【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

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22.双子達の巣立ち

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リオラとリディアの皇立学園入学が決定し、私は直ぐに行動を開始した。
寮の空きを確認し、入寮の手続きを済ませてから、レオリックに話をした。
ファーガソンに伝言を頼むと、レオリックは私の執務室にやって来た。

特別試験に合格した生徒は、夜も自習をする程に大変であり、寮に入れば、侯爵邸から通うよりも負担が少なく、学業に専念出来ることを説明した。
しかし、その時、交換条件のように提案されたことは、私を愕然とさせた。

「今更相談のように言うが、リオラやリディア寮に入れることは確定なのだろう?勝手に振る舞う君が不快だが、子ども達の為にそれは許可する。だが、君は離れに移ってくれないか?執務室も離れに移したらいい。」

「離れに……ですか…?」

「そうだ。侍女は、双子の専属だった者を連れて行け。」

「それは…何故…?」

「オーレリアが身籠った。」

やはり、そうだったのだ。
エミリオンの情報よりも先に感じていた雰囲気や、レオリックの変わってしまった態度。
誓約書は、うに意味をさない紙切れだったことを、認めたくない自分が居ただけだ。

「そうでございますか…おめでとうございます。このことは、リオラやリディアには…」

「まだ伝える必要はないだろう。このまま子ども達は寮に入れなさい。その後、離れに移ってくれ。」

「承知いたしました。」

「あまりに華美でなければ、必要な物は揃えても良い。ただ、あまり本邸から持ち出さないように。」

「はい…」

「では、もう話は終わりだ。」

「あのっ!ひ、一つだけ、お願いがございます!!」

「何だ、欲が出たのか?」

見たこともないような冷たい眼差しに、私の心は凍り付く。
愛する夫に、このような目で見られる日が来るとは想像もしていなかった。

(もう…私は要らない人間なのかもしれない…)

それでも私は双子達の母だ。
最後の我儘となるだろう願いを口にする。

「いえ、私のことではなく、ジオルグをリオラとリディアの護衛騎士として、このまま派遣していただきたいのです。親元を離れる子ども達に、何か起きては大変ですので。彼の住まいは、今からでも何とでもなるでしょう。」

意外な顔をしたレオリックは、表情を緩めた。

「何だ、そんなことか。あの者の忠誠心は確かだしな。分かった。許可しよう。」

「ありがとうございます。」

「では。」

レオリックは、そのまま執務室を出て行った。

ジオルグなら信頼出来る。
双子達と三歳しか変わらないにも関わらず、伯爵家出身の四男として、礼儀も弁えており、剣術にも秀でている。
控えめでありながら、賢さを感じる子だ。
何より、リオラが兄のように慕っていて、リディアよりも心が揺れやすいリオラには、必ず心強い味方になるだろう。

私のことは後でいい。
場所が離れになろうと、やるべきことは変わらない。
今優先するすべきことは、双子達の努力を更に活かせるようにして、安全も考慮しなければならない。

「よし!!!」

私は気合いを入れて、双子達を送り出すことにした。





そして、月日はあっという間に流れ、双子達がブランフォード侯爵家を巣立つ日がやって来た。
今度こそ忘れずにと、ファーガソンに伝言を頼んだが、レオリックは姿を見せなかった。
双子達は何も言わない。
だから、父親の分も私がちゃんと見送ればいい。

「リオラ、リディア、気を付けて行くのですよ。」

「お母様、ずっとのお別れみたいなお顔をなさらないでください!」

「学園は馬車で半日掛からないのですから、直ぐに帰って来られる距離です!」

双子達に言われて、初めて自分がそんな情けない顔をしていたことに気付く。
これではいけない、無理にでも笑わなければ。

「ごめんね、寂しい気持ちが出てしまったのね。でもね、リオラもリディアも、お母様の誇り。愛してまない子ども達。あなた達を信じているわ。努力は必ず報われる。だから、努力し続ける人になりなさい。」

「「はい!!」」

涙目の双子達が作る懸命な笑顔。
だから、私も必死に笑おう。

「ジオルグ、この子達を頼みますよ。この子達が学んでいる間は、あなたも学ぶ時間を持てるように配慮します。」

ジオルグは、少し戸惑って聞き返した。

「私…も、ですか?読み書きは出来ますが…」

「今以上にリオラやリディアの為に尽くして欲しいの。何れ一緒に、社交の場に出ることもあるでしょう。その為に知識や教養が必要になって来るわ。その覚悟をしてもらえないかしら?」

はっと息を呑むジオルグは、瞬時に察したらしい。

「この先も…お嬢様方に仕えさせていただけるのですね…承知致しました。私、お嬢様方の護衛騎士に相応しい者になれますよう、精進して参ります。」

「うわぁー、ジオルグもお勉強するのね!私も負けてらんないわっ!でも、教えてあげてもよろしくてよ?うふふっ!」

リオラは諸手を挙げて喜んでいる。
それを見ながら、リディアがくすくすと笑った。

「リオラお嬢様、勉学は他者との勝ち負けではなく、己との闘いでございます。ですから、勉学はリオラお嬢様と競うことはありません。競うなら剣術です。今のリオラお嬢様に負ける気はしませんが。」

笑いもせずに話すジオルグに、リオラがぷぅと頬を膨らませる。

「ジオルグ、見てなさいよ?いつか剣でも負かしてみせるわっ!」

「楽しみにしています、リオラお嬢様。」

この時、不敵に笑うジオルグの瞳に、リオラに対する想いの欠片を見たような気がした。
リオラがそれに気付くのは、まだまだ遠い未来かもしれないし、その想いの行方は誰にも分からない。

(若いっていいな…)

視線を感じ、そっと見返すと、リディアがまたくすくす笑っていた。

「「お母様、行って参ります!!」」

元気に巣立つ双子達の笑顔を胸に焼き付け、私はこの先何があろうと、あの子達の母親の地位だけは誰にも譲らないと心に決めた。
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