑顔が引きつっているように見える。
 無理もない、あの量じゃなぁ。
 しばらくフリーズした後彼女は再起動を果たす、そして近くで同じく固まっていた職員に声を掛け、指示を出し始めた。

「想像以上に多いですね。これは私一人では手が足りなさそう……すみません、空いている人員を何人か連れてきてくれませんか? ええ、はい。出来れば鑑定に適した人選で。はい、お願いします」

 鬼気迫るという様子で、指示を出していくミライアさん。思わず俺は圧倒されてしまった。

「少しお待ちください。今から鑑定をしていきますので」
「あ、はい」

 ……俺には頷くことしかできなかったよ、まみぃ。

「完全に修羅モードだねぇ」
「修羅モード?」

 打ちひしがれる俺の横で、アリアが戦慄の表情で呟いた。

「そう。あれは、数年前……彼女が一度あの状態になったことがあったの」
「あ、あの状態に!?」
「その時あった書類の山は、数時間もしないうちに塵も残さず消滅したのよ……」
「な、なんだって……」

 俺はその恐ろしさに、身体の芯が凍るような気分となった。

「しかも、その話には───」
「───アリア? 何ふざけた話をしているのかしら?」
「続きが……ってあれ?」
「後でお話があるわ」
「っ!?」

 気が付けば、俺達の背後にミライアさんが立っていたのだ。俺の気配察知にもなんの反応もなかった。
 彼女はの実力の一部を垣間見た気がする……。

「ソウジさんも、ほとんど虚言だから鵜呑みにしないようにね」
「はい……」

 アリアは冷や汗をだらだらと流し、青ざめた表情をしている。
 悪ノリした俺も悪かったけど、俺には何も出来ない。赦せ……アリアよ。

「まぁ、この話は後でするとして、大体の鑑定が終わりました」
「え、もうですか?」
「はい、もちろん大まかなので端折ってる部分もありますが」

 テーブルの方に視線を向ければ、数人の職員が疲れきった表情で椅子に座り込んでいる。
 物凄く働かされたのであろうことは想像に難くない。彼らに黙祷を捧げておく。

「一旦、カウンターの方に戻りましょうか。あの報酬もありますし」
「あ、それなら、これもお願いします。素材は肉を少し以外は買い取ってください」
「わかりました」

 そう言って、俺はディメンションバッグの中から一回り大きかったダッシュボアを取り出し、テーブルの上に置く。
 職員たちの絶望した表情なんて見てない俺はアリアたちと共にカウンターに戻っていく。

「……ソウジ君も相当酷いよね」

 聞こえてない。聞こえてない。

「あの牙が本物だと確認しましたので、先程の話が真実だと証明出来てしまいました・・・・・・・・・
「……どうするの?」
「早急に調査隊を組み、調べたいと思います」

 アリアの問いに対し、ミライアさんは決意を込めた表情で答えた。

「じゃあ、俺達も……」
「いえ、今回はギルド職員とAランクのナザースさんのみで調査に出てもらいます」
「ナザース……彼か」

 気のいい性格の初老の冒険者が脳裏に浮かぶ。

「ご存知なのですか?」
「はい、少し縁がありまして……」

 確かに、あの男ならなんの問題もないだろう。しかし、ここまで関わったのだ。俺達も参加するべきではないか。
 そんな俺の思いを見透かしたのか、アリアが口を開く。

「ソウジ君、やめとこう」
「なっ……」

 なんで、と口に出す前に彼女に遮られる。

「依頼終わりの私達は少なからず疲れているの。そんな状態で手伝ったっていい結果なんて出ないよ。それにナザースが出るなら、足でまといになるだけ」
「アリアの言う通りです。今は休憩していてください。……またお願いすることがあると思いますから」

 アリアだけでなく、ミライアさんにまで窘められてしまう。仕方なく、俺は頷いた。

「……わかりました」
「とにかく、今は少しでも情報が欲しいです。2人も誰か知っていそうな────」
「だからっ!! 本当なんだ! 俺達は見たんだよ!」

 ミライアさんの話を遮るかのように、大きな声がギルド中に響いた。
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