山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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328.【梓蘭世と2人きり】

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あれから数日経って、まだ骨は軋む感じはするがだいぶ慣れてきた。

骨折してからは日常生活で柊が嬉しさのあまりぶつかってきたりすることもなく、蓮池も苛立ち紛れに蹴ってくることもなくなった。

一応の気遣いが伝わってきて怖いくらい平和な毎日を過ごせていてる。


雅臣「……よし」


そして今日は休日。

俺は松坂屋の中にあるルイピトンの黒い壁で反射する自分の身だしなみを確認していた。

なぜなら今日は梓蘭世と2人で遊びに行くからだ。

栄に行くならクリスタル広場で待ち合わせはどうですかと提案してみたが面倒だから直接松坂屋に来いと言われてしまった。

確かにクリスタル広場では梓蘭世が目立ちすぎてしまうかもしれない。

言われるがまま松坂屋にしましょうと承諾したはいいものの俺は朝から自分の姿が気になって仕方なかった。


___だってあの梓蘭世なんだぞ!?


タピオカを飲みに行くだけとはいえ、一緒に歩いているところを誰かに撮られて同伴者がダサいとか梓蘭世の品格を下げているとか……とにかくそんな噂を立てさせるわけにはいかないのだ。

というわけで、俺は事前にできるだけカジュアルでそこまで値段の張らない服を揃えてみた。

コットンジャージーを使用した黒のTシャツは袖にブランドを代表するチェックのテーピングが施されていて長く着れそうなものを選んだ。

デニムは以前梓蘭世が選んでくれたバギージーンズでナイキのスニーカーはバイト代を半分出して新しく購入するくらいには備えていた。

少し早くついてしまったが、さっきからどうにも落ち着かない。

できるだけ平静を装おうと辺りを見渡せばルイピトンの店内はものすごく賑わっていて、いつだったか柊が「名古屋人はルイヴィトンが異常に好き」と教えてくれたが本当なのだろうか? 

しかも柊は「ルイピトンはカニのポーチが1番可愛い」とか言っていたけどあいつがブランドに詳しいのは幼なじみ故だろうか?

そんな事を考えながらふと視線をあげると、ルイピトンの横のPRADOから出てきた人に目を奪われる。


……凄いな。


黒のバケットハットを深く被ってサングラスで誤魔化しているけとどう見てもモデルだろ。

オーバーサイズのウールカーディガンはアニマル柄だというのに一切下品にならず、足が長いせいか異様にブラックデニムのカーゴパンツの丈が長い。

ブーツの踵をカツカツと鳴らしこちらに向かってくるが………。

こちらに向かってくる?

まさかと近づいてくるその人物の顔をよく見れば、


蘭世「何ボーッとしとんだよ」

雅臣「あ、あ、あ、貴方って人はほんと……!!お、おはようございます……」


___げ、芸能人すぎる!!

という言葉をぐっと飲み込み、サングラスを少し下げて微笑む綺麗なその人物の正体に俺は心臓が止まりそうになった。


蘭世「よーし南館行くぞ」

雅臣「あの、ここにタピオカなんてあるんですか?」

蘭世「あるある。ちょうど穴場があるんだって」



颯爽と歩き出した梓蘭世の後を俺は慌てて追った。



______

_______________




梓蘭世について松坂屋の南館2階に行くと、夏に一度金山で柊と飲んだ店と同じ〝ゴンティー〟があった。

甘さのカスタムだけでなくタピオカやナタデココまで追加できるからもう一度行ってみたいと思っていた店だ。

今日は黒糖じゃないものにしてみようかな。

茉莉花ミルクティーを甘さ控えめにし、更にタピオカをトッピングして注文をする。


蘭世「期間限定とかいかない派?」

雅臣「結局定番になりがちですね…柊とかは期間限定もの好きですよ」

蘭世「あー、好きそう。会計しとくから席探しとけ」


梓蘭世はどうやら本気で奢ってくれるらしい。

俺は感動しながら席を探すがやっぱりタピオカ屋は若い女の子ばかりで、1席だけ空いているのを見つけた瞬間2人組の女子高生もそこに座ろうとしていた。


雅臣「どうぞ」


つい譲ってしまうが嬉しそうに着席する女子高生は俺を見ると目を見開きひそひそと小声で話し出す。

……何かおかしいとこがあったか?

不安になるが梓蘭世は笑いながらタピオカを持つ手で俺の背中を小突いた。


蘭世「あー……夕太がお前がモテてたに決まってるって言ってたけど有り得るかもな」


なんだ、原因は梓蘭世か。

もし蓮池がいたら自意識過剰だと笑われるところだった。


雅臣「何言ってるんですか。俺なんか蓮池に言わせればプリントを回されてただけで……」

蘭世「あー……?まあいいや、ほらこれ。飲みながら歩こうぜ」

雅臣「はい、ありがとうございます!……あの、どこ行くんですか?」

蘭世「座る穴場が別んとこにあんのよ。ちょっと歩くぞ」


梓蘭世とエスカレーターを降りてそのまま外に出るが10月が近いというのに名古屋はまだ暑い。

タピオカを1口飲むと冷たくて……美味しいと言うより正直嬉しくて味がしなかった。

天下の梓蘭世と2人きりで遊びに行くだなんて一生分の運を使っている気がするが感動で胸が震えてしまう。


雅臣「俺、今日のこと忘れません」

蘭世「……また大袈裟な。お前みたいな奴は地下ドルにぜってーハマるなよ」


だかせっかく有頂天になっていたのに地下ドルという言葉が台無しにさせる。


雅臣「いや、それは大丈夫です。俺、カラフルジュエリストのバイト行ってから女の子がちょっと怖くて……」


地下ドルなんてとんでもないと本音を晒すとタピオカを手にした梓蘭世にゲラゲラと笑れてしまった。

笑い事じゃないのに。

来週またプレゼントの仕分けを三木先輩に頼まれているが、あのキツいファンの女の子たちから届いたものかと思うと余計に恐ろしい。


雅臣「あ、そうだ。梓先輩は……」

蘭世「あ?」

雅臣「ファ、ファンレターって読みますか?」


カラフルジュエリストで思い出したが、相変わらず梓蘭世のファンレターやプレゼントが1つもないことが

気がかりだった。

いっそのこと匿名で書いてしまおうかとレターセットを購入したくらいだ。

しかしよく考えたらそんなのは読まないタイプかもしれないし、そもそも事務所はもう募集すらしていないのかもしれない。

迷惑をかけたくなくてこっそり本人に様子を伺ってみると、


蘭世「……お前匿名で書いてくんなよ」


梓蘭世は呆れたように、というよりも半分引いたように眉根を寄せた。


雅臣「ま、まだそんなこと一言も言ってないじゃないですか!!」

蘭世「分かるっての!!俺に手紙なんか書いてねーで言いたいことあんなら直接言えよ、ほれ、早く」


手紙だから気持ちを伝えられるものだろうにそんなこと本人を目の前にして簡単に思いつくか!?

俺のTシャツの胸元を掴んでせがんでくるが、俺はドギマギしながら視線を彷徨わせる。

からかわれてると思いながらも必死に考えを巡らせようやく出た言葉は、


雅臣「き、き、綺麗です……」


恥ずかしいがいつも通りの言葉だった。


蘭世「………おま、浅いわぁ。ただの顔ファンかよ」


梓蘭世は俺の胸元から手を離すとその気持ちごと追い払うようにシッシッと払う。


雅臣「だからファンレターにしてからゆっくり纏めようと!!」


その仕草に傷つき落ち込む俺を見て梓蘭世はまた大袈裟に笑った。


蘭世「てか一々んなの俺に送らなくても学校で渡してくれりゃよくね?」

雅臣「学校なんかで手紙を渡したら変な噂が立つじゃないですか!!」

蘭世「お前が俺のこと好きすぎて付き合いたいみたいな?今更じゃね?」

雅臣「つ、つきあ…!?そんな訳ないでしょう!?」


付き合いたいとかの好きじゃない、と大声で告げるがどうだかと梓蘭世は先を歩いていってしまう。

これじゃあまるで俺が告白したみたいに思われているじゃないか!!

PARCOから出てくる人は好奇の目で俺を見ていて、恥ずかしさのあまり早歩きでその場を離れた。


雅臣「とにかく!!貴方の華々しい経歴に傷をつけるわけにはいかないんです。だからもし送るなら匿名で送りますよ」

蘭世「頼むわ。まじで噂は怖いからなぁ……どこでどう広がるからかわかんねぇし」


それは本当にその通りで、俺は身に染みて実感している。

俺が来春マグロ漁に出る噂まで出ているくらいで、俺と家族の噂は留まるところを知らずあることないことを通り越した域までいっている。

俺でこれなら梓蘭世ともなれば想像もつかない程の噂が広がるんだろうとため息をつくと、


雅臣「そういえば今どこに向かって……」

蘭世「んー、もう着くぜ?あれあれ」


梓蘭世が指さしたのは信号の先にある謎の洋館だった。





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