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28.エヴァンス公爵夫妻の条件
しおりを挟むそれから数日後、いろいろ驚いて、かえって身体がしゃきっとしたのか、立ち上がり椅子に腰掛けられるまでに回復した。
そのタイミングを見計らっていたのか、エミリオンはエヴァンス公爵夫妻との面会を申し出た。
「両親はいつでも時間を作ると言ってくれましたが、そろそろ話をしてもいいでしょうか?」
「はい、よろしくお願い申し上げます。」
そして、その面会は直ぐに叶った。
私はコリンヌが持って来たドレスが、エミリオンからの贈り物だと気付いたが、ブランフォード侯爵家からは大した物が持ち出せなかったと察し、そのドレスを着ることにした。
落ち着いたショコラ色のドレスは、まるでエミリオンの瞳のようにも見えるし、子どもを持つ侯爵夫人の装いにも見える。
自信過剰になってはいけないと、自分を律し、エヴァンス公爵夫妻との面会に臨む。
そしてエミリオンは、なるべく歩かずに済むようにと、私が滞在させていただいている部屋の向かいの部屋を選んだ。
何日も前から準備してあったのか、十五人は座れそうな応接セットのソファが置かれていた。
「今日はコリンヌも居て欲しい。」
「えっ!?」
「いいから座って?ヴェリティ様は俺の隣ね。」
ソファに、エミリオン・私・コリンヌの順で横並びに座る。
私もコリンヌも緊張で手が震えている。
お互いに指先だけそっと握り、やっと少しだけ落ち着いた感じだ。
「すまない、待たせたか?」
「お待たせして、ごめんなさいね。」
「…………失礼致します…」
扉が開き、エヴァンス公爵夫妻と若い女性が入って来た。
「ヴェリティ様はご存知だろう。父のグラナード・エヴァンス公爵、母のファビオラ夫人と妹のグレイシアだ。」
「はい、存じ上げております。ご無沙汰しておりました。今日はお忙しいところ、お時間をいただきまして、ありがとうございます。ブランフォード侯爵家のヴェリティです。隣におりますのは、侍女のコリンヌです。」
顔が引き攣って、声が上擦った気もしたが、グラナード公爵もファビオラ夫人も、微かに笑顔を浮かべている。
グレイシアだけが牽制しているような表情に見えるが、それは当然のことだ。
「急病とはいえ、エヴァンス公爵家様にご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません。そして、いろいろお気遣いをいただきまして、ありがとうございます。まだ体調が完璧ではなく、座ったままでのご挨拶で失礼いたします。」
先ずは、謝罪とお礼を言いたくて、真っ先に口を開いた。
「いや、こちらこそ、息子が勝手にお連れしたと聞いている。寛いだ体勢で良いよ。この状況で、ヴェリティ殿は意識が戻った時、随分戸惑っただろう?」
「……はい…あっ、いえ、大丈夫です!」
ファビオラ夫人は、エミリオンと同じ琥珀色の目を細めて、くすりと笑った。
「そんなに緊張しなくていいわ。エミリオンからは事情を聞いていますから。あまり時間が長くなると、お身体に負担でしょうから、私と夫からの条件を話すわね。先ずは、あなたお願い。」
そして、グラナード公爵が提示した条件は、驚くべきものだった。
「先ず、ブランフォード侯爵とは離縁してもらう。
愛人を私達が指定する男爵家の養女にし、ブランフォード侯爵と結婚させ、正式な侯爵夫人とする。」
「…っ!?」
「そして、ヴェリティ殿は、書類上は一旦生家のワーグナー伯爵家に戻り、即日エミリオンと婚姻を結ぶ。
書類上というだけなので、実際にワーグナー伯爵家に戻ることなく、このままエヴァンス公爵家に住んでもらう。
これで、対外的にも正式な公爵夫人となる。」
「ーーっ!?」
「但し!ここからが一番大事な条件だ。
エヴァンス公爵家は、皇宮に優秀な人材を輩出することで、皇帝陛下への忠誠を体現している。
その仕事に真摯に取り組んでもらいたいのだ。
エミリオンからは、双子の令嬢達だけでなく、ここに来てもらったコリンヌや、令嬢達の護衛騎士にまで教育を受けさせていると聞いている。
身分に関係なく、優秀な人材を活かすこと。
その行動は、このエヴァンス公爵家が最も大切にしている信念と同義だ。
どうだ?やってみないか?」
「ーーーっ!?」
私は、自分の存在価値を否定された人間だ。
そんな私に、何が出来るだろうと、直ぐに答えられなかった。
そんな時、コリンヌが口を開いた。
「私がこんなことを申し上げていいか分かりませんが…」
「コリンヌ、大丈夫だ、話してごらん。」
エミリオンが、コリンヌの背中を押すように微笑む。
「ヴェリティ様は、私のような者にも、未来を見据えて学びなさいと仰ってくださる、優しくて素敵なお方です。
ブランフォード侯爵家で離れに移られて、お仕事が終わると、私にいろいろ教えてくださいました。
しがない男爵家の生まれの私が、エヴァンス公爵令息様にお手紙を書こうと自信が持てたのも、ヴェリティ様のおかげです!
ヴェリティ様の居場所があんな離れだなんて、悲しいです。
どうか…どうか、ヴェリティ様を…助けてください…」
コリンヌは、一気に話すと静かに泣き出した。
私はコリンヌの肩を抱き、そっと摩った。
「ヴェリティ殿、コリンヌの目を見たか?しっかりと自分の役目を果たそうとする、この輝き。この愛弟子のように、他の子達も育ててみないか?」
私の顔を覗き込むグラナード公爵は、真剣だが優しい光を湛えた目をした。
「私に…出来るでしょうか…」
「それを見極めたいからこその条件だ。
条件などと堅苦しい表情をしたが、自分の経験を活かして人を育てるということは、素晴らしいことじゃないか?
今、ヴェリティ殿は過去を振り返って、自分の存在価値を疑っているだろう?
しかし、ヴェリティ殿がしてきたことが身を結び、双子の令嬢達は最難関の特別試験をパスし、もうすぐ十一歳なのに大変優秀だと報告を受けている。
今、目の前でヴェリティ殿を思って泣いているコリンヌを見ても、人との関わり方が素晴らしいのは分かった。
その経験を活かす場を得てみたくないか?」
「やらせていただけるのなら…」
「よし、決まりだ。」
グラナード公爵は、ぱちんと手を打った。
「ちょっと待ってください、お父様、お兄様は嫡男です!嫡男の妻が子持ちって!?」
その時、今まで黙っていたグレイシアが声を上げた。
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