山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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332.【謎のジルバニアチョイス】

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朝1番の誰もいない教室で机に顔を伏せようとした瞬間、肋骨を圧迫して慌てて体を起こした。


雅臣「………はあ」


俺は本当にそろそろ恥辱で死ねる気がする。

昨日の出来事を思い返す度に羞恥が沸き立ち今朝から何度ため息をついたか分からないくらいだ。

まさかあのタイミングで三木先輩と遭遇するなんて……。

夕方から梓蘭世と打ち合わせの約束をしていた三木先輩は別の仕事の都合で早めに迎えに来たらしい。

俺と栄にいることは事前に聞いていたようで連絡がつかない時点で梓蘭世がお気に入りのランの館にいるだろうと目星をつけたそうだ。


三木『指輪交換でも何でもいいが___』


三木先輩の言葉に慌てて梓蘭世から離れたけれど、傍から見て公開プロポーズに思われたことが本当に恥ずかしい。


でも………。


首元に手をかざすとポロシャツの下に隠れてはいるが昨日梓蘭世から貰ったリングの感触が分かる。

あれから俺は絶対に梓蘭世と同じ大学に行くという誓いを立て、リングをPara_kidで貰ったネックレスに通した。

こうして肌身離さず持つことで勉強への意識が高まるし実際触れる度にやる気が満ちてくる。

一条先輩がどうするかは分からないが俺は2年後梓蘭世の待つ応慶大学へ本気で行きたい。

そう思っているからこそ今日から朝早く学校に来て勉強することにしたんだ。

家ではどうしてもゲームや料理に気が散りがちで朝早い学校なら集中できるんじゃないかと実行してみたがこれが思いのほか自分には合っている。

1時間しかない、と思うと集中力がアップし、やると決めた範囲以上の事ができた。

教室はまだ空っぽで他の生徒たちの声が聞こえてくる気配もなく時折外から運動部の声が遠くに響くだけだ。

男子校特有のざわついた雰囲気はまだ訪れず静けさがとても心地いい。

一通りの課題を終えて、スマホで時間を確認するとロック画面に広がるピンクの胡蝶蘭に思わず笑みが零れた。


雅臣「ふふ、」


小輪の3本立ちの胡蝶蘭は花弁が白から淡いピンク色へとグラデーションがかっていてとても綺麗だ。

昨日の庭園はらんの館と呼ばれるだけあり館内のあちこちに蘭が飾られ、温室のようなスペースでは珍しい品種まで売られていた。

帰り際にふと惹かれた胡蝶蘭はピンク色で思わず足を止めたくらいだ。

このくらいのサイズなら母さんの写真立ての前に飾るのも悪くないと見ていると、


蘭世『お前、どこも寄らんともう帰る?』

雅臣『はい』

蘭世『じゃあこれ1つください。母親のとこに飾っとけよ』


梓蘭世は恐ろしくスマートにプレゼントしてくれた。

リングだけじゃなく花までくれるなんて……!!

まるで何かの記念日のようだと感極まっていると三木先輩にため息をつかれてしまった。


三木『すまないな雅臣、うちのが変に懐いて』

蘭世『んだよ三木さんその言い草は』

三木『事実だろ?雅臣気をつけろよ、蘭世は子役上がりのせいか距離感バグってるんだ』


梓蘭世は不満気に三木先輩の背中を叩いていたが確かにそんな気もした。

リングをくれたり胡蝶蘭を買ってくれたりと梓蘭世は自分が認めた人に対してかなり距離感が近い。


雅臣「そうなると一条先輩は……」


常に梓蘭世の横にいる一条先輩は俺なんかよりもっと色々プレゼントを貰ったり構われたりしているってことか?

