妹に婚約者を奪われた公爵令嬢は只今辺境伯に溺愛されています

紬あおい

文字の大きさ
140 / 142

140.離宮の侍女長




ロベールとしばしの別れをした後、馬車は走り続け、皇宮に到着した。
今回は離宮での滞在となるそうで、私は初めて足を踏み入れることとなった。

「落ち着いたら、離宮の隣の温室に行こうか。
時間が合えば、母上が案内してくれるかもしれないし、中は広いので天候問わず三つ子達の遊び場にもなるだろう。」

「はい、楽しみですわ!ヴェルシスも幼い頃、温室で遊んだの?」

「ああ、手当たり次第引っこ抜いて、母上に叱られた。はははっ!」

「やんちゃだったのね?」

「いや、内弁慶な餓鬼だった。兄上と一緒なら、強気だったけどな。」

仲の良い兄弟だったのだろうと想像すると、今の二人の関係も納得がいく。
何だかんだお兄ちゃん子のヴェルシスなのだ。

「さて、離宮に入ろうか。」

玄関を入ると、年配の侍女長と思われる女性と、若いメイドが多数並んでいた。

「ようこそおいでくださいました。」

「おお!エミネ、まだ居たのか!」

ヴェルシスがエミネと呼んだのは、年配の侍女長だった。

「今は離宮の管理を任されております。」

顔に刻まれた皺と柔らかな微笑みに、心があたたかくなるような人だった。

「リルア、エミネは俺の乳母だった者だ。忙しかった父上や母上の代わりに、随分尽くしてくれた人なんだ。」

「そうなのですね。妻のリルアです。エミネさん、よろしくお願いいたします。
そして、兄三つ子のロイド、レオン、リュカと妹三つ子のフェリシア、レティシア、ルミナシアですわ。」

エミネは、三つ子の紹介の途中から、頬に涙が伝っていた。

「ヴェルシス殿下のお子様…お坊ちゃま方は生き写しで、お嬢様方も瞳がそっくり…
何てお可愛らしいお子様なのでしょう。
私、まさかヴェルシス殿下のお子様までお仕え出来るとは思ってもみませんでした…
夫人も、どうかエミネとお呼びくださいませ。」

「おいおい、孫を見せに来たようなものだ。
しっかり頼むぞ?」

「はい、お任せくださいませ。」

「エミネ、賑やかになると思うけどお願いね?」

エミネはポケットから出したハンカチで涙を拭い、優しい笑顔を見せた。

「お部屋の準備は出来ております。
後程、両陛下がお出ましになられて、今宵は晩餐会となりますので、それまで皆様でお寛ぎください。」

メイド達が深々とお辞儀をして持ち場に戻ると、エミネはメイドを二名連れて、滞在する部屋に案内してくれた。

「こちらは、メイドのアーリンとユリンでございます。
アーリンはマグリオット公爵家の三女、ユリンはアーネット侯爵家の二女です。
家格も人柄も保証いたしますので、何なりとお申し付けくださいませ。」

柔らかな雰囲気のエミネと、きびきびとした雰囲気のアーリンとユリンは、祖母と孫位の歳の差がありそうだ。

そんな中、兄三つ子は部屋の散策をし、絵本を見つけたようだ。

「これは、父上の絵本ですか?」

「まだあったのか。そうだ、俺と兄上が子どもの頃、よく読んだ本だ。
兄弟が助け合って、冒険する内容だったな。」

ロイドが興味津々に一冊の絵本を手に取って眺めていると、ヴェルシスが懐かしそうに頷いた。

「寝る前に読んでもいいですか?」

「僕も読みたい!」

リュカもレオンも興味が湧いたようだ。

「ここにある物は好きにしていいぞ。但し、妹三つ子からは目を離さないように。」

「「「はい!」」」

そうは言いつつ、ヴェルシスも私も子ども達が眠るまでは目を離すつもりはないし、離宮の部屋もすぐ隣だ。
きっと家族で所狭しと眠る日の方が多いだろうと、私はたかくくっていた。




感想 171

あなたにおすすめの小説

はい。私の負けですね。おめでとうございます!

るーしあ
恋愛
『君のような、ただお茶を淹れるだけの無能な女はいらない』  夫であるバルザック子爵から冷酷に【離縁】を突きつけられたレヴィラ。実家にも居場所はなく、路頭に迷った彼女が辿り着いたのは、夜の街で一際異彩を放つ【カジノ】 『夜の静寂(しじま)』だった。

【完結/番外追加】恋ではなくなったとしても

ねるねわかば
恋愛
​十一年前、彼女は納得して切り捨てられた。 ​没落した貴族家の令嬢アリーネは、王都の社交サロンで同伴者として生きる道を選んだ。 ​歳月は、すべてを思い出に変えたはずだった。 会うたびにかつての婚約者を目で追うのは、ただの癖。 ​今ある思いは、恋ではない。 名がつくことのない二人の関係は、依頼主と同伴者となり、またその形を変えていく。 2万字くらいのお話です。

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせていただきます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

運命の番が記憶を失くし、私は婚約破棄を申し込まれる

真嶋青
恋愛
伯爵令嬢クローディアは、8つ年の離れたガレン侯爵と運命の番であるという神託を受け婚約関係を結んだ。 しかし、その直後、ガレン侯爵は馬車の移動中に事故に遭い過去十年分の記憶を失ってしまう。 肉体は大人でありながら、精神年齢だけがクローディアよりも若くなってしまったガレン。 なんと彼はクローディアに婚約破棄を叩きつけた。 「お前みたいな気の強い女は嫌いだ! 俺とは婚約破棄しろ!」 しかし、婚約破棄を申し込まれたクローディアの答えは意外なものだった――。 「婚約破棄はお断りします。その代わり──私があなたを、惚れさせてみせましょう」 露骨に無視されても、難癖をつけられても、涼しい顔でスルー。 クローディアとガレンの奇妙な関係が始まった。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。