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10.グレイシアとヴェリティ
しおりを挟む皆に見守られるように始まったヴェリティとエミリオンの婚約期間。
ヴェリティは、おっとり穏やかな性格ながら、ファーガソンに習う執務を着実に熟し、午後はグレイシアのお世話に励んでいた。
「ヴェリティ様、今日は算術を教えて!お兄様は読めば分かると言って教えてくれないの…」
皇立学園の特別試験を最年少断トツ一位でパスしたエミリオンは、一度読めば頭に入る天才なので、地道な努力家のヴェリティは、グレイシアの気持ちに寄り添って教えることが出来た。
遊び相手どころか家庭教師になってしまったのだ。
「グレイシア様は、最初にじっくり取り組めば、すぐに覚えて応用が利きますから、秀才肌なんでしょうね。」
「お兄様は天才肌だから羨ましいわ。ちょっと勉強すれば優秀な成績を収めるし、あとは自由に絵を描いたりしているのよ?私は一生懸命に勉強しているのに何だかずるいわ!」
むうっと怒っているグレイシアが可愛らしいなとヴェリティは思っている。
「私は、グレイシア様もエミリオン様も羨ましいですわ。私なんて人様に自慢出来ることがありませんから。」
そんなヴェリティをグレイシアは驚きの目で見た。
「何を言っているの!?ヴェリティ様はその辺の令嬢なんか比べものにならない位に素敵な方よ?
優しいし、教え方は丁寧だし、お綺麗で!!
ヴェリティ様のような方があのお兄様の婚約者になってくださったのは奇跡だわっ!
控えめとか慎ましやかなのは良いことだけど、ご自分を卑下するのは良くないわ。
ヴェリティ様はお兄様の婚約者で、ご結婚されたら次期エヴァンス公爵夫人になられるの。
もっと自信を持ってください。」
「グレイシア様…ほんの数日で私のことをそんなにも慕ってくださって、ありがとうございます。
両親からは相手にもされないような私を、エミリオン様やグレイシア様が優しくしてくださって、私は幸せ者ですね。」
機関銃のようにぽんぽん言葉を発し褒めてくれるグレイシアに、ヴェリティは胸がいっぱいになっていた。
「ヴェリティ様、決して女除けの為の婚約者ではありませんわ。
私、お兄様は確信犯だと思っていますの!」
「 か く し ん は ん ! ? 」
物騒な単語にヴェリティはきょとんとした。
「そう、確信犯。お兄様はガチ恋ですわ!」
「 が ち こ い !?」
エミリオンより一つ年下だが、グレイシアは女の子。
世の恋愛事情や恋愛小説は、エミリオンよりも詳しかった。
なので、詳細は明かされずとも、グレイシアはエミリオンの執着恋慕にすぐ気付いていた。
「大丈夫ですわ、ヴェリティ様。私が守ります。」
「あ、ありがとうございます。」
きりりと微笑むグレイシアと、何だかよく分からないけどお礼を言ってしまったヴェリティだが、この後の社交の場でグレイシアの意図を知るヴェリティだった。
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