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8.ヴェリティの困惑
しおりを挟む翌日、ヴェリティはエミリオンを学園に送る前、ファビオラの執務室で驚くべき話を聞かされた。
「ヴェリティ、今から三年間、エミリオンの婚約者になってもらうわね?」
「ーーーっ!?婚約者、ですかっ?」
ファビオラの想定外の申し出に、物静かな雰囲気のヴェリティでさえ、一瞬叫んだ。
「そう、婚約者。公子って立場は、いろいろ周りがうるさいの。
だから、変な令嬢に纏わり付かれると、エミリオンが可哀想でしょう?
扇を壊したオーレリアも、きっとエミリオンに優しくするヴェリティへの嫌がらせと考えているの。
でも、社交の場にはもっと露骨にエミリオンに近付く令嬢が居るわ。」
「あっ…確かに…」
(筆頭公爵家の公子様だし、おモテになるのね…大変そうだわ…)
「だから、ヴェリティにはエミリオンの婚約者として振る舞って欲しいの。
今日から侍女ではなく、婚約者として、エヴァンス公爵家の執務や事業に関わる仕事をしてもらうわ。
グレイシアのお世話もお願いしたいの。
エミリオンの一つ年下の妹よ。
あと社交にも、エミリオンのパートナーとして出席してもらうわ。
どれも指導役は、ファーガソンとクレシアに話してあるから、何でも聞きなさい。
ヴェリティへの嫌がらせ対策は、こちらで対処するから、これからは安心して?」
「承知いたしました。私がお役に立てるのでしたら、何でもさせていただきます。
公子様の学園のお見送りやお迎えは、如何いたしましょう?」
「それは続けて?じゃないと、エミリオンが拗ねるわ。」
「す、拗ねる…?まさか…」
「そう。だって、エミリオンが連れて来たお気に入りのヴェリティだもの。そこは譲らないでしょうねぇ…拗ねたら面倒だから、エミリオンのこともお願いね?」
「はい、畏まりました。」
(公子様が拗ねたら…可愛いかも!?兎に角、公子様に嫌われないように頑張らなくちゃ!)
ヴェリティは、たった一日で何が起こったのか分からないが、自分が出来ることをするだけだと考えた。
「そろそろ、エミリオンを送って行ってちょうだい。戻ったら、またここに来て。」
「はい、行って参ります。」
たった一日の出逢いで、女嫌いで気難しいあのエミリオンの心を掴んだヴェリティ。
ファビオラは、息子であるエミリオンの勘を信じてみたい気がするのだ。
(ヴェリティのような子は、きっとグレイシアにも良い影響を与えるかもしれないわね。)
ファビオラは、執務室を後にするヴェリティの背中を見つめながら、大変な運命に引き摺り込んでしまったかもしれないと感じていた。
それでも、素直で真面目なヴェリティは、きっと息子の想いに応えてくれるだろうという期待に胸が弾むのも感じた。
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