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二話
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大会に向けての練習が始まり数週間が経った。
「今のは柄本が若干、出るの速かったかな。川田も最後渡すところで速度落としたな」
俺は今、バトンパスの練習に参加している。
……とは言っても基本的には見学でアドバイスを出す。
たまに並走したりして本番に近い形で練習もするがこれがいい練習方法なのかは分からない。
「あーまじか。サンキュー」
柄本がこちらに寄ってきながら走ったせいで鼻を滑り落ちそうになる眼鏡を左手で押し上げる。
「もうちょい遅くても良いんじゃない? 」
「おっけー次は2歩くらい遅く出てみる」
柄本が俺に腕を上げ、水飲み場に走っていくのを見て俺は額の汗を拭った。
明日は大会。
地区で行われる大会なのでここで勝たなければ県大会には出られない。
リレーはもちろん、個人競技もそうだ。
俺は男子400m競走に出場する。今日まで死ぬほどキツい練習にも食いつくように挑んできた。
同じく男子400m競走に出場する高坂を追いかけるように。
俺は県大会を目指して、高坂は全国大会を目指すように、部員全員が自分の目指す目標と大会に向けて練習してきた。
3年の俺たちは最後のレースになる。
だから悔いの残らない走りをしなくちゃならないんだ。
「ユズ」
後ろから声を掛けられ、振り返る。
そこにはいつもノーテンキな川田が真剣な表情で立っていた。
二人の時はずっと笑っているようなやつだから自然と身構えてしまう。
「明日……絶対勝つから」
「うん」
それだけ言って川田はリレーの練習に向かった。
俺はそのやる気に満ち溢れた川田の背中を見て、自分の練習に取り掛かろうとした時――
「集合! 」
部長の荻原が遠くで陸上部員に声をかける。
その声を聞き、走って荻原の方に駆け寄った。
話すことがあるのは恐らく先生だと分かっているからだ。
全員が集合すると座っていた顧問の先生は立ち上がり、円を描くように並んだ俺らの顔を一人一人見ていく。
そんな先生の顔はどこか嬉しそうでもあり、強気にも思えて、いつもの表情とはかけ離れていた。
「――勝てるな」
納得したように頷き、話を始める先生。
希望に満ち溢れたその表情に俺は目を離せないでいた。
――どうしてそんなに笑顔になれるのか。
――どうしてそんなにやる気に満ち溢れているのか。
そんな先生、そして陸上をやっている人達の気持ちが分からずにいた。
「おはようございます」
翌日の朝、部員が集まった事を確認し全員で先生のいる放送室へと向かった。
陸上競技場に来たのは一ヶ月ぶりになるだろうか。
まだ6時だというのに多くの学校が集まりウォーミングアップなどをしており大会内は熱気に包まれている。
「今日は地区大会です。悔いの残らない走りをしましょう」
荻原の一言で場の空気が少し変わる。どんよりとした暗いものではなく、明るくて心地の良い感じ。
先生は朝から忙しそうだったが俺たちの顔を見るとまた満足そうな顔を浮かべ、昨日と同じような内容の話をした。
「高坂、手塚……お前らもうアップ行くのか? 」
「はい。招集時間が7時20分からなので」
「そうか、分かった……手塚」
高坂と先生が話しているのを頷きながら聞いていると俺の名前を呼ばれ、ドキリとする。
でも、怒るなどの雰囲気ではない。
「……はい」
恐る恐る返事をすると、先生はニヤリと微笑み俺の肩を思い切り叩く。
「何しけた顔してるんだよ。もしかして緊張してんのか? 」
「そ、そうですなんか怖くて……」
咄嗟に出たその言葉が妙に納得するものだった。
俺は走るのが、負けるのが、誰かと比較されるのが怖い。
思えば、1年生の頃からだ。
ただ運動して、足が速くなりたいという単純な理由で入った陸上部だったけど、いざやってみると自然に走るのが好きになっていた。
走るのが好きだけど、走るのが嫌い。
そんな矛盾が俺の中にはあったのかもしれない。
「緊張してもいい、だけどその緊張を心地いいと思えるものに変えてけ。そうすれば大丈夫。行ってこい」
先生に伝わったのかは分からないけど、笑顔で話してくれるのは嬉しかった。
いつも怖い顔ばかりしてた先生が俺にも、リレーメンバーに向けるような笑顔を浮かべてくれたのが少しばかり気持ちを楽にさせてくれる。
「行ってきます」
俺と高坂は頭を下げてその場を後にした。
「あんまり力み過ぎるなよ」
「おう。ほどほどにしとくから大丈夫」
高坂が準備体操をしながら話しかけてくる。
今は大会会場の陸上競技場ではなく、選手がウォーミングアップのために使える第2陸上競技場で俺たちは練習をしていた。
今頃、部活の皆は地区大会の開会式に出ているだろう。
俺たちは競技があるので準備運動優先だ。
だが400mに出場する選手はあまり多くなく、トラックにちらほら人が疎らにいるだけだった。
「人、少ないな」
「確かに。400m出場するやつは数人いるけど、他は走り幅跳びとかかも」
「お前には知り合いばっかりいて羨ましいよ」
「別にそうでもないだろ、今日は全員敵なんだから。もちろん柚巴もだ。仲間だけど敵」
あははと笑う高坂はとても楽しそうで緊張なんて全くしていなそうだった。
高坂は県に選抜されていてそこで何回か練習をする内にいろんな人と仲良くなったらしく、知り合いも多い。
だから高坂と歩いていると度々話しかけられるが、俺は初対面なので話には入らないし、入れないので少し距離を置いたりしている。
高坂の隣を歩いているのが無名の俺という事が醜くて仕方がないからだ。
「どうした? なんか浮かない顔してるけど」
「いや、なんでもないよ。そろそろ走ろうぜ」
たまに鋭いやつは本当に困る。
そう思いながら俺はトラックを走り始めた。
「7414番ゼッケンとスパイクを見せてください――」
今は召集所で選手確認が行われている。
400m走に出場する選手が次々と呼ばれていく。人数はだいたい20人前後とかなり少ない。
俺は2組目で高坂は3組目。
内心、ほっとしていた。
高坂と走ると惨めさや滑稽さが襲ってくるからだ。
部活とは違い実況が行われ、観客全員が見ている中でたった8人だけが走る。
緊張しないはずがなかった。
座っているのに足も手も震えてくる。
日陰にいるのに汗が流れてくる。
「確認出来ましたので選手の皆さんは移動してください」
係員の声がかかり選手が一斉に動き出す。
もう競技が始まってしまう。
そう考えると頭が真っ白になりそうだ。
胸を叩いて深呼吸をするが特に緊張が解けたりする訳でもなく俺は止まらない汗を拭いながらゆっくりとスタート地点に向かった。
室内から外に出れば日差しが照りつけ、思わず腕で顔を隠してしまうほどに眩しく、そして暑い。
目の前には400mトラックが広がり、スタート地点にはスターティングブロックが設置されていた。
本番だ。
今までやってきた三年間の事を1分も満たないレースに全てをぶつける。
たったそれだけのために俺たちは練習してきた。
でもそれが陸上の良さでもあるかもしれない。
俺がスパイク履き少し走ったりしてスパイクを足に馴染ませていると1組目がトラックに入り始めた。
1組目は7人で走るらしく、1レーンが空いている。
一人一人が自分にあった位置にスターティングを置く。
一度だけスタート練習をして感覚を確かめ、全員がゆっくり戻ってきてスターティングブロックの後ろに着いたところで明るいBGMが大音量で流れ始める。
男子400m走予選の開始だ。
「オンユアマーク」
係員がマイクを使い合図をしそれに従い、選手たちはスターティングブロックに足を合わせクラウチングスタートの姿勢になる。
競技場が静寂に包まれる。
先程まで聞こえていた誰かの笑い声も話し声も、風の音も聞こえない。
「セット」
選手が腰を上げ――
パンッ!
