【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

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12.薔薇の秘密

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皇立美術館に到着し、中に入ると作品の入れ替えの為の業者が慎重に運ぶ姿があちこち見られる。
リオラとリディアは、静かに進む作業にも興味津々だ。

「部屋ごとにコンセプトを設けていますので、こちらから観ましょうか。」

エミリオン直々に案内してもらえる機会など、滅多にない経験だろうと、私も足取りが軽く感じる。

「うわぁー、これは首都の街並みですね!」

「この角度だと、時計台から見下ろした景色ですか?」

「リオラお嬢様もリディアお嬢様も、とても九歳とは思えません。流石ですね!時計台から見た夕陽と街並みです。季節によって、夕陽の見え方が違うので、四部作になっているのですよ。」

「方向や夕陽の濃淡が違うのですね。左から春・夏・秋・冬と並んでいますか?」

「そうです、ヴェリティ様も鋭いですね。絵心がないなどと謙遜されていましたが、洞察力はなかなかお見事です。」

エミリオンにおだてられ、私も悪い気はしないが、慣れていないので気恥ずかしい。
そんな私ですら、エミリオンの絵は心に響く。
大袈裟に脚色されない、有りの儘の景色。
そんな中で、日々暮らしているのだと実感する、とても現実的な景色だ。

しかし、見慣れた景色も、時期が違うと変わって見える。
人間の生きていく時間も場所も、きっとそうなんだろう。
最初の作品から、私はいろいろ考えさせられることに、漠然としたおそれや、期待を感じた。
その畏れとは、神聖なものに対する超越した何か、だった。

「さあ、次に参りましょうか。」

「「「はーい!」」」

「ヴェリティ様も、今日は私の弟子ですね!」

双子達に混ざり、私も元気よく返事をすると、一瞬意外な顔をして、エミリオンはくすくす笑った。

「エミリオン先生、こちらは薔薇園みたいですね。」

「そうです、リディアお嬢様。この帝国は、薔薇の花も有名なので、ここは薔薇だらけのお部屋にしました。」

リオラもリディアも花が好きなので、キラキラした瞳で絵を眺めている。
そして、一枚の絵にリディアの目が釘付けになった。

「ねぇ、リオラ、この薔薇、お母様の髪飾りにそっくりね!!」

大きなキャンバス一面に咲く薔薇の中から、たった一輪だけ、リディアが指差す。

「本当だぁー!お母様、見てー!!」

指差された方向を見て、私は驚いた。
まるで、髪から外してそこに置いたように、絵の中の薔薇と髪飾りは似ていた。

「本当にそっくりだわ…」

呟きながら、私はあることを思い出した。

「これは…」

「ヴェリティ様、それは…」

エミリオンが小さな囁き、この場では言わないよう目配せするので、私も瞬きで合図した。

「あっ、リディア、見て見て!こっちはうちの薔薇に似ているわ!ほら、この黄色い薔薇!!」

双子達の目線が他の絵に移ったので、エミリオンと私にこっそり話す。

「ヴェリティ様、その髪飾り…」

「そうでしたね、忙しくしていて忘れていましたが、エミリオン様からプレゼントしていただいた物でした。あの時、エミリオン様はまだ十歳か十一歳でしたでしょうか。」

「初めてヴェリティ様にお会いしたのは、私が十一歳の時です。公爵邸を抜け出して、街をふらふらしていたら、花屋で絵になりそうな薔薇を見つけて、一輪買って。その後、物珍しくて、街の散策に夢中になっているうちに迷子になってしまって、ヴェリティ様が助けてくれましたよね。」

「そうそう!公爵令息様なのに、護衛も付けずに抜け出して。たまたま私は、一人で刺繍糸を買いに行って、不安げなお顔のエミリオン様を見つけたのでしたね。高貴な令息がどうしたのかしらって思ったら、迷子で。ふふふ。」

「後日、お礼にプレゼントしたのが、その髪飾りです。まだ付けてくださっているのだと、今日お迎えに上がった時、嬉しかったです。」

「初めて男性というか、可愛らしい男の子からいただいたプレゼントですから、今も大切にしていますよ?」

「私にとっても、生まれて初めて女性にプレゼントした物で、大切な想い出です。だから、先程の絵だけでなく、薔薇の絵の中にはいつも同じ構図の薔薇が一つ紛れ込んでいます。今まで、誰にもバレていなかったのに、リディアお嬢様は凄いですね。衝撃と冷や汗が一遍に身体中を駆け巡った気分ですよ。」

エミリオンは、手で額の汗を拭う振りをして微笑む。

「他の絵にも、この薔薇は描かれていたのですねぇ…私には、さっぱり…」

「ヴェリティ様には秘密にしておきたかったなぁ。だって、俺の初恋がバレバレですからね。」

エミリオンは、片手で顔を覆って、そっぽを向いた。

「は、初恋…?」

「そうですよ、ヴェリティ様は、俺の初恋の人です。だから、絵の指導の話を引き受けたのです。よこしまな想い、盛り沢山で。ククッ。」

「……えっ…?」

「いえ、手を出すとかじゃなくて!ただお会いしたかっただけで、何かしたい訳ではありません。そこは、ご安心ください。」

私は、自分の顔が物凄い勢いで熱くなるのを感じた。
出自も大したことがなく、今まで人から好意を向けられたのは、レオリックだけだ。
それなのに、今隣で赤らむ眉目秀麗なエミリオンに、私は戸惑いが隠せない。

そして、もうしばらく、双子達には薔薇の絵を愉しんでいてもらいたいと思った。
激しく高鳴る胸の鼓動が収まるまで。
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