妹に婚約者を奪われた公爵令嬢は只今辺境伯に溺愛されています

紬あおい

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50.酒宴と月明かり




「さあ、出来たぞ!」

ヴェルシスの声に皆が焚き火を囲み、料理を手にする。

「鶏を蒸し焼きにしたんだ。この肉汁にバターと少量の塩と白ワインを加えてソースにする。
白ワインのアルコールは飛んでしまうから、三つ子も食べられるぞ。」

ヴェルシスが鋳物鍋ココットの蓋を開けると、タイムと思われる香草の良い香りがして、バターの風味が合わさると食欲をそそる。

「「「ちちうぇー、お腹空きました!!!」」」

「ほら、食べなさい。熱いからふーふーするんだぞ!」

「「「「「 うわっ!?」」」」」

「「「「「ふーふーっ!?」」」」」

父の顔で三つ子に接しているヴェルシスに、騎士達が驚きの声を上げた。

「お前ら、食べないようだな?」

「いえ、いただきます!皆、主君がお優しいので、驚いているだけです!!」

「俺はいつも優しいだろう?」

びくびくする騎士達に笑い掛けるが、震え上がらせるだけだったようだ。

「父上は、母上にはもっと優しいです…」

村で購入したパンに鶏の香草焼きのソースを付けながら、のんびり食事をしていたレオンが呟くと、その場は笑いに包まれた。

「レオン坊ちゃんの言う通りだな!」

「何てったって、この君主様は奥様とダンスを一曲踊る為だけに、戦地から飲まず喰わずで三日も馬を走らせるお方だからな!」

「ちょっ、ハルト!アンドレ!余計なことを言うなっ!!」

「今更照れないでくださいよ。本当のことじゃないですか!
大した話も出来ないのにパーティに駆け付けて、一体何頭の馬を牧場行きにしたんだか…?」

「ハルトは、この焚き火の寝ずの番をしたいらしいな。」

「えっ………」

「ほら、皆、焚き火の番人は決まった。心ゆくまで呑んで食べろ!ワインならたくさんある。」

「「「「「 ハルト、頑張れよー!」」」」」

賑やかな夕食と笑い声、すっかり馴染んでいる三つ子は、まるで大家族のようだ。

最低限のマナーと野性味溢れる食事。
私の知る世界は、とても小さな世界だったんだと感じた。

淑女で居なければ、執務を熟さねばと、自分を追い込んだ末に、冷たく気難しい女とレッテルを貼られた。
弱音すら吐けない毎日を過ごしていた日々もあった。

「楽しいわ…」

思わず口にすると、ヴェルシスが肩を抱いて笑う。

「そうか、良かった。リルアの笑顔が俺にはご馳走だ。」

酔って歌い出す騎士達の声と、手を繋ぎ踊る三つ子の燥ぐ声に紛れ、ヴェルシスの囁きは私にしか聞こえない筈。

「ヴェルシスで良かったと何度でも思うの。愛してる。私を選んでくれて、ありがとう。」

片手で顔を覆ったヴェルシスは、耳まで赤くして照れた。

「そんなこと言うと、我慢出来なくなる。リルアは俺を試しているのか?」

「さあ、どうかしら?ふふふ!」

くすくす笑いながら、月明かりを見上げる。
いつかの月のような蒼白の月明かりではなく、澄んだ空気と若葉の緑が風に揺れ、美しく輝く月明かりだった。



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