【本編完結・新章スタート】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

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86.即位記念パーティ

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月日の経つのは早く、今日はジェスティン皇帝陛下の即位二十周年記念パーティだ。
デルーミア王国に行っていたグレイシアもサイファを連れて帰国し、エヴァンス公爵家一同登宮している。

「あーあ、せっかく帰って来たのだから、シェノンとリアンともっとゆっくり遊びたかったのにぃーーー!」

「「明日、ゆっくり遊んであげてください!」」

グレイシアだから不敬にならないが、皇宮でとんでもないことを言い出す。
リオラやリディアは、そんなグレイシアが大好きだ。

「っ!?また、お前か、グレイシア!いい加減、その口を何とかしろっ!!」

グラナードは叱りながら、これからはこの光景を見ることはなくなるのだと思うと、切なかった。
もちろん、周りの皆も。

「やだっ、お父様、怒りながら泣いてる!?」

そんなグレイシアも分かっているのだ。
エヴァンス公爵令嬢としてパーティに参加するのは、これが最後だと。

ぴしゃりっっっ!!!

ファビオラの扇の音がした。

「グラナードもグレイシアも、結婚したからって親子の絆が切れる訳じゃあるまいし、地味にメソメソしなさんなっ!!
我が家には、シェノンとリアンという『幸せを繋ぐ絆』が新たに生まれたんだから、大人達もシャキッとしなさい。」

「そうだな、デルーミアならすぐ行けるし!
何ならエミリオンの私財で別荘でも建てるか?
シェノンとリアンが、グレイシアみたいに留学するかもしれないしな。」

「はいはい、いいですよ。別荘でも娯楽施設でも、好きな物を建てて、皆で遊びに行きましょう。」

グラナードの発言を面白がりながら、エミリオンは、ついでに楽しげに提案する。

「シェノンとリアンは、語学はグレイシアとリディア、剣術はリオラとジオルグ、絵は俺が教えるし、ピアノやヴァイオリンはエル、算術や経営や人たらしはヴェリティから習えばいいから、将来的に明るいですね。」

「ちょっ、人たらしだけ別物では!?」

「間違ってはいないわねぇ。ふふ。」

「お義母様までっ!?」

ヴェリティは抗議するが、皆、特に反論はないようだ。

「さあ、そろそろ陛下のお出ましだ。行くぞ。」

パーティ会場は、たくさんの貴族が集結していた。
この日は、子爵家から公爵家まで一同に介して陛下の即位を祝うのだ。

リオラは、緊張しているリディアに付きっきりで、二人は口数が少ない。

高らかにファンファーレが響くと、ジェスティン陛下、エレノア皇后陛下、エルドランド皇太子殿下が登場した。

「私の即位二十周年記念パーティに集まってもらって、ありがとう。
このレイグラント帝国の平和は、そなた達や、治める領地の民の努力あってのものだ。
先ずは、それに感謝の意を伝えたい。
皆の者、いつもありがとう。」

会場からは拍手が湧き起こる。

「そして、皆に報告したいことが三つある。
一つ目は、エヴァンス公爵家のリディア嬢を皇太子エルドランドの妃に決定した。
これは、エルドランドの意思が非常に固いことだけでなく、皇立学園の早期入学試験に、史上最年少のタイ記録で優秀な成績を収めたリディア嬢は、そのままの成績を維持しており、稀に見る才女だ。
しかも、既に皇太子妃教育まで終了している。
人柄だけでなく、エルドランドを真に支えていける者と判断し、本日婚約し、学園の卒業を待って二年後に婚姻を結ぶこととなる。」

ジェスティン陛下の言葉に、一斉に注目を浴びたリディアは、その場で素晴らしいカーテシーを披露した。
その気品溢れる所作に、自然と拍手が湧き起こった。

「そして二つ目は、エヴァンス公爵令嬢のグレイシア嬢が、デルーミア王国の王太子妃となることが決定した。
グレイシア嬢は、二年の留学期間、五ヶ国語を習得し、通訳となってデルーミア王国の外交政策に貢献していた。
その際、サイファ王太子と出会い、愛を育んで、この度、実を結ぶこととなった。
デルーミア王国とは、強固な絆を結ぶこととなり、帝国の安泰を誓い合った。
二人は、きっと良き王と王妃になると、私は確信している。」

祝福の拍手喝采に、グレイシアとサイファはお辞儀で応える。

「最後の三つ目は、これから三年、帝国に貢献した者を叙爵または陞爵する。
先の二つはエヴァンス公爵家の話だったが、公平性を保つ為に、この機会を与える。
無論、叙爵や陞爵には厳しい審査は入るが、一代限りではなく永続的な爵位を与える。
なので、しっかりと個々の実力を磨き、国益に貢献するよう励んで欲しい。」

会場は、先程までの祝福から響めきに変わり、騒然としている。

「これは、皆に与えられたチャンスだ。最初の期限は今から三年だが、それ以後も継続していきたいと思っている。
皆で帝国を盛り上げてくれるよう願っている。」

ジェスティン陛下は、微笑みながら会場を見渡した。
その目には、後継ぎになれない子息令嬢の才能を見い出したいとの願いも含まれていた。

「では、皆、グラスを持て!」

ジェスティン陛下の声に一同グラスを掲げる。

「レイグラント帝国に幸多かれ!」

「「「レイグラント帝国万歳!皇帝陛下万歳!」」」

決して容易い道ではなくとも、努力すればする程に報われる道が拓けたのだ。
誰かが失った爵位が割り振られるのではなく、実力で勝ち取る地位と名声。
湧き上がる歓声に、ヴェリティはこの平和なレイグラント帝国の底力を見た気がした。




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