8 / 17
7.俺の女に手を出すな
しおりを挟むヴェリティは、学園終わりのエミリオンを馬車で迎えに行った。
「公子様、今日もお疲れ様でした。」
「ありがとう。」
何となくヴェリティの元気がないことに気付いたエミリオンは、帰宅後ファビオラの執務室へと向かう。
「母上、只今帰りました。ヴェリティに何かありましたか!?」
ファビオラは、一目散に来たエミリオンに、思わず笑ってしまう。
「ふふっ、もう察したのね?実は、侍女のオーレリアが私の扇を壊したみたいで、その罪をヴェリティになすり付けようとしたの。
クレシアは、ヴェリティではないと証言したのだけど、証拠がなくてね。」
ファビオラが言い終わった瞬間、エミリオンから真っ赤な炎が立ち昇る気配がした。
「その侍女、殺ってもいいですか!!!」
「ちょっと、エミリオン!流石にそれは不味いわ!!」
「だって、母上、俺の女に手を出すとは!」
「 お れ の お ん な !? 」
「そうです、俺が見つけた、俺の女ですが?」
いつも僕という穏やかなエミリオンが、見たこともない薄ら笑いを浮かべている。
ファビオラは、我が子ながら薄気味悪さを感じていた。
そこへグラナードが様子を見に、ファビオラの執務室に入ってきた。
「何だ?エミリオン、どうした!?」
「オーレリアとかいう侍女、殺っちゃっていいですか?」
「はっ!?何と?」
「首をざっと落として、その辺に転がしとこうかなぁと。」
「や、や、や、やめなさいっ!」
グラナードは、我が子ながら恐ろしい奴だとチビりそうになっていた。
「エ、エミリオン、私に良い考えがあるのだ。
侍女如きがヴェリティに手を出せぬよう、エミリオンの仮の婚約者にしようかと。」
「えっ!?僕の婚約者?はい、そうしましょう。
何なら今すぐ、結婚してしまいましょう!」
歓喜の表情を浮かべるエミリオンに、ファビオラが釘を刺す。
「それは浅慮だわ。ヴェリティがまだどんな令嬢か、私やグラナードは判断出来ていないわ。
だから、三年我慢しなさい。それで見極めます。」
ファビオラは、エミリオンにグラナードと考えた案を打ち明けた。
「僕なら、学園と大学院を卒業するのに、三年も掛かりませんよ?
ただ、十四歳で結婚は父上や母上は早いと思いますか?」
「エミリオンは、もうすぐ誕生日だから、正確には十五歳よね。
ヴェリティが四歳年上だから、その頃は十九歳だし、別に早いとも思わないわ。
でも、ヴェリティの今後の立ち位置を確保するとしたら、三年間は頑張りなさい。」
エミリオンは、ふむふむと思考を巡らせている。
「ならば、父上、母上。ヴェリティがエヴァンス公爵家に必要だと思える位に執務が出来て、社交でも振る舞えたら、僕との結婚は認めていただけますね?」
「それには、エミリオンもヴェリティを支えるに相応しい者になれるかも重要だ。」
「そうよ、エミリオン。あなたがいくらヴェリティが好きでも、ヴェリティの気持ちを掴めなければ、そもそも成り立たないお話よ?」
「では、三年間、全力で挑みます!ヴェリティ嬢を振り向かせる為に。
でも、心が掴めなかった時もヴェリティ嬢をそのまま放り出すことはしませんよね?」
「もちろんだ。あの子が一人でも、エヴァンス公爵家でも生きていけるような教育をしよう。
これは、エヴァンス公爵家の事業の軸となる考えだ。」
「ここで七十点の成果が挙げられれば、他家でも役に立つわ。
その時は、良い働き口を探しましょう。
でも、エミリオンの隣に立つには百点でないとね?」
「分かりました。僕もヴェリティをサポートしながら、エヴァンス公爵家に相応しい立場を得られるよう努力します。」
グラナードとファビオラは、十一歳だからと呆れることなく、エミリオンの決意を知り、息子の初恋が実るようにと祈るのだった。
90
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく
木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。
侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。
震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。
二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。
けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。
殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。
「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」
優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎泡雪 / 木風 雪乃
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる