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5.夫の元婚約者の話を聞きました
しおりを挟む騎士団に忘れ物を届けてから、ニ人きりの時はますます会話がなくなった。
怒っているなら言えばいいのにと思いつつ、私はいつも通りだ。
しかし、今朝、珍しく話し掛けられた。
いつもは朝の挨拶すら無視されるのに。
「今夜、騎士団のゼファーが来るから夕食を準備してくれ。ワインも頼む。」
「はい、承知しました。」
それだけの会話。
さて、メニューはどうしましょう。
男性だからお肉メインがいいかしら?
料理長と相談だわ。
1日中、バタバタとお迎えの準備をしていたら、もう夕方だった。
「おかえりなさいませ。」
「あぁ。」
「サラ夫人、お邪魔します。これ、よろしかったらどうぞ!」
ゼファーは色とりどりのキャンディをくれた。
私は子どもっぽく見えるのか。
無愛想な夫に、気遣いのゼファー。
対照的なニ人だ。
そう言えば、事故の時もゼファー様は優しかったな、なんてことを思い出していた。
夕食は、キリアンとゼファーが和やかに会話していた。
ローストビーフやステーキ、ハーブチキンなど、お肉メインの所狭しと並んだ料理も気に入ってもらえたようだ。
食後にワインを本格的に飲み出したので、私はそろそろ部屋に戻ることを告げた。
「何故部屋に?ここに居ろ。」
キリアンに言われて戸惑う。
全然話に入れないのに、居る意味って何だろう。
「おい、キリアン、夫人が困ってるだろう?もう酔ってんのか!?」
「いや、酔ってない。ゼファーにサラとアイリンのどちらがいい女か、聞いてみたくてな。サラにも聞かせたいし。夫の過去、面白いだろ?」
「お前、何を言い出すんだ?いい加減にしろ!」
ゼファーが怒るということは、アイリンという人は元婚約者だろう。
未だに愛しているから、酔うと思い出すのか。
「今夜はお父様もお母様も不在ですので、遠慮なさらずにお話しください。聞いていろと仰るなら、ここに居ます。」
ゼファーは驚いて私を見る。
「俺からしたら、アイリンはお話するような女じゃないです。」
「ゼファー、どういう意味だ?アイリンは俺の愛した女だぞ?」
「キリアンて、ほんと何も知らなかったんだな。女を見る目が無いよ!お前、女はアイリンしか知らないだろ?あの女、誰とでも寝るぞ?」
「はっ!?そんな訳…」
「金持ってる男となら、すぐ寝るよ。キリアンは見目が良いから、連れ回して自慢出来ただろうな!』
とても聞いていられない内容だ。
キリアンの顔が青くなっている。
「ゼファー様、この位にしませんか?アイリン様がどんな方であろうと、キリアン様が愛している方なのですから…誰とでもというのは、単なる噂話かもしれませんよ?」
「申し訳ない。感情的になってしまった。夫人を嫌な気持ちにさせてしまったな。すまない。」
「ゼファー様、客間を用意してありますので、今夜はそちらでお休みください。キリアン様も、もう休んだ方がいいわ。」
二人を寝かし付けるには早い時間だけど、とても見ていられない。
ゼファーは客間に移動し、キリアンはまだワインを飲んでいる。
「キリアン様、そろそろ…」
「放っといてくれ!」
一人になりたいのかもと、私も部屋に戻って湯浴みをした。
ソファに枕を置いて、いつもの寝る準備が出来た。
しばらく本でも読もうとした時、キリアンが部屋に入ってきた。
「まだ起きてたのか…」
「はい。本を読もうかと思いましたが、キリアン様が寝るのなら、灯りを落としますね。」
酔ったキリアンは、ベッドではなくソファに近付いてきた。
「サラ、ベッドに来ないか…?」
返事もしないうちに、キリアンに抱き上げられ、ベッドに下ろされた。
「えっ…キリアン様?」
ギラギラした目で私を見ている。
これは、危ないかもしれない。
どうしよう。逃げる?
頭の中がパニックになる。
「サラは、俺が好きで結婚したのか?君の態度を見ていると、そうは思えないんだ…」
わたしの隣に横になって、キリアンが問い掛ける。
「お父様にあなたの印象を聞かれて『優しい人』と答えました。そして、気付いたら夫になってました…」
「そうか…婚約者だったアイリンが他に男が居たり、望まれて結婚した筈の妻が俺に興味がなかったり…俺って何なんだろうな。」
キリアンは自虐的に、ふっと笑った。
「でも、アイリン様のことは噂話かもしれないじゃないですか。」
「いや、アイリンは結婚するそうだ。成金貴族とな。俺の親の借金も知ってたんだろうな。遊ばれただけなんだな…」
悲しげなキリアンに胸が苦しくなる。
気付いたら、そっと頭を撫でていた。
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