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5.公爵家の掟
しおりを挟む昨夜、意識を手放したまま朝を迎え、ミルゼが目を覚ますと、ラディアスはまだ眠っていた。
その寝顔は少し幼く見えて、ミルゼは胸がときめいた。
(昨夜とは別人みたい。ラディアス様、可愛い。)
こんな幸せな朝を迎えたのは、久しぶりだった。
二年間という期間限定とはいえ、ミルゼは心から幸せを感じていた。
それは、相手がラディアスだからだということも気付いてしまった。
(離れる日が来たら、ラディアス様に笑顔で感謝を伝えなくちゃ。今日の気持ちは絶対に忘れません。)
ラディアスの寝顔を見ながら、気付けば涙が溢れていた。
その時、そっとラディアスが、涙を指で拭った。
「ミルゼ、どうした?何処か痛いのか?無理をさせて、すまなかった!」
慌てるラディアスを落ち着かせようと、強く抱き締める。
「大丈夫です。私は幸せだなぁって思ってました。そしたら、自然と…」
「そうか、それならいいが。」
ラディアスが抱き締め返し、ミルゼの髪を撫でた。
「そう言えば、ミルゼ、何故我が家は初夜が三日間あるか、誰かに聞いたか?くくっ。」
「いえ…何故でしょう…?」
突然、ラディアスが笑った。
「これは、先代の公爵夫人、俺にとってはお祖母様が決めたんだ。両親の初夜で、母上と父上が大喧嘩になり、初夜が台無しになってな。恋愛結婚なのにさ。それから二日間、寝室に二人は閉じ込められて、仲直りと初夜のやり直しをしたんだと。」
「えっ!?お義母様とお義父様が?あんなに仲睦まじい方々が…」
「喧嘩の原因がな、ほんと呆れる位、凄くバカバカしいんだ。欲情した父上がいきなり母上を襲って、ビンタされて失敗みたいな…?父上も叩くことはないだろうと譲らず、一晩中喧嘩していたらしい。それを聞いたお祖母様が『やるまで出るな!!』とキレて、仕方なく仲直りしたそうだ。それから我が家の初夜は三日間寝室で過ごすべし!とお祖母様が決定してしまい、受け継がれることになったんだ。あ、これ内緒だぞ?お祖母様が笑いながら話してくれたけど、父上と母上は俺が知らないと思ってるから!」
「ふ、ふふふっ!承知しました。お義父様もお義母様も、そんな微笑ましい過去がお有りでしたのね。それに、お祖母様、面白い方ね。ファンになりそう。」
「だろう?俺もお祖母様は大好きだよ。怒らせたら怖いけど、凄くあたたかい人なんだ。今度、ゆっくり会いに行こう。披露宴では、あまり話も出来なかったしな。」
「はい、是非ゆっくりお話ししたいです。楽しみにしていますね?」
「と、いうことで、お祖母様にも孫を見ていただきたいので、今からどうだろう?それとも、腹が減ったか?」
「お腹も空きましたし、体も清めたいですわ。」
「先に湯浴みと言いたいところだが、空腹だと体調を崩しかねないから、食事にしよう。食後は一緒に湯浴みだな。エマに話してくるから、ミルゼは少し休んでろ。」
ラディアスはそう言うと、部屋を出て行った。
泣いていたミルゼを笑わせようと、ラディアスはわざと初夜の掟の話をしたのだろう。
それに加えて、食事なども手配してくれる気遣いも見せてくれる。
(本当に素敵な人だわ、ラディアス様。)
今はこの優しさに甘えていたいと思うミルゼだった。
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