【完結】それが愛だと気付く前に〜全て賭けて私を溺愛する幼馴染は、かなりの策士でした〜

紬あおい

文字の大きさ
1 / 15

1.公女は何もかもが面倒になった

しおりを挟む

五日前、私は階段から落ちた。
目が覚めたら、私室のベッドの上で、左腕がぐるぐる巻きにされ、全身が痛かった。
これは、しばらくベッド生活だなと察した。

何故階段から落ちたのかといえば、第一皇子殿下とオペラを観に行き、彼の女性関係のトラブルに巻き込まれたからだ。

最初からオペラなんて気が進まなかったし、興奮して勝手にドレスの裾を踏んでよろけた女を皇子が庇って、私だけ階段から落ちて怪我をするなど、踏んだり蹴ったりな夜だった。
死ななかっただけセーフなのか、はたまたアウトなのか。

もう私は、全てが面倒になった。
望んでもいないのに勝手に候補にされて、嫌々やらされる皇子妃教育も、顔が良いだけで不実な婚約者も、その周りの女達も。
だから、これを機に記憶喪失の振りをすることにした。

療養という名目で、首都から遠く離れた場所に住み、のんびり暮らしたい。
自然と最低限の衣食住が確保出来れば、それでいい。
結婚なんかしなくてもいい。

カルデローネ公爵家の長女、ケヴィン第一皇子の妃候補なんて肩書も要らない。
ただのユリアナとして静かに生きたい。

その願いを叶える為に思考を巡らせていたら、兄のラシットが部屋に入ってきた。

「ユリアナ、意識が戻ったのか?」

「………」

「おい、ユリアナ、どうしたんだ?」

「あなたは…どなたですか…?」

「はぁ!?お前の兄だろ?ラシットだよ!」

「ラ、シット、様……あぁ痛い…頭がっ…」

私は頭を抱えて痛がり、気絶する振りをした。

「ちょっ、待ってろ!医師を呼ぶ!!」

ラシットは走って部屋から出て行った。

(これで、しばらく静かかしら…)

目を閉じていたら、本当に眠ってしまった。
短い時間だったと思うが、私は夢を見た。
階段から落ちる瞬間、第一皇子が他の女を抱き締めて、愕然としている場面を。
こんな時でも、殿下は顔だけは美しいのだなと思った。

次に目が覚めた時、私はうなされて汗ばんでいた。
部屋にはラシットの他に、医師のジリアン、父のカーター、母のイボンヌがベッドを取り囲んでいた。

「公女様、気が付かれましたか。お怪我の方は順調に回復されていますが、他は如何でしょう?」

ジリアンが優しい声で尋ねる。

「ここは…?あなた達は…どなた?」

皆の顔色が一気に青ざめる。

「ユリアナ、お母様よ?分からないの??」

「父さんだ!ユリアナ、どうかしっかりしてくれ!!」

父も母も信じられないという顔で私に声を掛け、ラシットは呆然としている。

「皆様、落ち着いてください。もう少し診察させていただきたい。しばらく公女様とニ人にしていただけますか?」

ジリアンは、家族を部屋から退出させ、質問をしてきた。

「公女様、記憶が曖昧なのですか?」

「曖昧というか、分からないの…あなたはお医者様?」

ジリアンは、私の顔をじっと見て、ふっと笑った。

「医師で、君の幼馴染だよ。ユリアナ、どうして嘘をつく?」

「嘘とは…?」

「君は嘘をつく時、瞬きが少し多くなって、唇の左端がわずかに上がるんだよ。何年、君の幼馴染をやってると?」

ジリアンは、自信満々な笑顔で私の頭を撫でた。

「はぁ…ジリアンには敵わないな。記憶喪失ってことにして欲しいの。もう嫌なの。ケヴィン殿下とその女達、皇子妃教育も。」

「殿下は女遊びが激しいらしいからな。嫉妬か?」

「嫉妬するほど気持ちはないわ。階段から落ちた時、ケヴィンは女を庇って、私が落ちて行くのをただ見てたのよ?やってらんないわ!」

「それは酷いな…でも、いいのか?皇子妃になれば、未来の皇后だぞ?」

「そんなもん、私に似合うわけないじゃない。私は田舎でのんびり暮らしたいわ。」

「分かった。協力するよ。ユリアナは今日から記憶喪失で、専属の医師は俺だからな。」

「うん。よろしくね!」

私とジリアンは、微笑み合った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

処理中です...