………俺みたいなミーハーはとんでもない勘違いをしそうだ。

芸能人からの特別扱いなんて一般人からしたら麻薬みたいなもので、もし三木先輩に釘を刺されてなかったら有頂天になるところだった。

そういう思い違いをすることのない一条先輩だからこそ梓蘭世は大好きなんだろうな。

少し思い出に浸っていると突然教室のドアが勢いよく開く。


夕太「あれ!?雅臣、早くない!?」


柊が息を弾ませながら飛び込んできて、俺は軽く手を上げて返事をしながらスマホをポケットにしまった。


雅臣「あぁ、柊おはよう」

夕太「何してた……って、うわ!!何これ!?」

雅臣「文化祭の展示用の模型だよ」


自席まできた柊は蓮池が来るまで机の上に置かせてもらった模型を身を乗り出すように眺める。

まるで珍獣でも見るようにそれを凝視し固まる姿に何かおかしいとこでもあるのかと尋ねた。


夕太「そりゃ俺がジルバニアとサイズ合わせるから見せてって言ったけど……こんな細かいの!?」

雅臣「そ、そうか?」


俺の将来の理想の家を模したミニチュア模型は自分で言うのもなんだがなかなかの出来栄えだ。

縮尺は1/100程で外観はパッと見普通の小さな白い洋館に見える。

天窓のついた屋根は深緑色で、玄関には小さなランタンを吊るし暗くなったらちゃんと灯りがつくよう細部まで拘った。

窓辺に並べた小さな鉢植えに咲く花は昨日貰った胡蝶蘭を見て急遽ピンク色に塗り直したのだが、柊が大袈裟なほど褒めてくれるのが嬉しくてつい仕掛けも披露する。


雅臣「こうすると、ほら」

夕太「待って中も見えるじゃん!すげぇ……!」


家は真ん中から開くような仕掛けで内部の1階には設計図通りに再現した部室が見える。

ホワイトボードに柊と梓蘭世がいつも座っているゲーミングチェア、クッションのシワの質感までいつ見ても思い出せるようにできるだけリアルに再現した。


夕太「マジですごすぎる……」

雅臣「思い出を詰めたくてさ?SSCの部室は俺にとって一番大事な場所だから」


柊は俺と模型を見比べると優しく微笑んだ。


雅臣「まだ塗装の仕上げが残ってるけど……一旦は完成したんだ。持ってきてくれた人形と合いそうか?」

夕太「めっちゃ合うと思う!俺雅臣のためにマジで厳選して選んできたから」


柊はガサゴソと自分のリュックからピンクのフリルが沢山着いた巾着を取り出しシュルとサテンのリボンを解く。

一体ずつ並べるのを眺めていると、


楓「……何してんの?」

夕太「でんちゃん!え、珍しく早くない?どしたの?」

楓「ジジイがうるさくてさ。なら学校で寝た方がマシだと思って……って何これ」


蓮池の席に置かせてもらっていた模型を指さされて慌てて自分の席に置き直した。


雅臣「悪い、机借りてた。展示用の模型ができたから柊の持ってきた人形をここに並べてみようってことでさ」

楓「うわ……ガチじゃん」

夕太「でんちゃん!!これは雅臣の夢を詰め込んでるんだよ!?そんでこの子達を並べれば……」


柊はジルバニア人形を家の前に1つずつ並べていくが、不思議なことに9体もいる。

……俺が頼んだのは3体だったのにどういうことだ?

まぁたくさんいたところで置くスペースはあるし、可愛らしいから問題はないとしてもこんなに借りていいのだろうか。


夕太「このクジャクが蘭世先輩でー、この白フクロウは梅ちゃん先輩」

雅臣「えっ!まさかSSCの皆の分まで用意してくれたのか!?」

夕太「もちろん!!」

雅臣「そしたらこの……小さいクロヒョウが……」

夕太「もちろん雅臣だよ!」


ね?と柊は笑いかけてくれるがちょっとチョイスがおかしくないか?

俺役の小さいクロヒョウを挟むのは真っ白ワンピースを着たユキヒョウとサングラスにゴールドのネックレスをかけたやたら派手なスーツの黒ブタだ。

俺が頼んだのは自分と柊と蓮池の人形で、この理論だと……黒ブタが蓮池で白いヒョウが……柊?

こいつはどういう選び方をしているんだと言いそうになるが何とか口を閉じる。

いや、せっかく持ってきてくれたのにそれは失礼すぎるだろ。

でもよく見れば他にもヒヨコとマヌルネコはいるし、やっぱりこっちが柊と蓮池じゃないのかと戸惑っていると、


夕太「やっぱファミリーだからね!雅臣はほら、とっとと母ちゃんとこう理想の家族みたいにしたかったんだろうけど……」

楓「まぁ、ね。思い出を詰めるだのなんだの……結局家族の形を作りたかったんだろ?」


……。

…………ん?


家族?理想の?

何の話だ?


雅臣「何でここに親父と母さんが出てくるんだ?俺はその、俺と柊と、蓮池をモチーフにしたジルバニア人形がいたらなと……」


どうにも話がズレている気がしてならなくて、改めて俺はジルバニアを頼んだ理由を口にした。


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