魔法が使えない女の子

咲間 咲良

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絶対にアレンを見つけるわ

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 一日、二日、三日と太陽が昇っては落ちた。

 わたしは朝起きて顔を洗うとすぐにおばあちゃんにアレンのことが分かったか聞いて首を振られ、学校に行く前にティンカーベル書房に寄ってはルシウスさんにも首を振られる毎日を送っていた。

 放課後はもちろんティンカーベル書房でアレンを探すのが日課。もしかしたらと思って街の中を走り回ってみたこともある。アレンの雪髪はとても珍しいので街の人にも聞いてみたけれど、みんな首を振るばかりだったの。

 四日が過ぎて、明日は夏至祭。今日の魔法の授業は森の近くにある『笑いの丘』に来たの。

「さぁみなさん。女の子は冠、男の子は首飾りにするための花を摘みましょう。根っこをいためないよう丁寧に摘んでね」

 マティウス先生の合図でみんなが一斉に散らばっていく。わたしはあまり動きたい気分じゃなくて、立っていたところにしゃがんで花を摘んだ。


 アレン、どこにいるの。
 アレン、本当にいなくなっちゃった?
 アレン。


「エマ、もうカゴに乗りきらないよ」

「え? あ、いつの間に」

 ハンナに言われて、カゴいっぱいに菜の花を摘み上げていることに気づいた。しかも根っこから。
 自分の足元を摘みきって茶色い地面が出ていたので少し埋め戻しておくことにした。ごめんなさい菜の花さん。

「手伝うよ」
「ありがとうハンナ」

 両手で土をかけようとすると手首がきらっと光った。本のブックマーカーがわりのピンク色のリングだわ。よく見るとちいさな星が彫りこまれている。

 アレンと旅した冒険の証だけれど……いまは見るのがつらくて、そっと袖で隠す。

「最近のエマ元気ないね。ため息ばっかりついてるし、目の下にクマできてるよ」

 ハンナが顔をのぞき込んでくる。わたしは髪の毛でさっと隠した。

「うん……ちょっと、寝不足で」

「人探しているんだっけ? あたし本当にお茶会で話した? 全然覚えてないだけと」

 ハンナにももう何度も「アレンを知ってる?」って聞いてる。でも、こんな調子。お茶会にはわたししかいなかったって言うの。

 この数日間で、わたしはどんどん自信がなくなってきた。アレンのことを聞くとみんな揃っておかしなものを見るような顔になるから、口にすることが段々怖くなってきたの。


 もしかしたらアレンは、わたしが見た夢なんじゃないの?


 そうだったらもう悩まなくて済む。ラクになれる。夜もぐっすり寝られる。
 でも、わたしが忘れたらアレンはもう本当にどこにもいなくなってしまう。

「オイ、『魔法ナシ』」

 鼻先にポピーの花がふたつ差し出されていた。そのまま上を見るとエドガーがそっぽを向いている。

「とりすぎた。やるよ」

「え?」

「やるっつってんだよ」
 無理やり押しつけられたけれど、ピンクとオレンジのポピーはとってもきれい。

「ありがとうエドガー」

「べつに。上から見てたくさん咲いていたからな」

 エドガーのカゴの中身は雑草や土、小さい昆虫ばっかりね。毎年草だらけの首飾りを作ってみんなに笑われているのに。

「エドガー、お礼に菜の花をあげるわね。ちゃんと作らないと怒られるわよ」

「ちょっとでいい。今回はクリスマスの飾りとかで派手にするつもりだからな」

「もう、夏至祭をなんだと思ってるのよ。冬のものなんて――」

 ちくっとのどが痛んだ気がした。雪の塊を飲み込んだときみたいな感覚。アレンと別れたときに飲み込んだカケラかもしれない。


「ん、なんだよエマ」

「エマ、どうしたの? どこか痛いの?」

「……ううん、なんでもない。なんでもないの」

 必死に頬を上げてみたけれど、胸が痛くてたまらない。

 おかしいわね。わたし、いつもいつもバカみたいに笑っていたのに、いまは笑い方が分からない。ちゃんと笑えているか不安になるくらい。


「――あ、そういえば思い出した」
 ハンナが突然手をたたいた。

「お茶会の席に花が飾ってあったね。きれいなポピーだった」

「ポピーの花……」

「あとエマのとなりの席ずっと空いていたね。お客さん来る予定だったの?」

 わたしのとなりは、アレンよ。ポピーを持ってきてくれたのも。
 ハンナはそのことを覚えてる?

「オイ、みろこれ」

 目の前にぎょろっとした目玉。ヒキガエルだわ。ハンナがすごい勢いで立ち上がる。

「いやぁー! なんてもの持ってくるのよー!」

「ヒキガエルをバカにすんじぇねー。すんげージャンプ力なんだぞ、ゲコゲーコ」

「もうやだあっち行って! 気持ち悪い! エマのお茶会でも大きなカエルみてしばらく夢に出てきたんだからね!」

「追いかけろゲコゲーコ」

 追いかけっこをするふたりを見送って、わたし、ポカーンとしてしまった。


 胸の奥にじわっと暖かいものが広がったのよ。

 どうしてかって? だって、ふたりが忘れているだけでアレンが存在していたことがハッキリと分かったからよ。

 ポピーを持ってきてくれたのも、となりに座ったのも、エドガーをカエルにしたにもアレンだわ。もしわたしの夢の中の出来事だったら、ふたりが覚えているはずがないでしょう?

 あぁアレン、ごめんなさい。わたしラクしようとしていた。あなたのことをなかったことにして今夜はぐっすり眠ろうなんて考えてた。

 でもやめた。「かくれんぼ」しているアナタをわたしが見つけてあげる。絶対に。


 さんざんハンナを追いかけ回していたエドガーがカエルを抱いて戻ってきた。わたしの顔をのぞき込んで、バカにしたように笑う。

「んだよ、やっと笑ったのかよ。泣きながら笑ってるし。変なやつ」

「へっ、変じゃないわ! これはうれし泣きなのよ!」

「変なやつ、変なやつ、ゲコゲーコ」

 もう怒ったわ。言いつけてやる。

「せんせー! エドガーが意地悪します―!」

「オレ悪くないぞー!」
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