0.1秒のその先へ

青斗輝竜

文字の大きさ
上 下
4 / 4

四話

しおりを挟む


「ありがとうございました! 」

 全国大会が幕を閉じ、夏休みも終わった頃、俺達は先生とまた話していた。

 全国大会の結果は惨敗。
 高坂は本領発揮出来ず予選敗退。
 リレーも失格とはならなかったが予選敗退だった。
 けれど誰も泣かない。
 責めることもしなければ励ますこともしなかった。
 ただこのメンバーで走れてよかったと、そう言い合っていた。

 そして始業式が終わり、下校時刻になってから俺たちは先生に挨拶をしにいった。
 これで俺達は完全に引退になり部活には顔を出さなくなるからだ。
 今日で三年間の部活にも幕を閉じる。
 だからこれからは勉強に力を入れていく事になるだろう。

「最後はいい結果にはならなかった。だけどお前達と陸上競技をやれて本当によかった。お疲れ様」

 先生が一人ずつ握手をしていく。
 嫌いな先生には違いない、けれどそれよりも感謝の方が大きい。
 この先生がいなかったら俺はここまで変わることは出来なかったし、走る事が好きになることもなかった。
 部活に入らなかったら友達も少なかったと思う。
 改めて考えれば苦労の先に俺の欲しい物があったのかもしれない。

「なあ川田」

「なにー? 」

「最後に勝負しようぜ」

「は? 」

 先生の話も終わり解散になった頃、川田が靴を履いてる最中にそんな提案をする。
 川田はきょとんとしていて俺の言ってる意味がさっぱり分からないといった表情をしていて笑ってしまう。

「ここから家まで競走な」

「そんなん無理に決まってん――」

「よーいドン! 」

 俺が走り出すと川田も後ろから着いてくる。
 今にも襲いかかってきそうな勢いで。

「お前らも走るぞ! 」

 前にいた高坂と相川と柄本にも声をかける。

「えぇ……めんどくさー」

 とだるそうに柄本が。

「お前ら頑張れー」

 と全くやる気のない相川が。

「本当にガキだなお前ら」

 と呆れたような高坂が。

 誰も走ろうとはしないけど、どこか楽しそうな3人を見て俺も嬉しくなった。

「ノリ悪いな! 」

 俺が走りながら叫ぶ。
 川田はバックを振り回しながら追いかけてくるし3人は全く無関心だし。
 
 性格も趣味も人間性も全く違う俺達はそれでも仲良くなれた。

 陸上競技のおかげで。



 
 だから俺はいつまでも――

 0.1秒先を目指していく――

 
 
 
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...