山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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182.【ややこしくするな!】

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___さぁ、蓮池!


いつものように俺に好きなだけ悪態をつくがいい!

だが待ち構える俺を完全に無視して、蓮池は三木先輩に言いがかりをつけた2年生の前に1歩ずいと踏み込んだ。


楓「ホビ丸出しでチーチー喚かれても何の話も入ってこんわ。今すぐホビット村に帰りな」


………。

…………ほ、ほび?


それがどんな意味を持つのかさっぱり分からず首を傾げるが、蓮池は何故か左手の親指と人差し指を合わせるギリギリの隙間から2年生を覗き込んでいる。


雅臣「お、おい蓮池!〝ほびっと〟ってなんだよ!?頼むからお前は話をややこしくしないでくれ!」

楓「あぁ!?部長のてめぇがぬるいこと抜かしとるから代わりに1発で仕留めてやったんだろうが!!感謝しろよ!!」

雅臣「は、はぁ!?〝ほびっと〟の何がどうしてこの2年を仕留めることになるんだよ!?」


普段は部長だなんて思ってもいないくせにこういう時だけ調子がいいのは勘弁して欲しい。

蓮池は般若のような顔で目の前の2年を睨んでいるが、一応こいつなりに三木先輩を思って俺に助太刀してくれたとはいえどうにも分かりづらい。


楓「そいつには通じるもんな?ほーら効いとる効いとる」


蓮池が顎で見ろと言わんばかりに指し示すので見ればそいつは顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。


蘭世「おー…キッツ」

梅生「す、すごいな蓮池……何かハラハラするね」


梓蘭世と一条先輩の様子からも、確実に〝ほびっと〟は蓮池流一撃必殺の悪口だと理解した。


「お、おい!てめぇ___」

楓「合唱大会で無様に負けといて人のせいにするだなんて俺はようやらんわ。三木先輩がいないと勝てません!僕達は弱いんです!実力なしの大敗野郎です!って自分で言ってるようなもんだろ。恥ずかしくないのかね」


蓮池の状況把握が早すぎるのと何より言葉選びが的確すぎて、体育館にいる合唱部全員が気まずそうな顔で俯いている。

意気揚々と話すこいつを止めることなんて俺にはとても出来ず、その光景を気の毒にと思いながら見つめることしかできないが……。

蓮池は項垂れるそいつらに向かって中指を突き立て舌を出したかと思うと、自分の首を掻っ切る振りまでして煽っているがいくら何でもやりすぎだ。

それにしても誰よりも口の立つ男が味方になるとこんなにも心強いんだなと胸を打つ。


___いやいや、感動してる場合じゃない。


食堂で俺と言い合いした時はまだ手加減してくれていたのかと思うほど今日の蓮池の言葉の切れ味が鋭すぎる。


「……は、蓮池、お前何様のつもりだよ!!」


耐えかねた合唱部の1人が飛び出してきたが、その襟の朱色を見て俺達と同じ1年生だと分かった。


楓「誰だてめぇ。知り合いでもねぇのに呼び捨てすんなよ」

夕太「バカだなでんちゃん。こいつクラスメイトじゃん?……ね、加藤?」


一刀両断の蓮池の横で柊は自信満々にチッチッと人差し指を振りながらにんまりと微笑んでいる。

しかし加藤と呼ばれた1年は信じられないという顔つきで2人を見つめて、呆然と立ち尽くしていた。


雅臣「……ば、馬鹿はお前だよ柊!こいつは加藤じゃなくて渡辺だろ!?クラスメイトの名前を間違えるなよ!」


それもそのはず、なんと柊はうろ覚えどころかかすりもしない苗字でクラスメイトを呼んでいたのだ。

俺は大慌てでふざけ顔の柊を叱り飛ばし礼を欠いた友達の代わりに部長として頭を下げる。


雅臣「悪いな、渡辺。俺からも柊によく言っておくよ」


これで円満に打ち解けることが出来るはずと微笑むが、何故か渡辺は俺を見て呆然を通り越して愕然としている。

体育館はシンと静まり返ってしまって、どうしたんだと周りを見渡せば、


三木「藤城、悪いがこいつは渡辺じゃなくて確か渡会わたらいだったと思うぞ」


至って冷静で誰よりもよく通る三木先輩の声が体育館に響いた。


…………。

……………………。



蘭世「違うんかい」

梅生「違うんだ」

雅臣「……!?」


梓蘭世と一条先輩がほぼ同時にツッコミを入れ、その声に俺はようやく我にかえる。

多分三木先輩は部活見学の時点で来た1年生の名前を全てきちんと覚えていたんだろう。

加藤でも渡辺でもなく渡会だった事実に、恥ずかしさのあまり今すぐここから逃げ出したくなる。

そんな俺を見ていやらしい顔で笑う蓮池はわざと手を上げ高らかに拍手をしだした。


楓「いやぁ……さすがボッチ野郎。クラスメイトの名前まで覚えてないとはな」

雅臣「お、覚えてないのはお前もだろうが!!」

夕太「もー…雅臣ってば三木先輩気取ってなれもしないのに部長のフリするからー」

雅臣「俺が部長だろ!?そもそも柊!!お前が間違えるから__」

楓「何夕太くんのせいにしとんだ陰キャ!!」

雅臣「お前は誰の味方なんだよ!?」

蘭世「ほんっとにうるせぇよお前ら!!練習しに来たんだろうが!!さっさとやるぞ!!」


蓮池とのやり取りを見て笑いながら俺に体当たりする柊に今日は殴ってもいいんじゃないかと拳を震わすが梓蘭世の一言で何とか堪える。


梅生「皆、早くしないと時間なくなるよ」

夕太「はーい!梅ちゃん先輩がそう言うなら」

楓「そうだね。一条先輩がそう言うなら」

蘭世「お前らぜってぇぶちのめす」


一条先輩の言うことはすぐに聞く2人に納得がいかない梓蘭世は、蓮池を思い切り蹴りつけ人望の差だと笑う柊の首を軽めのヘッドロックで締め上げる。

再びSSCで大騒ぎとなる中、


三木「うちの部員がすまないな、渡会」


やかましい俺達を笑顔で見守っていた三木先輩が絶妙なタイミングでSSCを代表して謝罪してくれた。

俺も三木先輩に倣い慌ててもう一度渡会に頭を下げると、物凄い形相で睨んでいたが渋々合唱部の方へ戻っていった。


楓「引っ込むなら最初から突っかかってくんなよだせぇな」

雅臣「は、蓮池もう止めろって!」


…………。

……………………。


一体何の話からこうなったんだ?

蓮池と柊が入ってきたことで訳が分からなくなったが、そういえば三木先輩が因縁をつけられたんだったと思い出す。

合唱部の面々も俺達の騒々しさに呆れたのかまだ騒いでいる梓蘭世と柊を見つめていて、今が事を収めるチャンスだ。

ここでまた三木先輩に言いがかりを付けられるのも嫌だし、今度こそ部長らしく俺が無理やりにでも丸く収めなければと仕切り直す事にする。


雅臣「あの、すみません。今からうちの練習時間なんで出てって貰えませんか?」


これで一段落ということにしてくれという気持ちも込めてどうぞと後方の扉を促した瞬間、合唱部の2年が俺を思い切り突き飛ばした。


夕太「おい何すんだよ!!」


それまで梓蘭世と暴れていた柊が直ぐに倒れた俺の傍まで来て支えてくれる。


楓「お前らがはっ倒したいのはこいつじゃなくて三木先輩だろうが。……あと梓蘭世?」

蘭世「おい梅ちゃんは、……まぁそれはないか」

楓「自覚あり、ですね」


ニヤリと笑う蓮池を梓蘭世は長い足で再び思い切り蹴飛ばす。

一条先輩は苦笑しながら柊と一緒に俺を立たそうとしてくれるが、蓮池が三木先輩と梓蘭世の名前だけを上げたのは秀逸だ。

何の害もない、しかも恨みを買うこともなく辞めた心優しい一条先輩にはさすがのこいつらとて文句はないだろう。


夕太「大体さぁ?蘭世先輩は見た目から嫉妬の対象なんだからもっと芋っぽく生きなよ」

蘭世「はぁ!?」

楓「それはそう。アンタあれの中にいたら嫌味ですよ、周りが引き立て役にもならないジャガイモに見えちまって可哀想に」

雅臣「と、とにかく今から練習なんで出てってください!」


また2人のせいで話が訳の分からない方向へ向かいそうになるので、全力で止めるために急いで立ち上がる。

しかしその瞬間合唱部員の誰かの舌打ちが体育館内にやけに響いた。


「言いたい放題言いやがって……三木先輩も梓も大会が終わってから辞めれば良かったんだよ!!」

「そんなどうでもいいサークルの練習は出て、俺らの練習には出ないって……梓もどういうつもりだよ」


こちらの態度にムカついたのか合唱部の奴らは不満を滲ませるが、その訳の分からない言い分に俺は空いた口が塞がらなかった。

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