スターターピストルが大きな音を立てた瞬間、選手が一斉に体を起こし走り出す。
この選手達がゴールしたら次は俺の番だ。
俺はトラックを見るのをやめて目を瞑る。
緊張し過ぎると良くないと分かっているから、俺は下を向いて目を瞑り走るイメージをする。
しっかり練習の成果を出して勝ち、喜ぶ姿を思い浮かべた。
気づけば1組目は走り終えており、息切れしながら帰って来たところで大きなスクリーンにリザルトが出る。
「柚巴、頑張れよ」
「おう」
後ろから肩に手を置かれる。
けれど俺は後ろを振り返らずにスターティングブロックの前に立った。
俺は6レーンで外側の方だ。
自分が最適だと思う所にスターティングブロックを置き、歩幅に合わせて設定する。
いつもの練習と同じようにクラウチングスタートの姿勢をして走り出す――
50m程走って感覚を確かめた。
いつもより走りやすく丁度良いのでスタートは好調だ。
他の選手達も俺と同じようにスタート練習をして感覚を確かめている。
やがて全員が戻りまた、BGMがかかった。
「オンユアマーク」
聞き飽きたその合図が耳に入ってきて一礼をする。
緊張はしてない。
怖くもない。
ただ目の前には自分が走るべきコースがあった。
スターティングに左足、右足と体重を乗せていく。
下を向けば白線があり、その少し手前に両手を置いた。
「セット」
瞬間、腰を思い切りあげ――
パンッ!
走り出す。
自分の全速力で。
自分が行くべきところに向かってただ走る。
「はぁ……はぁ」
息が切れても疲れても速度を落とさない。
むしろここからが勝負だ。
残り200m。
頭の中はそれだけ。
走ることだけを考える。
第4コーナーに差しかかったところで周りの足音が大きく聞こえてきた。
息切れが激しい。
足が回らない。
けれど自分の出せる全力を出す。
ラスト100m!
最後の直線に差し掛かりゴールが見える。
ライバル達の息切れが――
部活メンバーの応援が――
俺に届く――
「ふっ――」
自分より後ろのやつに抜かされないように、俺より少し前にいるやつに抜かせるように。
俺は走る。
0.1秒のその先を目指して――
「今のは柄本が若干、出るの速かったかな。川田も最後渡すところで速度落としたな」
俺は今、バトンパスの練習に参加している。
……とは言っても基本的には見学でアドバイスを出す。
たまに並走したりして本番に近い形で練習もするがこれがいい練習方法なのかは分からない。
「あーまじか。サンキュー」
柄本がこちらに寄ってきながら走ったせいで鼻を滑り落ちそうになる眼鏡を左手で押し上げる。
「もうちょい遅くても良いんじゃない? 」
「おっけー次は2歩くらい遅く出てみる」
柄本が俺に腕を上げ、水飲み場に走っていくのを見て俺は額の汗を拭った。
明日は大会。
地区で行われる大会なのでここで勝たなければ県大会には出られない。
リレーはもちろん、個人競技もそうだ。
俺は男子400m競走に出場する。今日まで死ぬほどキツい練習にも食いつくように挑んできた。
同じく男子400m競走に出場する高坂を追いかけるように。
俺は県大会を目指して、高坂は全国大会を目指すように、部員全員が自分の目指す目標と大会に向けて練習してきた。
3年の俺たちは最後のレースになる。
だから悔いの残らない走りをしなくちゃならないんだ。
「ユズ」
後ろから声を掛けられ、振り返る。
そこにはいつもノーテンキな川田が真剣な表情で立っていた。
二人の時はずっと笑っているようなやつだから自然と身構えてしまう。
「明日……絶対勝つから」
「うん」
それだけ言って川田はリレーの練習に向かった。
俺はそのやる気に満ち溢れた川田の背中を見て、自分の練習に取り掛かろうとした時――
「集合! 」
部長の荻原が遠くで陸上部員に声をかける。
その声を聞き、走って荻原の方に駆け寄った。
話すことがあるのは恐らく先生だと分かっているからだ。
全員が集合すると座っていた顧問の先生は立ち上がり、円を描くように並んだ俺らの顔を一人一人見ていく。
そんな先生の顔はどこか嬉しそうでもあり、強気にも思えて、いつもの表情とはかけ離れていた。
「――勝てるな」
納得したように頷き、話を始める先生。
希望に満ち溢れたその表情に俺は目を離せないでいた。
――どうしてそんなに笑顔になれるのか。
――どうしてそんなにやる気に満ち溢れているのか。
そんな先生、そして陸上をやっている人達の気持ちが分からずにいた。
「おはようございます」
翌日の朝、部員が集まった事を確認し全員で先生のいる放送室へと向かった。
陸上競技場に来たのは一ヶ月ぶりになるだろうか。
まだ6時だというのに多くの学校が集まりウォーミングアップなどをしており大会内は熱気に包まれている。
「今日は地区大会です。悔いの残らない走りをしましょう」
荻原の一言で場の空気が少し変わる。どんよりとした暗いものではなく、明るくて心地の良い感じ。
先生は朝から忙しそうだったが俺たちの顔を見るとまた満足そうな顔を浮かべ、昨日と同じような内容の話をした。
「高坂、手塚……お前らもうアップ行くのか? 」
「はい。招集時間が7時20分からなので」
「そうか、分かった……手塚」
高坂と先生が話しているのを頷きながら聞いていると俺の名前を呼ばれ、ドキリとする。
でも、怒るなどの雰囲気ではない。
「……はい」
恐る恐る返事をすると、先生はニヤリと微笑み俺の肩を思い切り叩く。
「何しけた顔してるんだよ。もしかして緊張してんのか? 」
「そ、そうですなんか怖くて……」
咄嗟に出たその言葉が妙に納得するものだった。
俺は走るのが、負けるのが、誰かと比較されるのが怖い。
思えば、1年生の頃からだ。
ただ運動して、足が速くなりたいという単純な理由で入った陸上部だったけど、いざやってみると自然に走るのが好きになっていた。
走るのが好きだけど、走るのが嫌い。
そんな矛盾が俺の中にはあったのかもしれない。
「緊張してもいい、だけどその緊張を心地いいと思えるものに変えてけ。そうすれば大丈夫。行ってこい」
先生に伝わったのかは分からないけど、笑顔で話してくれるのは嬉しかった。
いつも怖い顔ばかりしてた先生が俺にも、リレーメンバーに向けるような笑顔を浮かべてくれたのが少しばかり気持ちを楽にさせてくれる。
「行ってきます」
俺と高坂は頭を下げてその場を後にした。
「あんまり力み過ぎるなよ」
「おう。ほどほどにしとくから大丈夫」
高坂が準備体操をしながら話しかけてくる。
今は大会会場の陸上競技場ではなく、選手がウォーミングアップのために使える第2陸上競技場で俺たちは練習をしていた。
今頃、部活の皆は地区大会の開会式に出ているだろう。
俺たちは競技があるので準備運動優先だ。
だが400mに出場する選手はあまり多くなく、トラックにちらほら人が疎らにいるだけだった。
「人、少ないな」
「確かに。400m出場するやつは数人いるけど、他は走り幅跳びとかかも」
「お前には知り合いばっかりいて羨ましいよ」
「別にそうでもないだろ、今日は全員敵なんだから。もちろん柚巴もだ。仲間だけど敵」
あははと笑う高坂はとても楽しそうで緊張なんて全くしていなそうだった。
高坂は県に選抜されていてそこで何回か練習をする内にいろんな人と仲良くなったらしく、知り合いも多い。
だから高坂と歩いていると度々話しかけられるが、俺は初対面なので話には入らないし、入れないので少し距離を置いたりしている。
高坂の隣を歩いているのが無名の俺という事が醜くて仕方がないからだ。
「どうした? なんか浮かない顔してるけど」
「いや、なんでもないよ。そろそろ走ろうぜ」
たまに鋭いやつは本当に困る。
そう思いながら俺はトラックを走り始めた。
「7414番ゼッケンとスパイクを見せてください――」
今は召集所で選手確認が行われている。
400m走に出場する選手が次々と呼ばれていく。人数はだいたい20人前後とかなり少ない。
俺は2組目で高坂は3組目。
内心、ほっとしていた。
高坂と走ると惨めさや滑稽さが襲ってくるからだ。
部活とは違い実況が行われ、観客全員が見ている中でたった8人だけが走る。
緊張しないはずがなかった。
座っているのに足も手も震えてくる。
日陰にいるのに汗が流れてくる。
「確認出来ましたので選手の皆さんは移動してください」
係員の声がかかり選手が一斉に動き出す。
もう競技が始まってしまう。
そう考えると頭が真っ白になりそうだ。
胸を叩いて深呼吸をするが特に緊張が解けたりする訳でもなく俺は止まらない汗を拭いながらゆっくりとスタート地点に向かった。
室内から外に出れば日差しが照りつけ、思わず腕で顔を隠してしまうほどに眩しく、そして暑い。
目の前には400mトラックが広がり、スタート地点にはスターティングブロックが設置されていた。
本番だ。
今までやってきた三年間の事を1分も満たないレースに全てをぶつける。
たったそれだけのために俺たちは練習してきた。
でもそれが陸上の良さでもあるかもしれない。
俺がスパイク履き少し走ったりしてスパイクを足に馴染ませていると1組目がトラックに入り始めた。
1組目は7人で走るらしく、1レーンが空いている。
一人一人が自分にあった位置にスターティングを置く。
一度だけスタート練習をして感覚を確かめ、全員がゆっくり戻ってきてスターティングブロックの後ろに着いたところで明るいBGMが大音量で流れ始める。
男子400m走予選の開始だ。
「オンユアマーク」
係員がマイクを使い合図をしそれに従い、選手たちはスターティングブロックに足を合わせクラウチングスタートの姿勢になる。
競技場が静寂に包まれる。
先程まで聞こえていた誰かの笑い声も話し声も、風の音も聞こえない。
「セット」
選手が腰を上げ――
パンッ!
スターターピストルが大きな音を立てた瞬間、選手が一斉に体を起こし走り出す。
この選手達がゴールしたら次は俺の番だ。
俺はトラックを見るのをやめて目を瞑る。
緊張し過ぎると良くないと分かっているから、俺は下を向いて目を瞑り走るイメージをする。
しっかり練習の成果を出して勝ち、喜ぶ姿を思い浮かべた。
気づけば1組目は走り終えており、息切れしながら帰って来たところで大きなスクリーンにリザルトが出る。
「柚巴、頑張れよ」
「おう」
後ろから肩に手を置かれる。
けれど俺は後ろを振り返らずにスターティングブロックの前に立った。
俺は6レーンで外側の方だ。
自分が最適だと思う所にスターティングブロックを置き、歩幅に合わせて設定する。
いつもの練習と同じようにクラウチングスタートの姿勢をして走り出す――
50m程走って感覚を確かめた。
いつもより走りやすく丁度良いのでスタートは好調だ。
他の選手達も俺と同じようにスタート練習をして感覚を確かめている。
やがて全員が戻りまた、BGMがかかった。
「オンユアマーク」
聞き飽きたその合図が耳に入ってきて一礼をする。
緊張はしてない。
怖くもない。
ただ目の前には自分が走るべきコースがあった。
スターティングに左足、右足と体重を乗せていく。
下を向けば白線があり、その少し手前に両手を置いた。
「セット」
瞬間、腰を思い切りあげ――
パンッ!
走り出す。
自分の全速力で。
自分が行くべきところに向かってただ走る。
「はぁ……はぁ」
息が切れても疲れても速度を落とさない。
むしろここからが勝負だ。
残り200m。
頭の中はそれだけ。
走ることだけを考える。
第4コーナーに差しかかったところで周りの足音が大きく聞こえてきた。
息切れが激しい。
足が回らない。
けれど自分の出せる全力を出す。
ラスト100m!
最後の直線に差し掛かりゴールが見える。
ライバル達の息切れが――
部活メンバーの応援が――
俺に届く――
「ふっ――」
自分より後ろのやつに抜かされないように、俺より少し前にいるやつに抜かせるように。
俺は走る。
0.1秒のその先を目指して――
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