3 / 4
三話
しおりを挟む
あれから2ヶ月ほど経った。
俺はまだ部活を続けている。
だけど――
「相川、今の渡し方良かったよ」
選手としてではない。
リレーメンバーの補欠としてだ。
あの日、地区大会の日、俺は負けた。
他校の選手に、そして自分に。
地区内9位。
決勝に出場する事が出来るのは8人までだ。
俺は後、0.2秒足りなかった。
たった0.2秒速かっただけで、俺は県大会に出場出来た。
でもそういう結果になってしまった。
ただそれだけの事だ。
それが陸上競技というものなのだ。
あの後、先生も友達も部活メンバーも惜しかったと一緒になって悔しがってくれたし、特に高坂なんかは一緒に走りたかった――なんて言ってくれた。
俺はあの後、泣くことも悔しがることもなくリレーメンバーのサポートに行った。
皆は励ましてくれたけど、もうどうでもよくなっていたんだ。
負けは負けだ。
後悔してもその結果だけがまとわりついて来る。
だってその日、負けたのは三年の男子の中で俺だけだったのだから。
相川は100mで県大会に出場したが準決勝で惜しくも負けてしまった。
江本も100mで県大会に出場したが予選敗退だ。
川田は110mハードルで県大会に出場、こちらも予選敗退。
荻原は1500m、800m共に県大会出場し800mでは4位入賞
安橋は砲丸投げで県大会に出場し2位に入賞していた。
高坂は400m。
あいつは県大会に出場し、更に大会新記録を更新して全国大会を決めた。
そして、リレーは県大会に出場し、見事1位で全国大会出場のチップを手にした。
そして俺、手塚 柚巴は400m地区大会敗退。
7人の中で俺だけが恥のような戦績を収めた。
だけど皆気を使ってくれたのだろう、誰も俺の事を掘り下げてくるやつはいなかった。
男子リレーが全国を決める数秒前――
俺はどこかで負けろ、なんて思ってたのかもしれない。
そうすれば俺は目立たなくて済むから。
そんなクズのような考えをしていた。
けれど結果は俺が思うようには行かない。
だからこうして今、俺は夏休みなのにも関わらず、部活に参加している。
「手塚、お前は全国に行きたいか」
県大会が終わった月曜日の朝。
あの日、俺は先生に呼び出されていた。
「補欠であるお前は全国大会に行っても行かなくても大丈夫なんだ。大阪で4泊5日と金もかかるし3年生は受験も控えてる。だから行くのを決めるのは私じゃなくて手塚自身だ」
先生に資料を渡されながら説明をされていた。
全国大会に行ってサポートをするか。
全国大会には行かず、夏休みは部活にも参加せず受験に向けて勉強するか。
どっちかを選べと、そういう事だろう。
「今日、親と話してくるので明日でもいいでしょうか」
「ああ、いつでもいいぞ。お前がいてくれたら助かるっていうのが本当の事なんだが、私が勝手に決めるのは得策じゃないからな」
お前がいてくれたら助かる――か。
その言葉を自分の中でオウム返しし、一礼して職員室から退室した。
俺はまだ進路を決めていない。
行きたい学校もなければ叶えたい夢もないのだ。
だから勉強はどうせしないだろうなとは思っていた。
俺はもう部活を引退してもいいのだ。
あの地獄のような練習から解き放たれて夏休みを過ごせるのはとても良い提案だった。
だけど――
「お前を絶対全国に連れてくから! だから観とけよ! 」
県大会の日川田がレース前、俺に言った言葉を不意に思い出す。
あの言葉に俺はどこか救われていたのかもしれない。
多分あいつなりに気を使ったんだと思う。
友達として部活員として、ライバルとして。
だから俺は迷わなかった。
後日、朝学校に登校してすぐに先生の所に行く。
「先生、俺全国行きます。行かせてください」
頭を下げ、返事を待つ。
「ああ、分かった。ありがとう」
先生はそれだけ言って手を差し伸べてくる。
俺は一瞬、戸惑いながらもその手を取り握手を交わした。
そうして今に至ったという訳だ。
補欠なのでいつでも走れるよう、地獄のような練習には参加させられるし、先生には誰よりも怒られているけど満足している。
リレーメンバーを決めた日、俺はどうしようもなく悔しかった。
県大会でリレーが勝った時、どうしても俺だけ素直に喜べなかった。
だけど今は勝って欲しいと心の底から思ってる。
全国大会で結果を残せた時、きっと俺は胸を張って部活を引退出来る。
だって、友達が認められるっていうのは第三者からしても嬉しいから――
「オンユアマーク」
三年間聞き続けきた合図が耳に響く。
360度どこを観ても観客で席が埋まっているのにも関わらず誰も声を発さない。
風も虫も音を立てない。
静寂だけが許された空間で1走者目が屈みスタートの姿勢を取る。
手には遠くからでもよく見えるキラキラとしたバトンが握られている。
「セット」
8人の選手が同時に腰を上げ――
パンッ!
