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18. 意外な方法も、たまには見つかるものだ

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 浜場と島地が取り組むのは夏休みの宿題である。

 一方で、俺と白宮さんは当然のように課題を終わらせていた。


「まったく、二人とも勤勉なことで」

「白宮さんはそうだろうけどな…俺は別にそんなんじゃないぞ。娯楽を楽しみづらかったもんだから、これくらいしかすることがなかったんだ」


 常識が変わっても、元の世界と同じ漫画やアニメ、小説は存在していた。だがここは女の子がエロい服を着て日常生活を過ごしているのが常識の世界。有り体に言えば、俺が知るような若者向けコンテンツはほとんど二次創作のエロ同人みたいなものになってしまっていたのだ。

 それでいてストーリーがどれもほとんど変わっていないのは、一体どうなっているんだろう…


「お前らの価値観で言えば…普通の漫画で登場人物が3ページに1回キスしてたらどう思うよ」

「それは普通の漫画ではありませんね」


 白宮さんの言葉に、浜場と島地はうんうんと頷いた。


「そういうレベルなわけよ。エロは娯楽としては良いものだが、24時間365日摂取するもんじゃないんだよ」

「…一応、異性の前でエロについて語るのあんまりよくないと思うよ」

「あ、それはこっちでも同じなんだ」


 島地に諭され、口を噤む。

 …でも、それ島地が言えたことか…?

 考えたときには時既に遅し。俺は黙ってノートを開いた。


 ◆ ◆ ◆


「おっく…じゃなかった、はまちーこの漢字ってこうであってる?」

「合ってる合ってる。こっちも見てほしいんだけど、ここの因数分解ってさ…」


 ほう。

 俺や白宮さんに頼らずに進めようとする姿勢は素晴らしいな。

 それも、「どうやるの?」と答えを聞くのではなく、自分の答えが正しいかどうかを問うている。

 質問の仕方としては理想的だ。俺もこうありたい。


「あー、ここはマジでわからん…頼む白宮さん!教えてくれ!」

「数学なら奥原くんのほうが得意だと思いますよ。私は前回負けましたし」


 そう、前回の期末テストでは総合得点では同率1位だったものの、教科によっては俺が勝っていたのだ。

 まあそりゃ全教科同点とかなったら怖すぎるけど。

 …しかし白宮さん、根に持ってる?


「じゃあ奥原、教えてくれ!」

「はいはい」


 俺は苦笑いを浮かべながら、浜場の差し出したノートを受け取った。

 そのときに、ノートの端が白宮さんの消しゴムに当たって机の下へと落ちてしまう。


「あ、ごめん!」


 腕を机の下へやり、まさぐってみるが、手はカーペットを撫でるのみで、固形物を捉える様子はない。


「いいよいいよ、私がやるから」

「悪いな」


 俺がそう返すと、白宮さんは机の下に頭を潜り込ませんと…尻を突き出す姿勢になった。


「!?」

「ん?どした?」


 浜場が首を傾げる。

 が、俺はそれに構えずに、白宮さんに釘付けになってしまう。

 なにせ…スカートの下には、なにもなかった。

 なにも。


「あぁ、いや、なんでも、ない」


 ぎぎぎと不自然に震えながら、俺は顔をノートに戻した。

 だがその光景は脳裏に焼け付いたまま。

 …さて、世の中の健全なる精神をお持ちの男性たちよ。あ、いや今は男だけとは限らないな。危ない危ない、炎上するところだった。とにかく、そういうのが好きな皆様方よ。わかるだろうか、ただのボトムレスとスカートの下がノーパンであることの違いを!どちらも大事なところを晒すことには違いがないがスカートがあることで普段はパンツを履いているのと変わらない状態になる。すなわちそれは俺の世界の常識でも一見『外に出ても大丈夫な格好』ということに――


「なんでもなくないだろ」


 浜場の声が、俺に纏わりついた思考の霧を吹き飛ばした。

 危ない危ない。ノーパンの《世界》に引きずり込まれるところだった…

 その間に白宮さんは消しゴムを探り当て、勉強に戻っていた。


(ふう、まずいまずい…慣れるんだろ、俺)


 俺はペンを握りしめ、教科書に目を落とした。

 意味のある数式が、化学式が、漢詩が、年表が、俺の脳の熱を奪っていった。


 ◆ ◆ ◆


「終わったーー!!!」

「やったぁーー!!!」


 浜場と島地が同時に声を上げ、ついでに腕も上げる。

 島地の胸がぽよんと弾んで…見ないようにしよう。


「お疲れ様。課題、どこまで終わった?」

「言ったろ、『終わった』って」


 白宮さんの問いに、浜場と島地は得意気な表情で応えた。


「…まさか、課題を全部終わらせたのか?この短時間で?」

「もともと少しはやってたからな。それに…流石に、短時間じゃないだろ」


 浜場が苦笑しながら外を指差した。

 見れば、部屋には茜色の西日が差し込んで、思わず目を細めるほど眩しかった。


「最後の方は、みんな集中力高かったね…」

「マジでだな。…正直、女の子がいる環境で集中できたの、この世界に来てから初めてかもしれない」


 この日、俺は一つの真理にたどり着いた。

 極端なまでの集中は、この世界での俺の心の安寧に役立つらしい。

 今後この真理をどう活かすかは俺次第だが――俺もこの世界で普通に過ごせる目処が少しずつ立っているということに、俺は安心感を覚えた。

 …まあ、でも――スカート×ノーパンの白宮さんは、ちょっと刺激が強すぎた。
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