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85.それぞれの場所で
しおりを挟むシェノンとリアンが生まれて半年。
寝返りが打てるようになり、エミリオンは大人のシングルサイズのベッドに柵を付けた。
何をしても器用なのか、自作で外側には天使の彫刻が施されている。
「エミリオン様、その天使はあの絵の額縁と同じですね!」
「おっ?気付いたかい。そうだよ。また家族の絵も描かなきゃな。シェノンとリアンのスケッチはたくさんあるんだ。」
「アルバムみたいですね。キャンバスに描く大きな絵もいいですが、エミリオン様が描く小さなカードは、いつも持ち歩けて大好きです。
リオラやリディアは宝物にしていますわ。」
「そう言ってもらえると嬉しいものだな。
趣味で描き始めた絵だが、いつの間にか商売になって、正直つまらなかったんだ。
だから、家族の絵を描いている時は心が休まるんだ。」
エミリオンの絵は、その辺の貴族の邸が一つ買えるとグレイシアが笑っていた。
でも、エミリオンが絵筆を握る本当の理由は、ヴェリティを描きたかったからだ。
「記憶だけで描いちゃうなんて、本物の変態よね。」
グレイシアは爆笑していたが、それがエミリオンが天才と言われる理由の一つであった。
「エミリオン様の絵には、人を癒やす力があるみたいです。」
「絵、だけか?」
エミリオンに顔を覗き込まれ、ヴェリティは首を振る。
「エミリオン様の存在全てが、です。偶然の出会いから今まで、あなたでなかったら、きっと私はあのままでした。
あなただから、到底叶わない筈の今の幸せがあるんだなって。」
「もっと贅沢もさせてやれるぞ?」
エミリオンはにやりと笑う。
「いえ、これ以上、贅沢など望みません。こう言ったら変に思うかもしれませんが、私はエミリオン様となら、平民でも構わないと思ったりします。
心と心がしっかり繋がった夫婦で居られたら、それだけで幸せです。
現実には、子ども達がおりますから、そんな甘いことは言っていられないのですが…」
「ヴェリティの言いたいことは分かる気がするよ。
でも、万が一このエヴァンス公爵家が没落しても、俺の私産は恐らく一生遊んで暮らしても、まだ余るな。あちこちに隠してあるしな。あははっ!」
「えっ…でも、無駄遣いはいけませんわ。」
「そんなヴェリティだから好きなんだよ。でもね、エヴァンス公爵家の者は、経済を回すことも使命だから、そこはヴェリティも妥協してくれよ?」
「はい、分かりました。」
エミリオンは、未だに贅沢をしないヴェリティをさり気なく着飾らせることが一番大変だと思っていた。
「グレイシアの結婚式は、デルーミア王国で執り行うが、その前のジェスティン陛下の即位二十周年記念パーティは、グレイシアの結婚と、リディアも皇太子妃教育が順調だから、婚約者として発表されるだろうし。
エヴァンス公爵家の一大イベントになりそうだ。
我が家全員、お洒落して行くからな。」
「あっ…そうなりますね…」
「サイファもエルドランドも、俺を見ていたからか、絶対に逃がさないって勢いだからな。
俺みたいに気が長くないんだよ、あいつらは。」
「っ、ふふふっ、気が長いって。その熱量のおかげで、私も双子達も幸せなんですね。
グレイシア様は、記念パーティの時には帰国なさるんですよね?」
「そうだ。きっとシェノンとリアンに会ったら、また大騒ぎだな。
産まれた時は、デルーミアに挨拶に行っていたし、そのまま王太子妃教育の残りと言うサイファの策に嵌ったからな。
貴族への挨拶からウェディングドレスの仕立てまで、サイファは次から次へと用事を作って、グレイシアを離さないらしい。
甥っ子に会わせない気か!?って、サイファに文句たらたらだったらしいけど、サイファが離れたくないって、泣き落とししたみたいだ。
サイファとしては、貴族への紹介は譲れなかったようだ。グレイシアの今後の為に。
サイファなりに、結婚前から、グレイシアの立ち位置を強固なものにしておきたかったんだろうな。」
「まあ、愛されていらっしゃるのね、グレイシア様は!」
思い起こせば、サイファがグレイシアを見つめる瞳が熱くて、グレイシアが少し照れた顔をして、微笑ましくて、本当にお似合いの二人だ。
「リディアも、学業とエルの相手で、グレイシアと変わらない日々を送っているじゃないか。
グレイシアより安心なのは、リオラとジオルグが騎士の練習生として、近衛騎士団に入ったことかな。
練習生どころか、既に優秀で皇宮の一部を任されている日もあるそうだ。
学業にも手を抜かないリオラに、ファンが出来て、ジオルグがたまに嫉妬しているような?
まあ、リオラもしっかり者だから、ジオルグも溺愛みたいだな。
ジェスティン陛下のおかげで、国は安泰だし、リオラやジオルグが戦争に向かうことはないだろう。
本格的にリディアの護衛騎士となることも有り得るな。」
近衛騎士団には、女性騎士の先輩も居て、リオラには刺激的な環境かもしれない。
ジオルグとの恋も順調に育んでいるようで、ヴェリティとしては、こちらもまた微笑ましい。
「シェノンとリアンには、どんな未来が待っているでしょうね。
長生きして、ずっと見守っていきたいですね!」
「もちろんだ。俺は、ヴェリティと末永く一緒に暮らしたいし、子ども達の幸せも見届けるさ。
父上や母上も、きっと長生きしてくれる気がするんだ。」
「そうしていただかないと困ります。誰一人、欠けることなく、永く永く幸せに暮らしましょう。」
ヴェリティは、この頼りになる夫エミリオンがそう言えば、必ずその通りになる気がした。
「おっ、ヴェリティ、シェノンとリアンがお座りをしている!
これは、父上と母上にも知らせなくては!!」
ベッドの方を見ると、シェノンとリアンがきょとんとしながら、ヴェリティとエミリオンを見ていた。
目が合うと、きゃっきゃと笑い声を上げる。
(こんなふうに、赤子の初めての瞬間に、エミリオン様と立ち会えるなんて!何て幸せなんだろう。リオラやリディアの時は、一人でも幸せに感じたけれど、夫婦で立ち会えるのって、素敵なことだったのね。)
「「シェノンンンンーーー、リアンンンンーーー!」」
「じぃじとばぁばが来ましたね、シェノン、リアン。」
ヴェリティは、グラナードとファビオラの歓喜の雄叫びを聞きながら、幸せに浸るのだった。
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短編も公開中です
『数多と唯一』 3話完結
偉そうな夫が実はチョロかったというお話です
よろしければ、ご訪問ください
思い付きで短編を公開したりしますので、作者をお気に入り登録していただけますと嬉しいです
よろしくお願いいたします╰(*´︶`*)╯♡
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