今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜

紬あおい

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7.俺の女に手を出すな

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ヴェリティは、学園終わりのエミリオンを馬車で迎えに行った。

「公子様、今日もお疲れ様でした。」

「ありがとう。」

何となくヴェリティの元気がないことに気付いたエミリオンは、帰宅後ファビオラの執務室へと向かう。

「母上、只今帰りました。ヴェリティに何かありましたか!?」

ファビオラは、一目散に来たエミリオンに、思わず笑ってしまう。

「ふふっ、もう察したのね?実は、侍女のオーレリアが私の扇を壊したみたいで、その罪をヴェリティになすり付けようとしたの。
クレシアは、ヴェリティではないと証言したのだけど、証拠がなくてね。」

ファビオラが言い終わった瞬間、エミリオンから真っ赤な炎が立ち昇る気配がした。

「その侍女、ってもいいですか!!!」

「ちょっと、エミリオン!流石にそれは不味いわ!!」

「だって、母上、俺の女に手を出すとは!」

「  お  れ  の  お  ん  な  !?  」

「そうです、俺が見つけた、俺の女ですが?」

いつも僕という穏やかなエミリオンが、見たこともない薄ら笑いを浮かべている。
ファビオラは、我が子ながら薄気味悪さを感じていた。

そこへグラナードが様子を見に、ファビオラの執務室に入ってきた。

「何だ?エミリオン、どうした!?」

「オーレリアとかいう侍女、っちゃっていいですか?」

「はっ!?何と?」

「首をざっと落として、その辺に転がしとこうかなぁと。」

「や、や、や、やめなさいっ!」

グラナードは、我が子ながら恐ろしい奴だとチビりそうになっていた。

「エ、エミリオン、私に良い考えがあるのだ。
侍女如きがヴェリティに手を出せぬよう、エミリオンの仮の婚約者にしようかと。」

「えっ!?僕の婚約者?はい、そうしましょう。
何なら今すぐ、結婚してしまいましょう!」

歓喜の表情を浮かべるエミリオンに、ファビオラが釘を刺す。

「それは浅慮だわ。ヴェリティがまだどんな令嬢か、私やグラナードは判断出来ていないわ。
だから、三年我慢しなさい。それで見極めます。」

ファビオラは、エミリオンにグラナードと考えた案を打ち明けた。

「僕なら、学園と大学院を卒業するのに、三年も掛かりませんよ?
ただ、十四歳で結婚は父上や母上は早いと思いますか?」

「エミリオンは、もうすぐ誕生日だから、正確には十五歳よね。
ヴェリティが四歳年上だから、その頃は十九歳だし、別に早いとも思わないわ。
でも、ヴェリティの今後の立ち位置を確保するとしたら、三年間は頑張りなさい。」

エミリオンは、ふむふむと思考を巡らせている。

「ならば、父上、母上。ヴェリティがエヴァンス公爵家に必要だと思える位に執務が出来て、社交でも振る舞えたら、僕との結婚は認めていただけますね?」

「それには、エミリオンもヴェリティを支えるに相応しい者になれるかも重要だ。」

「そうよ、エミリオン。あなたがいくらヴェリティが好きでも、ヴェリティの気持ちを掴めなければ、そもそも成り立たないお話よ?」

「では、三年間、全力で挑みます!ヴェリティ嬢を振り向かせる為に。
でも、心が掴めなかった時もヴェリティ嬢をそのまま放り出すことはしませんよね?」

「もちろんだ。あの子が一人でも、エヴァンス公爵家でも生きていけるような教育をしよう。
これは、エヴァンス公爵家の事業の軸となる考えだ。」

「ここで七十点の成果が挙げられれば、他家でも役に立つわ。
その時は、良い働き口を探しましょう。
でも、エミリオンの隣に立つには百点でないとね?」

「分かりました。僕もヴェリティをサポートしながら、エヴァンス公爵家に相応しい立場を得られるよう努力します。」

グラナードとファビオラは、十一歳だからと呆れることなく、エミリオンの決意を知り、息子の初恋が実るようにと祈るのだった。




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