【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

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21.居場所のない主 Side レオリック

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執務終わりに食堂から賑やかな声が響く。
またエヴァンス公爵令息が来ているのか。
苛立ちを覚えながら食堂に入ると、食べ散らかしたケーキが見えた。

「随分楽しそうだな。」

「何だ?来てはいけなかったか?」

冷たい声だと自覚はある。
しかし、どうにも抑えられない苛立ちは、やはり隠し切れない。

「リオラとリディアが皇立学園の特別試験に合格しましたので、お祝いをしていたのです。」

ヴェリティは言い訳するが、俺は初耳だ。
何故、このブランフォード侯爵家のあるじである俺にまず報告しないのだ。
言葉には出さないが、きっと顔には出ていただろう。
凍り付いた双子達の表情に、少しだけ胸が痛む。

しかし、俺は当たり前のように、俺の家族に寄り添うエヴァンス公爵令息が気に入らなかった。
一刻も早くその場を離れたい位に。

食堂を出て、真っ直ぐ離れに向かった。

「お帰りなさいませ、レオリック様!」

ゆっくり歩み寄って来るオーレリア。
その笑顔を見ていると、先程までの苛々が嘘のように消え去る。

「オーレリア、ただいま。体調はどうだ?」

「はい、おかげ様で大丈夫です。」

「大事な体なんだから、何か異変を感じたら直ぐに言いなさい。」

そう、オーレリアは身籠ったのだ。
初めて本邸で疎外感を感じたあの日から、俺は避妊薬を飲むことも忘れ、オーレリアに溺れた。
途中からは避妊薬などどうでも良くなる位に、身も心も優しく包み込むオーレリアを心から愛した。
守ってあげたい大切な人から、愛する人に変わったのだ。

「オーレリア、愛しているよ。愛しているのは君だけだ。」

初めて愛を囁いた時、オーレリアは俺と同じ色の瞳から、大粒の涙をぽろぽろ流した。
その時と同じ表情で、俺を見つめるオーレリア。
その涙を唇で受け止め、抱き締めると、オーレリアは不安げな顔を少し和らげた。

「レオリック様、両親に見捨てられた私を、愛してくださって、ありがとうございます。私にはレオリック様だけです。レオリック様がいらっしゃるなら、他には何も望みません。だから、どうか私を捨てないでください…本邸で何があっても、私の心だけは、いつもレオリック様と一緒に居たいのです。」

「オーレリアを捨てたりはしないよ。俺の子を身籠ってくれたオーレリアを捨てるなんて有り得ない。ずっと俺の傍に居て欲しいんだ。」

「レオリック様!」

必死にしがみ付くオーレリアを愛しく思う。
この温もりを守らなければ。
この愛おしさこそが真実の愛だ。
そして、俺はある決意が頭に浮かぶ。

「オーレリア、君の立場を今よりも確実なものとしたい。だから、そのつもりで居て欲しい。」

「……えっ…?」

戸惑うオーレリアを抱き締め、髪を撫でる。

「大丈夫、心配は要らない。全て上手くいく。」

「はい…私はレオリック様のお傍に居られるならば、それでいいのです。」

健気に俺を見つめるオーレリア。
その唇を執拗に求めると、未だに戸惑いながら舌を絡めてくる。
その口付けは俺が一から教えたもの。
心地良い優越感で俺の胸は満たされる。
しかし、身籠った体に無理はさせられないと、昂る体を何とか抑え付け、優しく抱き締める。

「オーレリア、安定期に入るまでは我慢するが、その時が来たらたっぷり愛させて?」

「はい。初めてのことなので、優しくしてくださるなら。私も待ち遠しいです。」

「ああ、俺もだ。口付けだけは毎日するからな?」

頬を染めて頷くオーレリアをただ愛しく思った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



オーレリアが穏やかな眠りに落ち、俺は湯浴みしながら一人昂るものを放出した。
ヴェリティの時は、そんな配慮なく欲情のままに貪ったが、オーレリアはやっと心が落ち着いてきたから、大事にしてやりたい。

離れに住まわせてから、しばらくは親を想って精神的に不安定だった。
今にも儚くなりそうなオーレリア。
もう片方は、俺が居ないことに直ぐ慣れて、楽しげに暮らす家族。
どちらを気に掛けたらいいかなんて答えは、あっという間に出た。
そちらが必要ないのなら、俺にも必要ない。

あんなに愛して尽くしてきた十年。
あの笑顔をエヴァンス公爵令息は、あっさり俺から奪おうというのか。
可愛くない訳はないが、今となってはエヴァンス公爵令息に声を弾ませ、懐く双子達を見ることがつらい。
いちいち頬を染めるヴェリティに至っては、怒りすら感じる。

俺には、既に両親は居ない。
流行り病を拗らせ、父が亡くなったのは、俺が十五歳の時。
結婚が遅かったので、当時父は五十歳だった。
十歳離れた母を慈しむように愛する父だった。

悲しむ暇もなく、直ぐにブランフォード侯爵となり、母とこの侯爵家をまもることに専念した。
柔らかな雰囲気を纏う母は、必死に侯爵家を護ろうと無理をして、体を壊した。

そして、たまたま街で助けた二歳年下のヴェリティに一目惚れし、十八歳でヴェリティを娶ると、俺の結婚を心から喜び、マナーも教養も不足だらけのヴェリティを、母は我が子のように育て上げた。
そして、双子を見届けて、安心したかのように父の元へ旅立った。

ヴェリティは、いつしか母のような芯の強さを身に付け、侯爵夫人として立派に執務を任せられるようになっていた。
俺が一目惚れしたあの儚げな眼差しは、いつしか侯爵夫人としての気品や強さを纏うようになっていた。

そんな時にオーレリアに出会い、俺の心は若き日の熱情を取り戻した。
少し噂話に耳を傾けるだけでも、コモンズ男爵家の懐事情は惨憺さんたんたるものだった。

「今の邸を手放し、不足分は私が清算する。オーレリア嬢は私が引き取ろう。」

こんな陳腐な提案に縋らなければならない程に、コモンズ男爵夫妻は追い詰められていた。

「オーレリアをよろしくお願い致します…」

頭を下げて去って行ったアルカスとネミリアは、もう平民だ。
元々働き者で、ただ商売が下手くそだっただけ。
きっと、もうオーレリアの元に顔は出せないだろう。

「俺の家、このブランフォード侯爵家に、俺の居場所がないと感じる日が来るとはな…ヴェリティも随分と偉くなったものだ。」

この時、俺の中の愛の形が変わったのだろう。
愛と憎しみは表裏一体なのかもしれない。
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