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第一章
28 騒動の原因
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「だからっ! 本当なんだ!! 俺たちは見たんだよっ!!」
今後の方針について話し合っていた時、唐突にギルド内に響いた大声。
その声に他の冒険者たちも注目し、凪いでいた水面に水滴が落ちたかのように騒めきが広がっていく。
突然の出来事に俺たちは思わず、顔を見合わせてしまう。
「言ったそばからか......」
「とりあえず向かってみましょうか。関係ないかもしれませんけど」
ミライアさんが促し、言い争っている現場へと急ぐ。
「少々、お待ちください! 只今確認を取りますから!」
「お願いだから急いでくれ!」
「どうしたのですか?」
「「!!」」
言い争っていたのは、三人ほどの若い冒険者とギルド員だった。
彼らの装備が革製の防具に、俺から見てもお世辞には良いとは言えない武器からして、同じく見習いの冒険者だろうと推測できる。
「ミライアさん……」
「少し事情を聞かせて貰ってもいいでしょうか」
「そ、それは別に構わねぇけど……」
恐らくリーダーであろう茶髪の冒険者に、事情を聞くことにしたようだが……どうも彼は俺たちが気になるらしい。
「彼らは別の案件でいらっしゃったのですが、その話と貴方がたの話に関連があるかもしれないので同席して頂いています」
それを察してか、ミライアさんが即座に俺たちを紹介。俺たちも会釈をする。
それで彼らも納得したのか、頷くと話し始めた。
「実は……」
彼らはこの街を拠点にして活動しているパーティで、全員がFランクだそうだ。
リーダーの彼は、剣士でカイトというらしい。後は盗賊のラルフ、魔法士のレン。
バランスよく整ったパーティでここ最近実力を伸ばしてきていると評判らしい。彼らも無理をせず、堅実にをモットーに励んでいる。
そして今日、いつもと違う狩場に行こうとここから南東に位置する森での依頼を受けたそうだ。ちなみに今日、俺たちがいたのが真南のあたりだ。
その内容は「リーフウルフの討伐」。ダッシュボアと並んで初心者向けな魔物の一つだ。
いつもと勝手の違う場所に戸惑いつつも、着々と依頼をこなしていた彼ら。そんなときに異変は起きた。
「なんか、空気が変わったというか、ピリッとしたんだよ。よくわかんないけど......なぁ?」
「ああ、確かにそんな感じだった」
「そうですね、僕もそう感じました」
カイトの話に他の二人が同意を示す。
「それで、リーフウルフの死体をさっさと片づけて帰ろうって話になって。急いで片づけてたんだけど......そこで見ちまったんだよ......」
そこで、俺たちみんなを見渡すカイト。
どこか、地球で見た噺家さんを彷彿とさせる彼の様子に、思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。
「あれはたぶん......オークじゃないかな」
その言葉に俺は、思わずずっこけそうになる。
オークは確かにDランクのモンスターと初心者には厳しい強さを持つが、珍しいというほどでもない。
こんなに騒ぐ必要はないはずなのだ。
「オークって――――」
「違ぇんだよっ! 最後まで聞いてくれ!」
そのことを指摘しようとしたのだが、真剣な表情のカイトに遮られる。
見れば残りの二人も同じく真剣な表情だ......いや、少し青ざめてすらいるか?
「その......な。オークを引き摺ってたんだよ」
「!!」
オークが何を……? いや、オーク"を"って言ったのか? どういうことだ?
直ぐには理解が追いつかなかった。……いや、理解したくなかっただけかもしれない。
「俺たちだって目を疑ったさ。でも、オークより遥かにでけぇ紅い熊が片手にオークを持って歩いてたんだよ」
俺はその話を信じることができなかった。
この街に来るまでにオークとは戦ったことがあり、その大きさには辟易とさせられたからだ。
約2.5m前後の筋骨隆々な身体、それを片手引きずる熊と言われても簡単に想像など出来ない。
それならドラゴンでもいたと言われた方がまだマシだ。……いや、余計に信じられないか。
「熊……? この周囲で赤い熊の魔物といえば、ヒートベアぐらいでしょうか」
「そうだね……でもそんな大きさはないはず。せいぜいが2m程度、ランクもオークと同じDランクだし」
これまで黙っていたミライアさんとアリアが該当しそうな魔物について話している。生憎と俺は知らない魔物だが。
「森の位置的にもボアの群れとの関係はありそうですね」
「コレは早々にでも調査に出すべきじゃない? あの辺の森は封鎖して」
「そうですね……」
俺が口を挟む間もなく、どんどん話が進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺たちにも説明してくれ!」
どうやら、展開に着いていけていなかったのは俺だけではないらしい。
カイトたちも慌てて説明を求めている。
「そうでした。少し、慌ててしまったようですね……」
我に返ったミライアさんが俺たちの事情とこれからどういう予定で動くのか、諸々を説明してくれる。
「なるほど、そんなことが……。心配だけど、ナザースさんが行ってくれるなら安心だな!」
少し不安そうな表情をするも、ナザースへの信頼は厚いらしく直ぐに気を取り直した様子を見せる。
「では、そういうことでよろしくお願いします。皆さんも知り合いの冒険者などに通達しておいて下さい」
「「「「「はい!(おう!)」」」」」
今後の方針が決まったところでミライアさんがまとめ、俺達は解散することになった。
ミライアさんと挨拶を交わし、いざ帰ろうかと言う時、カイトたちが声をかけてきた。
「おう、改めて挨拶しとこうと思ってよ……」
「なにもなしでは寂しいですからね」
「そうだな」
彼らのそういう態度は凄く好ましく思える。
俺とアリアは少し笑う合うと、自己紹介をする。
「俺はソウジ、Eランクだけどまだまだ駆け出しだから一緒に頑張ろう」
「私は……」
「"光弓の戦姫"のアリアだろ? そっちのソウジも期待の新人だって専らの噂だぜ?」
カイトが悪戯顔で遮ってくる。
俺達は先程とは別の意味で顔を見合わせてしまった。
「なんだ、知ってたの?」
「俺、そんなに噂になっているのか……?」
アリアは呆れた声音で、俺は自分が噂になっていると聞き、微妙な表情になってしまう。
分かってはいたが、実際に聞くとあまりいい気分にならないものだ。
「まぁな。ここじゃあ有名だよ。最年少Bランクって。ま、それにソウジの噂も悪いもんじゃないから気にするなよ」
笑ってカイトはそう言うが、そういう問題じゃないのだ……。
「ってことで、さっきも言ったと思うけど、俺はカイト。剣士だ、宜しくな!」
「魔法士のレンです!」
「盗賊のラルフだ。よろしく頼む」
「今後とも仲良くしていってくれると嬉しいぜ」
俺は大きく溜息をついて、手を差し出す。
「ああ、こちらこそ宜しくお願いするよ」
「うんうん!」
俺達はそうやって握手を交わすと、解散することになった。
手を振って去っていく彼らの背中を見送り、俺たちも元気のいい親子の待つ宿屋に足を向けて歩き出すのだった。
「初依頼からこの調子じゃ、先が思いやられるな……」
「トラブル体質なんだね!」
「縁起でもないこと言わないでくれ!」
……アリアに散々からかわれながらだが。
◇
翌日、俺たちの姿は街の南に位置する街門にあった。調査に赴く、ナザースたちの見送りのためだ。
「おう、ソウジじゃねぇか! なんだぁ? 見送りか!」
他の冒険者と話していたナザースだが、俺を見つけるとこちらへとやってきた。相変わらず豪快な男だ。
この男がいれば、例の魔物など歯牙にもかけられずにやられてしまうのではないだろうか。
「まぁそんな所かな。ナザースも気を付けて」
「ガッハッハッ! てめぇみたいな坊主に心配される程じゃあねぇさ! さっさと熊公なんぞ倒してくるわ!」
ガシガシと俺の頭を揺すり、笑うナザース。
確かに、心配するだけ無駄だったか……。
「それもそうだな、じゃあ頼んだよ」
「おう! 泥舟に乗ったつもりでいやがれ!」
「……いや、それダメじゃないか!?」
「ガッハッハッハッ!!!」
またまた笑いながら、出発する姿はとても頼もしく見え、俺たちは彼なら大丈夫と安心することが出来たのだ。
この先に起こることも知らずに……。
今後の方針について話し合っていた時、唐突にギルド内に響いた大声。
その声に他の冒険者たちも注目し、凪いでいた水面に水滴が落ちたかのように騒めきが広がっていく。
突然の出来事に俺たちは思わず、顔を見合わせてしまう。
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「とりあえず向かってみましょうか。関係ないかもしれませんけど」
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「どうしたのですか?」
「「!!」」
言い争っていたのは、三人ほどの若い冒険者とギルド員だった。
彼らの装備が革製の防具に、俺から見てもお世辞には良いとは言えない武器からして、同じく見習いの冒険者だろうと推測できる。
「ミライアさん……」
「少し事情を聞かせて貰ってもいいでしょうか」
「そ、それは別に構わねぇけど……」
恐らくリーダーであろう茶髪の冒険者に、事情を聞くことにしたようだが……どうも彼は俺たちが気になるらしい。
「彼らは別の案件でいらっしゃったのですが、その話と貴方がたの話に関連があるかもしれないので同席して頂いています」
それを察してか、ミライアさんが即座に俺たちを紹介。俺たちも会釈をする。
それで彼らも納得したのか、頷くと話し始めた。
「実は……」
彼らはこの街を拠点にして活動しているパーティで、全員がFランクだそうだ。
リーダーの彼は、剣士でカイトというらしい。後は盗賊のラルフ、魔法士のレン。
バランスよく整ったパーティでここ最近実力を伸ばしてきていると評判らしい。彼らも無理をせず、堅実にをモットーに励んでいる。
そして今日、いつもと違う狩場に行こうとここから南東に位置する森での依頼を受けたそうだ。ちなみに今日、俺たちがいたのが真南のあたりだ。
その内容は「リーフウルフの討伐」。ダッシュボアと並んで初心者向けな魔物の一つだ。
いつもと勝手の違う場所に戸惑いつつも、着々と依頼をこなしていた彼ら。そんなときに異変は起きた。
「なんか、空気が変わったというか、ピリッとしたんだよ。よくわかんないけど......なぁ?」
「ああ、確かにそんな感じだった」
「そうですね、僕もそう感じました」
カイトの話に他の二人が同意を示す。
「それで、リーフウルフの死体をさっさと片づけて帰ろうって話になって。急いで片づけてたんだけど......そこで見ちまったんだよ......」
そこで、俺たちみんなを見渡すカイト。
どこか、地球で見た噺家さんを彷彿とさせる彼の様子に、思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。
「あれはたぶん......オークじゃないかな」
その言葉に俺は、思わずずっこけそうになる。
オークは確かにDランクのモンスターと初心者には厳しい強さを持つが、珍しいというほどでもない。
こんなに騒ぐ必要はないはずなのだ。
「オークって――――」
「違ぇんだよっ! 最後まで聞いてくれ!」
そのことを指摘しようとしたのだが、真剣な表情のカイトに遮られる。
見れば残りの二人も同じく真剣な表情だ......いや、少し青ざめてすらいるか?
「その......な。オークを引き摺ってたんだよ」
「!!」
オークが何を……? いや、オーク"を"って言ったのか? どういうことだ?
直ぐには理解が追いつかなかった。……いや、理解したくなかっただけかもしれない。
「俺たちだって目を疑ったさ。でも、オークより遥かにでけぇ紅い熊が片手にオークを持って歩いてたんだよ」
俺はその話を信じることができなかった。
この街に来るまでにオークとは戦ったことがあり、その大きさには辟易とさせられたからだ。
約2.5m前後の筋骨隆々な身体、それを片手引きずる熊と言われても簡単に想像など出来ない。
それならドラゴンでもいたと言われた方がまだマシだ。……いや、余計に信じられないか。
「熊……? この周囲で赤い熊の魔物といえば、ヒートベアぐらいでしょうか」
「そうだね……でもそんな大きさはないはず。せいぜいが2m程度、ランクもオークと同じDランクだし」
これまで黙っていたミライアさんとアリアが該当しそうな魔物について話している。生憎と俺は知らない魔物だが。
「森の位置的にもボアの群れとの関係はありそうですね」
「コレは早々にでも調査に出すべきじゃない? あの辺の森は封鎖して」
「そうですね……」
俺が口を挟む間もなく、どんどん話が進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺たちにも説明してくれ!」
どうやら、展開に着いていけていなかったのは俺だけではないらしい。
カイトたちも慌てて説明を求めている。
「そうでした。少し、慌ててしまったようですね……」
我に返ったミライアさんが俺たちの事情とこれからどういう予定で動くのか、諸々を説明してくれる。
「なるほど、そんなことが……。心配だけど、ナザースさんが行ってくれるなら安心だな!」
少し不安そうな表情をするも、ナザースへの信頼は厚いらしく直ぐに気を取り直した様子を見せる。
「では、そういうことでよろしくお願いします。皆さんも知り合いの冒険者などに通達しておいて下さい」
「「「「「はい!(おう!)」」」」」
今後の方針が決まったところでミライアさんがまとめ、俺達は解散することになった。
ミライアさんと挨拶を交わし、いざ帰ろうかと言う時、カイトたちが声をかけてきた。
「おう、改めて挨拶しとこうと思ってよ……」
「なにもなしでは寂しいですからね」
「そうだな」
彼らのそういう態度は凄く好ましく思える。
俺とアリアは少し笑う合うと、自己紹介をする。
「俺はソウジ、Eランクだけどまだまだ駆け出しだから一緒に頑張ろう」
「私は……」
「"光弓の戦姫"のアリアだろ? そっちのソウジも期待の新人だって専らの噂だぜ?」
カイトが悪戯顔で遮ってくる。
俺達は先程とは別の意味で顔を見合わせてしまった。
「なんだ、知ってたの?」
「俺、そんなに噂になっているのか……?」
アリアは呆れた声音で、俺は自分が噂になっていると聞き、微妙な表情になってしまう。
分かってはいたが、実際に聞くとあまりいい気分にならないものだ。
「まぁな。ここじゃあ有名だよ。最年少Bランクって。ま、それにソウジの噂も悪いもんじゃないから気にするなよ」
笑ってカイトはそう言うが、そういう問題じゃないのだ……。
「ってことで、さっきも言ったと思うけど、俺はカイト。剣士だ、宜しくな!」
「魔法士のレンです!」
「盗賊のラルフだ。よろしく頼む」
「今後とも仲良くしていってくれると嬉しいぜ」
俺は大きく溜息をついて、手を差し出す。
「ああ、こちらこそ宜しくお願いするよ」
「うんうん!」
俺達はそうやって握手を交わすと、解散することになった。
手を振って去っていく彼らの背中を見送り、俺たちも元気のいい親子の待つ宿屋に足を向けて歩き出すのだった。
「初依頼からこの調子じゃ、先が思いやられるな……」
「トラブル体質なんだね!」
「縁起でもないこと言わないでくれ!」
……アリアに散々からかわれながらだが。
◇
翌日、俺たちの姿は街の南に位置する街門にあった。調査に赴く、ナザースたちの見送りのためだ。
「おう、ソウジじゃねぇか! なんだぁ? 見送りか!」
他の冒険者と話していたナザースだが、俺を見つけるとこちらへとやってきた。相変わらず豪快な男だ。
この男がいれば、例の魔物など歯牙にもかけられずにやられてしまうのではないだろうか。
「まぁそんな所かな。ナザースも気を付けて」
「ガッハッハッ! てめぇみたいな坊主に心配される程じゃあねぇさ! さっさと熊公なんぞ倒してくるわ!」
ガシガシと俺の頭を揺すり、笑うナザース。
確かに、心配するだけ無駄だったか……。
「それもそうだな、じゃあ頼んだよ」
「おう! 泥舟に乗ったつもりでいやがれ!」
「……いや、それダメじゃないか!?」
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