31 / 90
30.双子達の帰宅 ①
しおりを挟む皇立学園に入学して、初めての長期休暇。
リオラとリディアは、母のヴェリティに会えるのを、それはそれは楽しみにしていた。
ジオルグは、休暇中も護衛騎士として帯同するので、今は三人で学園の寮の外に出て待っていた。
「エミリオン先生がお迎えに来てくださるって。お母様はお忙しいのかしらね…」
「きっとそうよ。今までだって執務でお忙しかったし、お母様は手を抜くことをなさらないから。」
母を心配しつつ待っていると、エヴァンス公爵家の豪華な馬車がやって来た。
「お待たせしてしまったかな?リオラお嬢様、リディアお嬢様。ヴェリティ様がお待ちなので、早速参りましょう。」
「「はーい!」」
「ジオルグも一緒に乗りなさい。」
「はい。」
そして、すぐさま馬車でヴェリティの元に向かった。
途中、リオラは騎士養成科の話、リディアは外国語科の話を楽しそうに話し、エミリオンとジオルグは専ら聞き役専門だ。
女の子の話は尽きないのだなと、エミリオンは楽しんで聞いていた。
「あれ?ブランフォード侯爵家に行くのではないのですか?」
わいわい話していた筈のリディアが気付いた。
「すまない、事情があって、エヴァンス公爵家に向かっている。到着したら、きちんと話すつもりだったんだ。」
勘の良いリディアはこくりと頷いたが、リオラは少し戸惑っている。
「お母様に…何かあったのですね…?」
落ち着いて思慮深いリディアと反対に、無邪気でマイペースな性格のリオラは、学園生活で心境の変化があったのか、以前よりも大人びている。
そして、エミリオンの顔を真っ直ぐに見た。
「ヴェリティ様は、今エヴァンス公爵家に滞在されている。」
「分かりました。お母様の口から聞かせてください。」
「私もその方がいいと思う。ヴェリティ様も、きっとそう思っていらっしゃるだろう。」
久しぶりに母に会えると楽しみにしていた双子達は、この後の話をどう受け止めるか、エミリオンは心配していたが、きっとこの二人は大丈夫だと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エヴァンス公爵家に馬車が到着すると、ヴェリティは小走りで双子達を迎えた。
「リオラ、リディア!!お帰りなさい。会いたかったわ!!」
「「おかぁさまぁーーー!!」」
馬車の扉が開いた瞬間、双子達は飛び降りてヴェリティに抱き付いた。
久々の再会に、三人は涙して喜んでいる。
エミリオンとジオルグは、それをじっと見つめていた。
「お母様、少しお痩せになりましたか?」
肩にしがみ付いていたリディアがヴェリティの変化に気付くと、リオラが体のあちこちを触る。
「お母様、お体が薄くなってます…何があったのですか!?エミリオン先生は、お母様から聞いた方がいいって…」
「お部屋で話しましょう?荷物はコリンヌの頼んで。」
「「はい!」」
ヴェリティは、双子達をもう一度抱き締め、エミリオンが準備してくれた部屋で話すことにした。
「ジオルグ、君の部屋も準備したがどうする?実家に戻ってもいいぞ。」
「いえ、私はお嬢様方の護衛ですから。それに、今リオラお嬢様を放っておけない気がします…」
「分かった。今日は部屋で休んで、明日からまた頼んだよ。」
「畏まりました。」
ジオルグは荷物を持ち、侍女に連れられ部屋へ、エミリオンはヴェリティと双子達が揃う部屋へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋のソファには、ヴェリティの両側に双子達、コリンヌは母娘達に寄り添うように立って待っていた。
目の前のお茶や菓子には手を付けていなかった。
「お茶を飲みながら、落ち着いて話そう。しばらくここには誰も来ない。コリンヌは、そちらに掛けなさい。」
エミリオンは、穏やかに微笑んだ。
「お母様、私もリディアも、何を聞いてもお母様の味方です。」
大人びたリオラに、ヴェリティは少し驚いたが、全てを打ち明ける決心をした。
「リオラとリディアが学園の寮に向かった翌日から、私は離れで暮らしていたの。」
そのひと言で、リディアの顔付きが一変した。
しかし、口は閉じたまま、ヴェリティの話に耳を傾ける。
そして、オーレリアの妊娠や離れでの暮らし、高熱で体調を崩したこと、父であるレオリックに嫡男となる子が産まれたこと、エヴァンス公爵家に滞在することになった経緯までを、事実のみ話した。
リオラは途中から静かに涙を流し、リディアは努めて冷静で居ようとするが、その手は震えていた。
「こんなことになって、ごめんね…楽しみに帰って来た筈なのに…」
ヴェリティは、双子達に謝るが双子達は即座に否定する。
「お母様は何も悪くありません!ねっ、リディア?」
「そうです!全てあの人の所為です。何が『大切な人』よ!!ただの愛人じゃない!!!」
リディアが初めて人前で怒りを露わにした瞬間だった。
「お母様、お身体は大丈夫なのですか!?」
「ええ、コリンヌがお手紙を書いてくれて、エミリオン様がこちらに連れて来てくださって…今は良くなったわ。」
「良かった!エミリオン先生、ありがとうございます。」
「コリンヌもありがとう。」
リオラとリディアは、少し落ち着いたが、まだまだ話し足りない。
「オーレリアとかいう愛人は、ブランフォード侯爵家を乗っ取るつもりでしょうか?」
まだ子どもの筈のリディアの口から出た言葉にヴェリティは驚いたが、エミリオンは穏やかに話し始める。
「リオラお嬢様とリディアお嬢様は、ブランフォード侯爵家にヴェリティ様を戻したいかい?」
「あんな離れにお母様を戻すなんて、有り得ません!お母様がお父様と離縁なさるなら、私は学園を辞めてでもお母様に着いて行きます。」
「リディアの言う通りです。愛人が来てから、お父様は変わってしまいました…あんな人、もうお父様と呼びたくありません。お母様は、ずっと頑張ってきたのに…何で!?」
喚く訳でもなく、静かに涙を流す双子達の肩を、ヴェリティは優しく抱き締めた。
「リオラ、リディア、俺が君達の父親になってもいいだろうか?」
エミリオンの口から出た言葉は、双子達を驚愕させた。
1,291
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる