8 / 22
7.充実の二年間と別れ
しおりを挟むそれから二年間、グレイシアは気付けば近隣諸国の言葉を五カ国語も習得し、国賓待遇の来客を迎える時は通訳として活躍した。
その際には、各国の情勢も学び、デルーミア王国だけでなく、レイグラント帝国の宣伝もし、外交にも遺憾なく力を発揮した。
ガイヤ国王もカナリー王妃も、グレイシアの急成長と活躍振りに目を見張る日々だった。
「サイファ!グレイシアを絶対に逃すなよ?」
グレイシアが留学して一年も経たないのに、ガイヤ国王は俺に言い、二年間の留学を終えて帰国する際は、国王自らグレイシアを引き留めた。
うっかり王太子に求婚した筈の帝国の公爵令嬢は、気付けばデルーミア王国にとって、なくてはならない存在となっていたのだ。
「グレイシア、すぐにでもサイファと結婚しないか?我が国はグレイシアを喜んで迎えるぞ?」
「国王陛下、この二年間、有意義な時間を過ごさせていただきまして、ありがとうございました。
兄のエミリオンに何一つ敵わないと思っていた私が、兄とは違ってもいいのだと思えた時間でした。
しかし、お気持ちは嬉しいのですが、私の一存で即答出来る立場ではございません。
私は、エヴァンス公爵家の人間です。
ここは一度帰国し、両親とも相談したいと思います。」
「そうか…分かった。」
「グレイシア、良いお返事を期待していますよ。」
グレイシアは、美しいデルーミア語とカーテシーでガイヤ国王とカナリー王妃に別れの挨拶をした。
俺は口を挟まず、グレイシアをただ見つめていた。
「荷物の整理するね。」
「送って行くよ。」
俺は学生寮までグレイシアを送り、話がしたかった。
「グレイシアは、俺と結婚したくないの?」
俺は痛む胸を我慢し、グレイシアに問い掛けた。
そして、グレイシアからは予想通りの答えが返ってきた。
エヴァンス公爵令嬢としての立場、次期公爵となるエミリオンの不毛の恋、捨てられないお互いの立場。
どれも、グレイシアの言う通りだ。
「サイファのことは、たぶん愛していると思う。
だけど…ごめんなさい…」
そして、グレイシアは十六歳、俺は十七歳。
触れるだけの口付けを残し、俺の心を掴んだまま、グレイシアは帰国した。
それから一年、グレイシアからは手紙が一通来ただけだった。
『兄の恋は叶わないかもしれません』と。
それは、グレイシアがエヴァンス公爵家を継がねばならないことを意味している。
そろそろ諦めろと周りに言われ、王太子妃候補選びは白熱したが、グレイシア以外に心が動かない。
そんなことよりも、グレイシアが来た時、次期国王として相応しい自分を見せたくて、俺は政務と外交に没頭した。
それでもグレイシアを待てず、悩みに悩んで、俺はガイヤ国王に直訴した。
「グレイシアを迎えに行ってきます。」
「この一年、私の想像を上回る程にお前も成長した。
だから、一年待とう。一年経ってもグレイシアの気持ちが変わらなければ諦めろ。
ジェスティン皇帝陛下には、私から連絡しておく。」
「御意。」
「サイファ、頑張るのよ!」
「はい、母上。」
国王と王妃という立場よりも、俺の幸せを願う親心を優先してくれる両親に感謝し、俺はグレイシアを奪いに行った。
必ずグレイシアを連れて戻ると心に決めて。
354
あなたにおすすめの小説
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
最強魔術師の歪んだ初恋
黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい
隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫
◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。
◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。
◼︎超高速展開、サクッと読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる