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140.離宮の侍女長
ロベールとしばしの別れをした後、馬車は走り続け、皇宮に到着した。
今回は離宮での滞在となるそうで、私は初めて足を踏み入れることとなった。
「落ち着いたら、離宮の隣の温室に行こうか。
時間が合えば、母上が案内してくれるかもしれないし、中は広いので天候問わず三つ子達の遊び場にもなるだろう。」
「はい、楽しみですわ!ヴェルシスも幼い頃、温室で遊んだの?」
「ああ、手当たり次第引っこ抜いて、母上に叱られた。はははっ!」
「やんちゃだったのね?」
「いや、内弁慶な餓鬼だった。兄上と一緒なら、強気だったけどな。」
仲の良い兄弟だったのだろうと想像すると、今の二人の関係も納得がいく。
何だかんだお兄ちゃん子のヴェルシスなのだ。
「さて、離宮に入ろうか。」
玄関を入ると、年配の侍女長と思われる女性と、若いメイドが多数並んでいた。
「ようこそおいでくださいました。」
「おお!エミネ、まだ居たのか!」
ヴェルシスがエミネと呼んだのは、年配の侍女長だった。
「今は離宮の管理を任されております。」
顔に刻まれた皺と柔らかな微笑みに、心があたたかくなるような人だった。
「リルア、エミネは俺の乳母だった者だ。忙しかった父上や母上の代わりに、随分尽くしてくれた人なんだ。」
「そうなのですね。妻のリルアです。エミネさん、よろしくお願いいたします。
そして、兄三つ子のロイド、レオン、リュカと妹三つ子のフェリシア、レティシア、ルミナシアですわ。」
エミネは、三つ子の紹介の途中から、頬に涙が伝っていた。
「ヴェルシス殿下のお子様…お坊ちゃま方は生き写しで、お嬢様方も瞳がそっくり…
何てお可愛らしいお子様なのでしょう。
私、まさかヴェルシス殿下のお子様までお仕え出来るとは思ってもみませんでした…
夫人も、どうかエミネとお呼びくださいませ。」
「おいおい、孫を見せに来たようなものだ。
しっかり頼むぞ?」
「はい、お任せくださいませ。」
「エミネ、賑やかになると思うけどお願いね?」
エミネはポケットから出したハンカチで涙を拭い、優しい笑顔を見せた。
「お部屋の準備は出来ております。
後程、両陛下がお出ましになられて、今宵は晩餐会となりますので、それまで皆様でお寛ぎください。」
メイド達が深々とお辞儀をして持ち場に戻ると、エミネはメイドを二名連れて、滞在する部屋に案内してくれた。
「こちらは、メイドのアーリンとユリンでございます。
アーリンはマグリオット公爵家の三女、ユリンはアーネット侯爵家の二女です。
家格も人柄も保証いたしますので、何なりとお申し付けくださいませ。」
柔らかな雰囲気のエミネと、きびきびとした雰囲気のアーリンとユリンは、祖母と孫位の歳の差がありそうだ。
そんな中、兄三つ子は部屋の散策をし、絵本を見つけたようだ。
「これは、父上の絵本ですか?」
「まだあったのか。そうだ、俺と兄上が子どもの頃、よく読んだ本だ。
兄弟が助け合って、冒険する内容だったな。」
ロイドが興味津々に一冊の絵本を手に取って眺めていると、ヴェルシスが懐かしそうに頷いた。
「寝る前に読んでもいいですか?」
「僕も読みたい!」
リュカもレオンも興味が湧いたようだ。
「ここにある物は好きにしていいぞ。但し、妹三つ子からは目を離さないように。」
「「「はい!」」」
そうは言いつつ、ヴェルシスも私も子ども達が眠るまでは目を離すつもりはないし、離宮の部屋もすぐ隣だ。
きっと家族で所狭しと眠る日の方が多いだろうと、私は高を括っていた。
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