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2.次の婚約者
私、リルア・リュグランは公爵家の長女として、生まれながらに婿を取り公爵家を継ぐ立場にあった。
そして、祖父達の軽い口約束が何故か書類化され、父の代で叶わなかったリュグラン公爵家とゼスト侯爵家の子の婚姻が、私が産まれた瞬間効力を発揮した。
しかも、お相手となる同い年のオリヴァー・ゼスト侯爵令息は、初めて会った三歳の時から美しい男児であった。
私は即座に一目惚れし、オリヴァーとの未来に向けて、幼い頃から努力してきた。
金髪翠眼の眉目秀麗なオリヴァーは、社交界でも人気の侯爵令息だが、私の妹のミエルがいつも隣に居た。
私は父似の銀髪翠眼だが、ミエルは母に似てやわらかな蜂蜜色の髪で瞳は琥珀色だ。
姉妹でも見た目の違う私とミエルは、姉の方は冷たく気難しい、妹は可愛らしいと言われている。
そんな可愛らしい妹をオリヴァーが可愛がるのは当然だと私は思っていたが、デビュタントを機に、それは恋愛感情から来るものだと感じていた。
実際、以前から婚約者のお茶会にミエルを誘うのもオリヴァーであったし、ミエルが話し出すと私は口を挟む隙もなかった。
ある日のお茶会は、ミエルがオリヴァーの好きな小説の続刊を手に入れたと盛り上がり、別の日はオリヴァーの最近好きなお茶の話題となり、オリヴァーの最新情報を、私はその場でミエルから聞くのだった。
ここ一年は、ミエルの話が盛り上がる前に、私は忙しいからと執務を理由にお茶会を退席し、引き留められることもなく、その場を離れた。
ガゼボで話に花を咲かせる二人の声を聞きながら、いつしか私はこの恋を諦めていた。
だから、父が思ったよりも早く動いてくれたことを知った時、正直胸の閊えが下りた。
しかし、それも僅かな時間で、父から伝えられた次の婚約者に私は驚かされた。
「リルア、お前の婚約者として、第二皇子殿下が申し出た。
第二皇子殿下は、此度の辺境地の紛争を制圧し、辺境伯を授爵された。
第二皇子殿下のたっての希望で、リルアを娶りたいそうだ。」
「ーーーはっ!?」
私は、冷たく気難しいと他人から評価される人間だ。
生まれてから記憶する中で、この瞬間が一番まぬけな顔をしていただろう。
第二皇子のヴェルシス殿下は、確かにパーティで壁の花の私と踊ってくれたが、あまり話をしたことがない。
「殿下が………私を…?」
「ああ、そうだ。お前の婚約解消の話を耳にして、是非リルアを娶りたいと陛下に直訴したそうだ。
私としては、可愛い娘を辺境地へ送ることは本意ではないが、望まれて嫁ぐのも幸せかもしれないと、一旦この話を持ち帰ったのだ。
リルア、どうだ?第二皇子殿下との婚姻を受け入れるか?」
ヴェルシス殿下は、オリヴァーとは全く違うタイプだ。
皇族特有の黒髪と深い海のような碧眼であり、騎士をしているので体も大きい。
端正な顔立ちだが、口数は少なめで物静かな中にも威圧感もあり、近寄り難い存在でもある。
「殿下が望んでくださるなら、お受けいたします。」
「そうか。ならば、陛下に早速申し伝えよう。
辺境地は殿下が制圧したとは言え、まだ不安定な地だ。
早急に移住して様子を見たいので、リルアの了承が得られれば、即座にアルカロイドへ向かいたいとのことだ。良いか?リルア。」
「はい、すぐにでも荷造りをいたします。
しかし、こんなに急なお話で、持参金などは如何いたしますか?」
「その点は心配いらない。リルアが執務を上手く回してくれていたおかげで、私は事業に専念出来ていた。
どこかへ嫁がせるミエルの為に多めに準備していた資金をリルアに使うだけだ。
今まで何も配慮しなかった父と母の償いだと思ってくれ。
それに、殿下はリルアにその身一つで来て欲しいとも仰った。
その言葉を聞いて、私はリルアを殿下に託そうと思ったのだ。」
「第二皇子殿下が…そこまで…?」
「ああ、帝国の盾とは思えない位に、殿下はとても穏やかな表情だった。だから、安心して殿下をお支えしなさい。」
「承知いたしました。その代わり、ミエルとオリヴァー様には、私がここを出るまで何も言わないでいただけますか?」
「…っ……分かった…そこまで追い詰めていたこと、すまなかった。」
父との話が終わり、私は急に肩の力が抜け、呆然としたままソファに沈んだ。
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