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2.嫌われ役は買って出る
しおりを挟むヴェリティと初めて対面した時、グレイシアはわざと抗戦的な態度で挑むと俺に言った。
「何で!?せっかくエミリオン殿が想い人と結ばれるチャンスなのに、何でそんな態度で挑むの?」
「だって騙されているかもしれないじゃない?」
グレイシアは至って真面目に話すが、あのエミリオンだ。
女に騙される訳がない。
一度しか会っていないが、エミリオンは只者ではないと、俺の心が警告していた。
「騙されるような方じゃないだろう?」
「いえ、お兄様は女性に関しては盲目的に執着するのよ。
あのお兄様が、帝国で憧れの公子とか言われてるのが不思議な位よ?
初恋の人のことばかり考えているから、他の令嬢には見向きもしないし、しょっちゅう公爵家の影にブランフォード侯爵家を見張らせて、気持ち悪いったらありゃしない!
まあ、そのおかげで、今回初恋の人の命の危機を救った訳なんだけど、これまでのお兄様を知ったら、ヴェリティ様に訴えられてもおかしくないレベルだわ。」
俺は、自分の考えが間違っていたことに気付いた。
「グレイシア、ちょっと確認していい?」
「何を?」
「騙されている方って…ヴェリティ様の方?」
グレイシアは呆れた顔をして俺を見た。
「当たり前じゃない!ヴェリティ様は離縁なさったばかりで、お兄様からの求婚よ?普通の女性ならドン引きよ!?」
「あはははっ、エミリオン殿も酷い言われようだなぁ!」
「笑いごとじゃないわ。でも、ヴェリティ様は双子の子持ちらしいし、エヴァンス公爵家の財産が目当てなら、断固として反対するわ。
だから、次期公爵夫人に向いているかも確かめたいの。
もし、お母様に代わる次期エヴァンス公爵夫人として相応しければ、私は迷わずサイファと結婚出来るもの。」
グレイシアは頬を染めて、俺を見た。
「そうなったら、俺、嬉しい!」
「だから、私は悪女になって、ヴェリティ様を試させてもらうわ。」
「そうか。頑張って!」
グレイシアを抱き締めて口付けると、更に赤くなり、女の顔をする。
「ねぇ、グレイシア、口付けの先もしていい?」
「今は、まだ駄目。待ての出来ない男は嫌いよ?」
「そうか…なら、待つ。」
「お兄様の結婚は陛下に急がせるみたいだから、ヴェリティ様との結婚が無事に承認されたら…」
「されたら…」
「サイファの好きにしていいわ。」
グレイシアはちゅっと口付けて微笑んだ。
「お兄様よりも先に純潔ではなくなるのは、妹として、ちょっと駄目かなぁとも思うしね。」
「えっ…エミリオン殿…確か二十二歳…童貞か…」
「内緒よ?ヴェリティ様一筋だからね。美しき初恋が実るように祈ってて?」
俺は、エミリオンが魔法使いや妖精にならないよう、真面目に祈ることにした。
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