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20.家族の象徴
しおりを挟む私の執務室に着くと、エミリオンの護衛騎士は絵を開梱してくれた。
思っていたより大きな絵で、額縁には模様が入っている。
「「うわっ!!!」」
「エミリオン様…これは………」
その後は涙で言葉を繋げなかった。
私だけの肖像画だと思っていた絵は、私の両側にリオラとリディア、淡い色彩で描かれた背景は薔薇の花だった。
三人とも満面の笑顔で、一つの額縁に収まっている。
「きっと合格すると思って、皆様の笑顔を思い浮かべて描きました。
入学すれば、今までよりも一緒にお過ごしになる時間が減ってしまうので、ヴェリティ様が寂しくないようにと想いを込めて描きました。
額縁は、実を結ぶよう葡萄の木と、右下には皆様を見守る天使を、私が自ら彫りました。
どうですか?
お気に召していただけたでしょうか?」
「エミリオン先生、素敵です。でも、私、こんなに可愛いかしら…?」
「リオラお嬢様の可愛らしさを存分に活かせたと思うのですが…?リディアお嬢様も可愛らしいでしょう?」
「はい…リオラもリディアも可愛らしいです…」
感極まって、私は涙声だ。
「やだっ、お母様、泣かないでっ!?お母様もお綺麗に描いてくださってるわ!」
「そうよ!エミリオン先生に描いていただいたのだから、み、皆、そっくり!!天使も、すごーく可愛いわ!お母様、見て見てー!!」
慌てるリディアに釣られて、リオラも一生懸命に私の涙を止めようとしている。
「うん、ごめんなさい、泣いたりして。
悲しいんじゃないの。
リオラもリディアも、大きくなって、頑張って合格もして…何か胸がいっぱいなの…
いつまでも幼いあなた達ではなく、ちゃんと成長しているのね。
でも、急いで大人にならないで?
いつまでもお母様の可愛い子達で居て?
この絵みたいに、ずっと笑っていて欲しいの。
お母様は、あなた達をいつまでも見守るから!」
「「おかーさまーっ!」」
絵のように双子達に囲まれて、しばらく皆で涙した。
本当は、ここに父親としてレオリックも居てくれたらという言葉は、決して口に出来ない。
そのことも、私の胸をぎゅっと締め付ける。
「ヴェリティ様、お嬢様方はしっかりしていますよ。
でも、お嬢様方の母親はヴェリティ様だけなのです。この絆は永遠ですから、寂しがらなくて大丈夫ですよ。
この絵に描いた笑顔は、家族の象徴なのです。
そして、許されるなら、見守る天使は私で居たいと…」
「エミリオン様…ありがとうございます。
こんなに素敵な絵を…優しいお気持ちを…
ありがとうございます。」
「ただ、ヴェリティ様の今のこの泣き顔は、絵にせず私の胸に仕舞っておきます。」
「是非そうしてくださいませ。恥ずかしいですから。」
双子達の前で泣いたのは初めてだ。
レオリックとの歪な関係、子ども達の成長、エミリオンとの心の騒がしい関係。
私は、侯爵夫人としての立場と、一人の人間としての立ち位置がよく分からなくなっていた。
そんな時、この絵を見て、やっぱり私にとって一番大切なのは、双子達であることを実感した。
子は鎹と言われるが、必ずしも子どもが夫婦を繋ぎ止める存在とは言い切れない。
少なくとも、私はレオリックとの関係に双子達を利用する気はない。
母親への想い、父親への想いは、例え自分が親であっても、嗾けて利用するものではないからだ。
親も子も、お互いが思い遣り、愛し愛されることが、本来在るべき姿なのだ。
「エミリオン様、とても大切なことを思い出しました。
日々に流されて忘れていた気持ちを。
本当にありがとうございます。」
涙を拭った顔は、きっと酷いだろう。
でも今は、この気持ちを有りの儘に伝えたい。
私は精一杯の笑顔で、エミリオンを見た。
「私は、見たまま感じたまま想うままに描いただけです。こんなに喜んでいただけたのなら、画家冥利に尽きますね。」
エミリオンは、穏やかに笑うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、興奮したり泣いたり大騒ぎだった双子達は、侍女のコリンヌと子ども部屋に戻った。
私はエミリオンの見送りの為、そのまま執務室に留まる。
「ヴェリティ様、少しお話をしても宜しいでしょうか?」
「…はい……何かありましたか?」
エミリオンは、先程までの穏やかな顔から一変し、苦悩にも似た難しい顔をしている。
「実は…側近という名のエヴァンス公爵家の影が調べてきたことなのですが…」
不穏な気配を纏うエミリオンに、私はあることが頭に浮かぶ。
「まさか…オーレリア様が…?」
話を続けようか躊躇うエミリオンに、私は確信した。
「オーレリア様が身籠られたのでしょうか…?」
「ーーっ!?何故、それを?ご存知でしたか…」
「いえ…旦那様からは、何も伺っていません。でも、旦那様の先程の態度が今までと違って、リオラやリディアをあまり気に掛けていないように感じて…」
「そうでしたか…流石…長年ご夫婦でいらしたからでしょう…どうやら離れに女性の医者が通っているようです。最初は気の所為かと思っていたのですが、深夜にこっそりと医者が通うこと、出産を得意とする医者であることを考えると、どうやら…」
「そうですか…身籠られたなら、あと数ヶ月で分かるお話ですね…あぁ……もし…お子が男子ならば、私は身の振り方を考えなければならないのでしょうか…」
「そこが分からないので、早めにお耳に入れようと思った次第です。こんな素晴らしいお祝いの日に申し訳ありません…」
「いえ、逆に有り難いです。身籠られたお子は待ってくれません。リオラやリディアは…侯爵令嬢ではなくなる可能性もあるのですね…いろいろ想定しないと…」
動揺が隠し切れない私は、足元さえもふらつきそうだ。
「取り敢えず、学園の寮に入っていただくのはどうでしょうか。特別試験に合格した子達は、学業が忙しいので、夜は寮でも自習しています。寮自体は空きがあると思うし、我が家の権力も利用してくださって構いません。」
「なるほど…慌ただしくなるかもしれないお邸よりも、寮に入ることも、選択肢の一つとして考えた方がいいのかもしれませんね…少し考えさせてください。まずは、オーレリア様のことを確認しなければ…でも、どのように確認したらいいのかしら…」
「急にこのような話をして、申し訳ありません。考える時間も必要です。今夜は無理かもしれませんが、可能な限りゆっくりお休みください。横になるだけでも身体は休まります。しかし、何かあれば遠慮なく仰ってください。俺はヴェリティ様の力になりたいのです。今夜は遅いので帰りますが、また参ります。」
エミリオンは、私の髪を一束手に取り口付けた。
咄嗟のことで何も出来ず、私はそれをぼんやり見ていた。
そして、いつも間にかエミリオンは帰っていた。
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