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2.この日の真意
しおりを挟む翌日、早く目が覚めたファニアは、早速自ら着替えることから始めた。
それは、離縁されれば身の回りのことは自分でやらなければという決意の表れだ。
「コルセットは面倒だわね。コルセットなしで着られるドレスを準備しなくちゃ。」
ぶつぶつ着替えていると、クライスが起きたようでファニアをじっと見ていた。
寝起きのクライスは、艶やかな黒髪が乱れ、深い翠眼が潤んで、大層悩ましい。
「貴女は何をしているのだ?」
「二年後に備えて、自分のことは自分で出来るようにと…手伝ってもらわないと、コルセットって面倒なんですねぇ…やっと着られました。」
「貴女は…変わってるな…」
「変わっているのではありません。これから変わっていかないといけないのです。
ここを出たら、自分で生きていけませんから。
ドレスも着やすくて値段の安い物を買い揃えなきゃですわ。」
クライスは、ほぼ下着姿のファニアを、珍しい生き物を見るような目で見つめていた。
「ド、ドレスはデザイナーを呼ぶか?」
「いえ、街の洋品店で買い揃えますわ。この先、デザイナーのドレスなんて邪魔にしかならないし、自分では買えない気がしますもの。」
「まだ二年あるじゃないか…」
「あら!月日の経つのは早いのですよ?歳を重ねてきたら、年々早く感じるようになってきて…
だから、今から準備万端にしておいた方がいいのです。」
ファニアはきっぱりと言い切り、穏やかに微笑んだ。
見切りや区切りを付ければ、あとは用意周到にその日を迎えればいいのだ。
「では、今日は一緒に街に出ようか。流石に一人歩きは危ないからな。あっ、ファニアと呼んでもよいか?」
「はい、名前で呼び合う方が仲良くなれそうですね!私もクライス様と呼ばせていただきます。
あと、一緒に行っていただけると心強いです。今のうちから一人歩きも慣れておきたいので、いろいろ教えてくださいませ?」
「あ………ああ…分かったよ、ファニア。」
クライスは、ファニアの行動や言動が新鮮だった。
令嬢というものは、父親や夫の身分に甘やかされて生きているものだと思っていたのだ。
現に、社交界でも優雅に微笑む淑女であることだけが誇りであり、取り立てて何も出来ない令嬢ばかり見てきた。
しかし、ファニアはここを出たら自力で生きて行く方策を既に練り始めている。
結婚した初日に、離縁予定を言い渡された令嬢は、泣き暮らすどころか、嬉々として未来を見つめている。
(本当に変わった人だな、ファニアは…俺の選択は間違っているのか…?)
クライスは、グリモール侯爵家に結構な額の出資をし、十八歳という微妙な適齢期の令嬢を娶り、二年後は慰謝料という持参金付きでお引き取り願うこの選択を、初めて疑った。
(もしかしたら、俺はこんな得難い人を得たのに、自ら手放すことを宣言してしまったのだろうか…?いや、そんなことはないか…)
この時の考えが正に真意だったとクライスが悟るのは、丁度契約期間の半分である一年の月日が経った日だった。
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