スターターピストルが大きな音を立てたのを合図に相川が走り出す。
4レーンなのでやや後ろからスタートだが、周りと走力はほとんど変わらずしっかりと着いていく――
85mほど走ったところで2走者目の高坂にバトンが渡る。
「セーフかな……」
練習通りテイクオーバーゾーンぎりぎりでのバトン渡しに成功し高坂が走り出す。
周りとの差はほとんどない。
全力走る――
そして第3コーナー手前。
3走者目である柄本にバトンが渡る――
「やばいな……」
観客席からでも分かるくらい、柄本が出るタイミングが遅く少し詰まったが問題はなさそうだった。
だが、バトンパスのタイミングで大きく差が開き他の選手に置いていかれてしまう。
それでも柄本は全力で走る。
決して諦めず食いつくように――
そして第4コーナー手前まで来る。
最後は川田だ。
「頼む……」
柄本が渡そうとして――
「ちょっと待って……! 」
柄本の声がここまで聞こえてくる。
その声で川田が少し速度を落とす。
「はい! 」
バトンが渡った。
だけど――
1番遅れてバトンが渡り川田は背中を追いかけることになる。
そして俺たちは1番遅れてゴールした。
「あれはアウトかもしれないな……」
俺は第2コーナーからストップウォッチでタイムを測っており、見ていた限りでは完全に柄本と川田の所でタイムロスがあった。
原因は恐らく、川田が早く出過ぎたためだろう。
柄本が追いつけずテイクオーバーゾーンぎりぎりか、それとも……。
「失格だけは辞めてくれよ……」
そう願うばかりにストップウォッチのタイムは動き続けたままだった。
俺はまだ部活を続けている。
だけど――
「相川、今の渡し方良かったよ」
選手としてではない。
リレーメンバーの補欠としてだ。
あの日、地区大会の日、俺は負けた。
他校の選手に、そして自分に。
地区内9位。
決勝に出場する事が出来るのは8人までだ。
俺は後、0.2秒足りなかった。
たった0.2秒速かっただけで、俺は県大会に出場出来た。
でもそういう結果になってしまった。
ただそれだけの事だ。
それが陸上競技というものなのだ。
あの後、先生も友達も部活メンバーも惜しかったと一緒になって悔しがってくれたし、特に高坂なんかは一緒に走りたかった――なんて言ってくれた。
俺はあの後、泣くことも悔しがることもなくリレーメンバーのサポートに行った。
皆は励ましてくれたけど、もうどうでもよくなっていたんだ。
負けは負けだ。
後悔してもその結果だけがまとわりついて来る。
だってその日、負けたのは三年の男子の中で俺だけだったのだから。
相川は100mで県大会に出場したが準決勝で惜しくも負けてしまった。
江本も100mで県大会に出場したが予選敗退だ。
川田は110mハードルで県大会に出場、こちらも予選敗退。
荻原は1500m、800m共に県大会出場し800mでは4位入賞
安橋は砲丸投げで県大会に出場し2位に入賞していた。
高坂は400m。
あいつは県大会に出場し、更に大会新記録を更新して全国大会を決めた。
そして、リレーは県大会に出場し、見事1位で全国大会出場のチップを手にした。
そして俺、手塚 柚巴は400m地区大会敗退。
7人の中で俺だけが恥のような戦績を収めた。
だけど皆気を使ってくれたのだろう、誰も俺の事を掘り下げてくるやつはいなかった。
男子リレーが全国を決める数秒前――
俺はどこかで負けろ、なんて思ってたのかもしれない。
そうすれば俺は目立たなくて済むから。
そんなクズのような考えをしていた。
けれど結果は俺が思うようには行かない。
だからこうして今、俺は夏休みなのにも関わらず、部活に参加している。
「手塚、お前は全国に行きたいか」
県大会が終わった月曜日の朝。
あの日、俺は先生に呼び出されていた。
「補欠であるお前は全国大会に行っても行かなくても大丈夫なんだ。大阪で4泊5日と金もかかるし3年生は受験も控えてる。だから行くのを決めるのは私じゃなくて手塚自身だ」
先生に資料を渡されながら説明をされていた。
全国大会に行ってサポートをするか。
全国大会には行かず、夏休みは部活にも参加せず受験に向けて勉強するか。
どっちかを選べと、そういう事だろう。
「今日、親と話してくるので明日でもいいでしょうか」
「ああ、いつでもいいぞ。お前がいてくれたら助かるっていうのが本当の事なんだが、私が勝手に決めるのは得策じゃないからな」
お前がいてくれたら助かる――か。
その言葉を自分の中でオウム返しし、一礼して職員室から退室した。
俺はまだ進路を決めていない。
行きたい学校もなければ叶えたい夢もないのだ。
だから勉強はどうせしないだろうなとは思っていた。
俺はもう部活を引退してもいいのだ。
あの地獄のような練習から解き放たれて夏休みを過ごせるのはとても良い提案だった。
だけど――
「お前を絶対全国に連れてくから! だから観とけよ! 」
県大会の日川田がレース前、俺に言った言葉を不意に思い出す。
あの言葉に俺はどこか救われていたのかもしれない。
多分あいつなりに気を使ったんだと思う。
友達として部活員として、ライバルとして。
だから俺は迷わなかった。
後日、朝学校に登校してすぐに先生の所に行く。
「先生、俺全国行きます。行かせてください」
頭を下げ、返事を待つ。
「ああ、分かった。ありがとう」
先生はそれだけ言って手を差し伸べてくる。
俺は一瞬、戸惑いながらもその手を取り握手を交わした。
そうして今に至ったという訳だ。
補欠なのでいつでも走れるよう、地獄のような練習には参加させられるし、先生には誰よりも怒られているけど満足している。
リレーメンバーを決めた日、俺はどうしようもなく悔しかった。
県大会でリレーが勝った時、どうしても俺だけ素直に喜べなかった。
だけど今は勝って欲しいと心の底から思ってる。
全国大会で結果を残せた時、きっと俺は胸を張って部活を引退出来る。
だって、友達が認められるっていうのは第三者からしても嬉しいから――
「オンユアマーク」
三年間聞き続けきた合図が耳に響く。
360度どこを観ても観客で席が埋まっているのにも関わらず誰も声を発さない。
風も虫も音を立てない。
静寂だけが許された空間で1走者目が屈みスタートの姿勢を取る。
手には遠くからでもよく見えるキラキラとしたバトンが握られている。
「セット」
8人の選手が同時に腰を上げ――
パンッ!
スターターピストルが大きな音を立てたのを合図に相川が走り出す。
4レーンなのでやや後ろからスタートだが、周りと走力はほとんど変わらずしっかりと着いていく――
85mほど走ったところで2走者目の高坂にバトンが渡る。
「セーフかな……」
練習通りテイクオーバーゾーンぎりぎりでのバトン渡しに成功し高坂が走り出す。
周りとの差はほとんどない。
全力走る――
そして第3コーナー手前。
3走者目である柄本にバトンが渡る――
「やばいな……」
観客席からでも分かるくらい、柄本が出るタイミングが遅く少し詰まったが問題はなさそうだった。
だが、バトンパスのタイミングで大きく差が開き他の選手に置いていかれてしまう。
それでも柄本は全力で走る。
決して諦めず食いつくように――
そして第4コーナー手前まで来る。
最後は川田だ。
「頼む……」
柄本が渡そうとして――
「ちょっと待って……! 」
柄本の声がここまで聞こえてくる。
その声で川田が少し速度を落とす。
「はい! 」
バトンが渡った。
だけど――
1番遅れてバトンが渡り川田は背中を追いかけることになる。
そして俺たちは1番遅れてゴールした。
「あれはアウトかもしれないな……」
俺は第2コーナーからストップウォッチでタイムを測っており、見ていた限りでは完全に柄本と川田の所でタイムロスがあった。
原因は恐らく、川田が早く出過ぎたためだろう。
柄本が追いつけずテイクオーバーゾーンぎりぎりか、それとも……。
「失格だけは辞めてくれよ……」
そう願うばかりにストップウォッチのタイムは動き続けたままだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。
春待ち木陰
青春
高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる