1 / 2
1.騎士団長からの極秘の依頼
しおりを挟むここは、エルネスト帝国の皇宮の薬師部屋。
その日も、下っ端薬師のリンネは、先輩に押し付けられた後片付けを一人でしていた。
皇宮にはたくさんの人が出入りする為、急病や怪我で薬師部屋を訪れる者は多い。
その患者の対応で、どうしても使用した器具の手入れは夕方からになってしまう。
本来なら分担すれば早いのだが、ちゃっかりした先輩達は、薬師長の目を盗み、リンネに押し付けて帰宅してしまうのだ。
しかし、毎日使う乳鉢や乳棒、薬匙、粉砕器の手入れから、包帯や清浄綿の補充や在庫管理をするのは苦にならない。
誰も居ない薬師部屋は、自分だけの空間に思えて、一つ一つの作業はリンネの楽しみだった。
コン、コン、コン
「はい!」
普段なら誰も訪れない筈の夜、リズミカルにノックされたドアを開けてみると、目の前に誰かの胸元が見えた。
思わず見上げると、現れたのは近衛騎士団長でもあるリースハルト・フェルディナンド卿だ。
「君がリンネ嬢だったか?近衛騎士団長のリースハルト・フェルディナンドだ。突然失礼する。」
「はい、リンネでございます。騎士団長様、どうぞお入りください。」
リンネが部屋のドアを大きく開くと、リースハルトは大股で歩き、中へ入って来た。
「早速なのだが、とても重要な極秘任務で使いたいので、自白剤を調合して欲しいのだ。極力副作用のない物で、可能であれば液体を頼みたい。少々なら媚薬成分は許可する。」
若干二十歳のリースハルトは、きりりと精悍な面持ちで、リンネに話し掛ける。
銀髪碧眼の麗しい大男を、リンネは呆然と見上げた。
クリオネア侯爵家の落ちこぼれ二女のリンネにとって、リースハルトは眩し過ぎるお方だったのだ。
(女性達が騒ぐのも納得だわぁ!)
「リンネ嬢、聞いているのか?」
しばらく見惚れてしまったようで、リースハルトがリンネの顔を覗こんでくる。
そこで我に返ったリンネは、一歩下がり慌てて応える。
「は、はい!しかし、ここで一番下っ端薬師の私が自白剤ですか!?しかも、媚薬の成分入りですか?」
「リンネ嬢はとても優秀だと、あちこちから聞いている。是非、君に頼みたいのだ。媚薬成分で興奮状態にした方が自白させやすいので、そのように調合してもらいたい。」
「傷薬やいくつかの飲み薬は調合しておりますが、私が優秀などとは、畏れ多いです…それに、極秘任務とはいえ、薬師長に無断で薬草や薬剤を使用する訳にはいきません。」
「薬師長はマルガリーテ殿だったな。こちらから連絡しておく。」
「それならば……み、三日!三日お待ちいただいても?」
「分かった。三日後の夕方、また来る。」
「承知しました!」
来た時と同じく、大股で歩き、リースハルトは部屋を出て行った。
(私なんかでいいのかな…でも、頼られるのは嬉しいな。取り敢えず、明日薬師長に相談してからにしよう。)
リンネは手際良く後片付けをし、少し弾んだ気持ちを抱えて帰宅した。
130
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜
あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる