347 / 394
297.【言わない方がよかったか?】
しおりを挟む「お話中失礼しますね」
襖が静かに開くと、蓮池のお母さんがお盆に載せた
鬼まんじゅうを持って現れた。
これはきっと松花堂のものだ。
以前一条先輩と柊と3人で買いに行って食べたのが懐かしい。
俺はサツマイモが好きではなかったのに、不思議な食感とほのかな甘さにすっかり魅了されてしまったんだよな。
「ふふ……お父さんったら、あんまりお話を聞いたら
楓さんに怒られますよ?」
「仕方ないだろう?楓が夕太くん以外のお友達が来たんだもの」
「そうですねぇ……」
世の夫婦はこんなに穏やかな会話をするのかと感動しながら鬼まんじゅうを食べていると、その会話を遮るようにベルの音が鳴り響いた。
それは蓮池のお母さんのスマホの着信音で、帯から
すっと取り出すと軽く会釈して廊下へ出て行こうとする。
すると次の瞬間、
楓『ババア!!!まだあの陰キャそこに居座ってん
じゃねぇだろうな!!!』
蓮池のお母さんはスマホを誤ってスピーカーに切り替えてしまったのか、蓮池の怒号が家中に響き渡った。
相変わらず何てこと言うんだと呆れつつも、仕事が
終わったのかそれとも絶賛仕事中なのか……とにかく
相当ストレスフルなことだけは伝わってくる。
お父さんはそんな息子の怒号には慣れっこなのか、
ものともせずに穏やかな笑顔で俺を見つめた。
「いやぁ……楓は昔から友達少ないからねぇ……
夕太くん以外の人が来るなんて、私たちも嬉しいんだよ」
………。
いや、友達……か?
電話の向こうから有り得ないほどの殺意が届いていますけど、と喉まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。
そもそも俺はただ蓮池のお母さんに誘われてここに居るだけで何も悪いことはしていないはずだ。
蓮池に怒鳴られる筋合いもないと鬼まんじゅうを頬張ろうとすると、
「まだいらっしゃいますよ?」
楓『代われ!!!!おい陰キャ聞こえとんだろ!!!』
蓮池の怒鳴り声がまた居間に響いた。
雅臣「お、おま!!どこにいるんだよ!?それに電話
越しにデカい声で話すなよ!!」
あまりの怒りっぷりに思わず立ち上がって言い返すと、蓮池のお母さんは楽しそうにはいとスマホを差し出してくれた。
楓『アホがよ!!いつまで俺の家におるんだ!!』
雅臣「ごめんって!!いや、お前こそ仕事はどうしたんだよ!?」
楓『はぁ!?もう終わったわ!!今から帰るけどまだ
おったら蹴り倒すからな!!』
雅臣「何でだよ!!」
嵐のような罵声を浴びせられ、しかもブチッと一方的に切られて、居間にはツーツーという通話終了音だけが虚しく響いた。
どこでどんな仕事をしてきたのかは知らないけれど、
あの剣幕だと猛ダッシュで帰ってくるだろう。
雅臣「……すみません、そろそろお暇します」
「楓さんったら本当は嬉しいのに、照れ隠しが下手で……」
___いやいやいや。
お母さん、息子さんのあれは照れ隠しでも何でもなく
本気です。
そんな本音はさすがに言えなくてお邪魔しましたと頭を下げると2人とも玄関まで見送ろうとしてくれる。
車で送っていくと言ってくれたが、近いし何よりもう
この空間に耐えられなくて寄りたいところがあるからとやんわり断った。
3人で長い廊下を歩きながら、ふと靴箱の上の白い磁器の花器に目をやる。
そこには季節外れの濃い紫の菖蒲が一輪静かに生けられていて、華道家の邸宅らしくとても綺麗だった。
「ごめんなさいね。今日は突然誘ってしまって」
靴を履き終えると蓮池のお母さんが柔らかく微笑んだ。
その笑顔があまりにも優しくて逆に罪悪感が湧いてしまう。
雅臣「い、いえいえ!俺の方こそ、お菓子とか……
本当にありがとうございました」
お礼を伝えて玄関を出ていこうとすると、
「___藤城くん」
お父さんに呼び止められ後ろを振り返る。
「教えて欲しいんだ。その、夕太くんは……
楓を嫌がってないかい?」
雅臣「え?」
突然の問いに、俺は思わず声を漏らした。
嫌がる?
柊が、蓮池を?
質問の意図がすぐには掴めなかったが、お父さんの目は真剣そのものだった。
眉間に寄った皺が不安げで、隣に立つお母さんも同じ
ような瞳で俺をじっと見つめている。
雅臣「えっと……」
多分、蓮池はこの優しい両親に学校のことや自分のことをほとんど話さないのだろう。
親に対して日頃からあんなに悪態をついているし、覚王山のこの家に住んでいるのは蓮池だけだと言っていた。
もし今まで唯一の友達が柊だけなのだとしたら、心配になるのも当然だと思う。
雅臣「……大丈夫ですよ。2人は仲良くやってます」
色々と拗れてもいるように見えたりもするが、実際毎日話しているし、仲は悪くない……はずだ。
俺はできるだけ口角を上げて、心配ないと伝えた。
雅臣「それから……あの、10月に山王の文化祭があるんです。俺たちサークルで歌を披露するんで時間があったら見に来てください。柊も蓮池も一緒に歌う___」
「ええ!?」
言い終わる前に2人は同時に声を上げ、ぽかんと口を開けて顔を見合わせる。
この調子だと自分の息子がサークルに入ってることも
詳しく聞いてなかったんだろう。
それなのにこのお母さんに合宿の弁当を差し入れさせたのかとなんだか気の毒になってしまった。
雅臣「俺たち同じサークルで……柊がピアノを弾いて、2年生や3年生の先輩たちと歌うんです。先輩もみんな優しいし、蓮池も楽しそうです。だから見に来てくださいね」
俺の話を聞いて2人は心底ほっとしたような、嬉しそうな顔をされた。
「そうかぁ……藤城くんありがとう。ありがとうね。
また是非遊びにきておくれ」
2人は俺に何度も頭を下げ、俺が門を出るまで手を振っていた。
______
____________
帰り道、一本道を上りながらオレは小さくため息をついた。
蓮池のご両親に文化祭のことを教えたのは気を利かせたつもりだったが、今さらながらに不安が募ってくる。
……言わない方が良かったか?
蓮池は自分の親に体育祭ですら来てほしくなさそう
だったのに、文化祭のことを知らせたとなれば絶対に
怒られるぞ。
怒られるだけで済めばいいが、蹴飛ばされて追いかけ
回されるくらいは覚悟しておかないとマズイ気がする。
口を滑らせた自分が悪いのかと肩を落として歩きながら蓮池の両親のことを思い返した。
それにしても穏やかな夫婦だったな……。
年齢的のせいもあると思うが、2人とも優しく息子
ファーストといった感じだった。
あんなに優しい両親と普段一緒に住んでいないだなんて……あいつはもしかして反抗期なのか?
蓮池の気持ちはやっぱり俺にはさっぱり分からない。
そんなことを考えながら10分もかからず自宅に着いた。
エレベーターの中で何気なくスマホを見ると、蓮池からの気味の悪いスタンプの連打と、柊からチャット
メッセージが届いている。
気が付かなかったと開けば、
〝雅臣ー!!〟
〝これ!こっち作って欲しい!〟
雅臣「んん……?」
送られてきたのはスコッチエッグのレシピだった。
更にそのURLを開くとミートボールとはちょっと違って、ゆで卵をひき肉で包んでパン粉をまぶし揚げるか
焼くかする料理らしい。
__へぇ、美味しそうだな。
普通の卵だと大きすぎて他のおかずが詰められないし、うずらでどうにか作れないか?
アレンジが効きそうなおかずを知って急にテンションが上がった俺は柊にOKと直ぐにスタンプを送った。
明日は休みだし試作してみるのもいいな。
さっき買った材料を一旦冷蔵庫にしまって、またホランテに向かうのもありだと俺は準備した。
______
【後書き】
いつもご愛読いただきありがとうございます。
明日は小話!
久しぶりの雅臣の休日をお届けします♫
30
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる