393 / 394
332.【謎のジルバニアチョイス】
しおりを挟む朝1番の誰もいない教室で机に顔を伏せようとした瞬間、肋骨を圧迫して慌てて体を起こした。
雅臣「………はあ」
俺は本当にそろそろ恥辱で死ねる気がする。
昨日の出来事を思い返す度に羞恥が沸き立ち今朝から何度ため息をついたか分からないくらいだ。
まさかあのタイミングで三木先輩と遭遇するなんて……。
夕方から梓蘭世と打ち合わせの約束をしていた三木先輩は別の仕事の都合で早めに迎えに来たらしい。
俺と栄にいることは事前に聞いていたようで連絡がつかない時点で梓蘭世がお気に入りのランの館にいるだろうと目星をつけたそうだ。
三木『指輪交換でも何でもいいが___』
三木先輩の言葉に慌てて梓蘭世から離れたけれど、傍から見て公開プロポーズに思われたことが本当に恥ずかしい。
でも………。
首元に手をかざすとポロシャツの下に隠れてはいるが昨日梓蘭世から貰ったリングの感触が分かる。
あれから俺は絶対に梓蘭世と同じ大学に行くという誓いを立て、リングをPara_kidで貰ったネックレスに通した。
こうして肌身離さず持つことで勉強への意識が高まるし実際触れる度にやる気が満ちてくる。
一条先輩がどうするかは分からないが俺は2年後梓蘭世の待つ応慶大学へ本気で行きたい。
そう思っているからこそ今日から朝早く学校に来て勉強することにしたんだ。
家ではどうしてもゲームや料理に気が散りがちで朝早い学校なら集中できるんじゃないかと実行してみたがこれが思いのほか自分には合っている。
1時間しかない、と思うと集中力がアップし、やると決めた範囲以上の事ができた。
教室はまだ空っぽで他の生徒たちの声が聞こえてくる気配もなく時折外から運動部の声が遠くに響くだけだ。
男子校特有のざわついた雰囲気はまだ訪れず静けさがとても心地いい。
一通りの課題を終えて、スマホで時間を確認するとロック画面に広がるピンクの胡蝶蘭に思わず笑みが零れた。
雅臣「ふふ、」
小輪の3本立ちの胡蝶蘭は花弁が白から淡いピンク色へとグラデーションがかっていてとても綺麗だ。
昨日の庭園はらんの館と呼ばれるだけあり館内のあちこちに蘭が飾られ、温室のようなスペースでは珍しい品種まで売られていた。
帰り際にふと惹かれた胡蝶蘭はピンク色で思わず足を止めたくらいだ。
このくらいのサイズなら母さんの写真立ての前に飾るのも悪くないと見ていると、
蘭世『お前、どこも寄らんともう帰る?』
雅臣『はい』
蘭世『じゃあこれ1つください。母親のとこに飾っとけよ』
梓蘭世は恐ろしくスマートにプレゼントしてくれた。
リングだけじゃなく花までくれるなんて……!!
まるで何かの記念日のようだと感極まっていると三木先輩にため息をつかれてしまった。
三木『すまないな雅臣、うちのが変に懐いて』
蘭世『んだよ三木さんその言い草は』
三木『事実だろ?雅臣気をつけろよ、蘭世は子役上がりのせいか距離感バグってるんだ』
梓蘭世は不満気に三木先輩の背中を叩いていたが確かにそんな気もした。
リングをくれたり胡蝶蘭を買ってくれたりと梓蘭世は自分が認めた人に対してかなり距離感が近い。
雅臣「そうなると一条先輩は……」
常に梓蘭世の横にいる一条先輩は俺なんかよりもっと色々プレゼントを貰ったり構われたりしているってことか?
………俺みたいなミーハーはとんでもない勘違いをしそうだ。
芸能人からの特別扱いなんて一般人からしたら麻薬みたいなもので、もし三木先輩に釘を刺されてなかったら有頂天になるところだった。
そういう思い違いをすることのない一条先輩だからこそ梓蘭世は大好きなんだろうな。
少し思い出に浸っていると突然教室のドアが勢いよく開く。
夕太「あれ!?雅臣、早くない!?」
柊が息を弾ませながら飛び込んできて、俺は軽く手を上げて返事をしながらスマホをポケットにしまった。
雅臣「あぁ、柊おはよう」
夕太「何してた……って、うわ!!何これ!?」
雅臣「文化祭の展示用の模型だよ」
自席まできた柊は蓮池が来るまで机の上に置かせてもらった模型を身を乗り出すように眺める。
まるで珍獣でも見るようにそれを凝視し固まる姿に何かおかしいとこでもあるのかと尋ねた。
夕太「そりゃ俺がジルバニアとサイズ合わせるから見せてって言ったけど……こんな細かいの!?」
雅臣「そ、そうか?」
俺の将来の理想の家を模したミニチュア模型は自分で言うのもなんだがなかなかの出来栄えだ。
縮尺は1/100程で外観はパッと見普通の小さな白い洋館に見える。
天窓のついた屋根は深緑色で、玄関には小さなランタンを吊るし暗くなったらちゃんと灯りがつくよう細部まで拘った。
窓辺に並べた小さな鉢植えに咲く花は昨日貰った胡蝶蘭を見て急遽ピンク色に塗り直したのだが、柊が大袈裟なほど褒めてくれるのが嬉しくてつい仕掛けも披露する。
雅臣「こうすると、ほら」
夕太「待って中も見えるじゃん!すげぇ……!」
家は真ん中から開くような仕掛けで内部の1階には設計図通りに再現した部室が見える。
ホワイトボードに柊と梓蘭世がいつも座っているゲーミングチェア、クッションのシワの質感までいつ見ても思い出せるようにできるだけリアルに再現した。
夕太「マジですごすぎる……」
雅臣「思い出を詰めたくてさ?SSCの部室は俺にとって一番大事な場所だから」
柊は俺と模型を見比べると優しく微笑んだ。
雅臣「まだ塗装の仕上げが残ってるけど……一旦は完成したんだ。持ってきてくれた人形と合いそうか?」
夕太「めっちゃ合うと思う!俺雅臣のためにマジで厳選して選んできたから」
柊はガサゴソと自分のリュックからピンクのフリルが沢山着いた巾着を取り出しシュルとサテンのリボンを解く。
一体ずつ並べるのを眺めていると、
楓「……何してんの?」
夕太「でんちゃん!え、珍しく早くない?どしたの?」
楓「ジジイがうるさくてさ。なら学校で寝た方がマシだと思って……って何これ」
蓮池の席に置かせてもらっていた模型を指さされて慌てて自分の席に置き直した。
雅臣「悪い、机借りてた。展示用の模型ができたから柊の持ってきた人形をここに並べてみようってことでさ」
楓「うわ……ガチじゃん」
夕太「でんちゃん!!これは雅臣の夢を詰め込んでるんだよ!?そんでこの子達を並べれば……」
柊はジルバニア人形を家の前に1つずつ並べていくが、不思議なことに9体もいる。
……俺が頼んだのは3体だったのにどういうことだ?
まぁたくさんいたところで置くスペースはあるし、可愛らしいから問題はないとしてもこんなに借りていいのだろうか。
夕太「このクジャクが蘭世先輩でー、この白フクロウは梅ちゃん先輩」
雅臣「えっ!まさかSSCの皆の分まで用意してくれたのか!?」
夕太「もちろん!!」
雅臣「そしたらこの……小さいクロヒョウが……」
夕太「もちろん雅臣だよ!」
ね?と柊は笑いかけてくれるがちょっとチョイスがおかしくないか?
俺役の小さいクロヒョウを挟むのは真っ白ワンピースを着たユキヒョウとサングラスにゴールドのネックレスをかけたやたら派手なスーツの黒ブタだ。
俺が頼んだのは自分と柊と蓮池の人形で、この理論だと……黒ブタが蓮池で白いヒョウが……柊?
こいつはどういう選び方をしているんだと言いそうになるが何とか口を閉じる。
いや、せっかく持ってきてくれたのにそれは失礼すぎるだろ。
でもよく見れば他にもヒヨコとマヌルネコはいるし、やっぱりこっちが柊と蓮池じゃないのかと戸惑っていると、
夕太「やっぱファミリーだからね!雅臣はほら、とっとと母ちゃんとこう理想の家族みたいにしたかったんだろうけど……」
楓「まぁ、ね。思い出を詰めるだのなんだの……結局家族の形を作りたかったんだろ?」
……。
…………ん?
家族?理想の?
何の話だ?
雅臣「何でここに親父と母さんが出てくるんだ?俺はその、俺と柊と、蓮池をモチーフにしたジルバニア人形がいたらなと……」
どうにも話がズレている気がしてならなくて、改めて俺はジルバニアを頼んだ理由を口にした。
20
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる