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1.その人も妹のもの
しおりを挟むある日、グランシエル公爵家に求婚書が二通届いた。
父のジェイスンと母のミエルは、同じ日に!?と驚きながら開封した。
長女の私アリシアの相手は、ヴェルナルディ公爵家の長男ジークハルト公爵令息。
妹リシアンヌの相手は、リーガン子爵家の三男カシウス様だった。
私は複雑な気持ちだった。
リシアンヌの相手は、私が長年片想いをしていた方だからだ。
片想いと決め付けているのは、リシアンヌとカシウス様が想い合っていることに気付いていたからだ。
私の想いは顔に出さないよう、平静を装っていたので、気付かれていない筈だ。
というより、リシアンヌとカシウス様の仲が公然とした事実として、家族や周囲の人々に認知されているからだ。
艶やかな金髪でブルーアイのリシアンヌとカシウス様は、すらっと背も高く、傍から見てもお似合いだ。
そんな状況で、私が想いを告げても単なる邪魔者にしかならない。
だから、秘めたる想いとして、心に仕舞い込むようにしていたし、寧ろ理解ある姉として振る舞っていた。
それに、公爵令嬢の結婚であれば、それなりに家柄が釣り合っていた方がいいに決まっているし、我が家は私が婿を取り、公爵家を継ぐ予定だった。
カシウス様は、子爵家で三男という難しい立場であった。
しかし、私に届いた求婚書の送り主は、筆頭公爵家の跡取りだ。
もしこの話がまとまるとすれば、私はヴェルナルディ公爵家に嫁がなければならないだろう。
そうすると、この公爵家はリシアンヌが継ぎ、カシウス様が婿入りすることになる。
家格を重視するならば、他に見合う相手と婚姻した方がいいと考えたら、リシアンヌの相手として、カシウス様が婿入りすることすら怪しくなってきた。
「お父様、ヴェルナルディ公爵令息様はどんな方かしら…お会いしたことがないと思うのですが…」
「うむ…大柄だが繊細な印象だな。整った顔立ちをしていた気がするぞ。」
「実際にお会いしてみないと、何とも言えない感じですね。とは言え、私に選択肢はないのでしょう?」
「アリシアは話が早いな。同じ公爵家と言えども、あちらの方が格上だからな。こちらからは断りづらいのが本音だ。」
「分かりました。私は、お父様の意向に従います。」
こうして、ヴェルナルディ公爵令息様とのお話は進んでいった。
ヴェルナルディ公爵令息様からは、三日後に訪問するという手紙をいただき、お茶会にて、もてなすこととなった。
どんな方かも分からず、とにかく無難におもてなしが出来るよう準備するのは、結構大変だなぁなどと考えていた。
そして当日、約束の時間通りにヴェルナルディ公爵令息様は来訪した。
「ようこそお越しくださいました。アリシア・グランシエルでございます。」
「ジークハルト・ヴェルナルディだ。よろしく頼む。」
お辞儀をして顔を上げると、見上げる位に背が高い。
キラキラ輝く銀髪で紫がかった赤眼が美しい美丈夫だった。
声は低いが柔らかな感じだ。
「ん?妹君か??」
「いえ、本人ですが…」
「いゃ、小さいから…」
「申し訳ございません。妹の方がすらっと背が高いのです。私は母に似て、小柄なので。」
「いや、こちらこそ申し訳ない。」とヴェルナルディ公爵令息様は頭を下げた。
まさか最初の会話が身長の話になるとは思わなかったけれど、公爵令息様ともあろう方が頭を下げてくださることに驚きと好感を感じた。
「どうぞ、こちらへ。」
庭園のお茶会の席に案内する。
父・母・妹に加え、妹の婚約者としてカシウス様も着席していた。
お互いの自己紹介はスムーズに進んだ。
「ヴェルナルディ公爵令息様は、お姉様をどこでお知りになったのですか?」
リシアンヌがわくわくした目で話し掛ける。
突然話し掛けられたヴェルナルディ公爵令息様は、ぎこちない笑顔で答える。
「クライスト侯爵家の夜会でお見掛けしました。」
「そうなんですね!お姉様と出掛けた記憶がありますが、まさかそちらで!!運命的な出逢いなんでしょうか。」
リシアンヌは一人で興奮している。
その様子をカシウス様は微笑ましく見つめている。
初めは緊張気味だったが、リシアンヌのおかげで場が和やかに進んだ。
「そろそろ二人で、庭園の散歩でも如何かな?」
お父様に言われたので、案内することにした。
「ヴェルナルディ公爵令息様、庭園にご案内致します。」
二人で歩き出したが何となく気まずい。
「あのぅ…」
「何だ?」
「突然の求婚書は、本当に私宛だったのでしょうか…クライスト家の夜会で見掛けたと仰いましたが、お出迎えした時、妹とお間違えのようでしたし。人違いでしたら、早目に訂正なさった方がいいと思います。」
「い、いゃ、そんなことはない…」
「後からでも大丈夫ですから、よくお考えになってくださいね。私は大丈夫ですから。」
「大丈夫とは、どういうことだ?」
「だって、どう見ても妹の方が愛らしいですから。妹には婚約者がおりますので、結婚となると難しいかもしれませんが、私より妹に心を奪われるのは致し方ないですからね。いろいろ弁えおりますから、大丈夫という意味です。」
ヴェルナルディ公爵令息様は複雑な表情をしつつ、また連絡すると言って帰って行った。
私は気付いていた。
ヴェルナルディ公爵令息様は、リシアンヌと間違えたのだなと。
背の高い令嬢が姉だと勘違いなされたのだろう。
カシウス様が浮かべる恋する表情を、ヴェルナルディ公爵令息様がリシアンヌに向けていたことに。
回数を重ねたことで、人が恋に落ちる瞬間が、手に取るように分かるようになってしまった自分が悲しい。
私は誰にも愛されないんだと自覚する瞬間だから。
だからこそ、ヴェルナルディ公爵令息様を見た瞬間、何のイメージも持たないように気を付けていた。
淡い初恋だけでも苦しいのに、生涯を共にする結婚ならば、愛されないことは尚更地獄だろう。
この日は、勿論あちらから断ってくださるだろうと安易に考えていた。
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