皇太子の魔法教師になったら、執着が重すぎました

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第三話

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「今日の授業は以上です。
 小テスト赤点ゼロで、皆さんが魔法の実技に向けてしっかり準備していただけていたのが本当に嬉しかったです。
 また、魔法石を使えば、全員がランプに火を灯すことができました。
 これは授業をしっかり聞いて、小テストの勉強もして、準備をしてくれたからだと思います。
 他の授業もありますし、倶楽部活動や、ご家庭でのお仕事など、忙しく生活しているのにありがとう。
 次回も期待してます。」
 超大国とはいえ、魔法後進国だと舐めていたが、流石に王侯貴族と超優秀な学生が集う貴族学院である。
 みんな真面目に勉強して、簡単な魔法とはいえ一発クリアしてきた。本当にすごい。魔法に才覚がある子も、才覚がない子もいるのに……
 現皇帝が魔法分野の強化を打ち出しているのもあり、いい意味で前のめりでこちらは楽させてもらっている。

「先生、質問いいですか」
 エルン・サハルテ侯爵子息が教壇にやってきた。彼は特に魔法学習に積極的で、魔法倶楽部のメンバーでもある。美しい金髪に青い瞳。整ったビジュアル故か、女子生徒からかなり騒がれてるらしい。魔法倶楽部は男子生徒しかいないのだが、他の生徒からふざけて、やっかまれているのはよく見る。
「もちろんです」
「今日、ランプに火を灯す魔法はなんとか使えたんですが、結構難しくて。ここから、大きな炎を出せるイメージが全く沸きませんでした。火魔法も専門にするか悩んだジャンルの一つなのでショックです……」
 エルンは魔法倶楽部の部員とはいえ初学者である。体内の魔力量は生まれ持った才能だけではなく、魔法を使っていくことで増えていったり、回復スピードが早まるものなのだ。例えば危惧する通り、火魔法の適性が薄かったとしても、鍛錬を積み、魔力量でカバーすれば強い炎を出せる。
「うーん、まだ初めて魔法を使ってみた段階ですからねえ。しかも、授業の目標は達成できてます。今日の段階で属性や、魔法の出来不出来はわからないですよ。
 授業と魔法倶楽部で、とにかく魔法に触れる機会を増やしていきましょう。魔力量は訓練で伸ばせますから。また、火がつけられたということは、すでに火魔法を使う土俵に立ってます。焦らずに行きましょう」
 そう伝えると、エルンは落ち着いたようだった。焦りは危うさでもあるが、やる気がある故だ。
 女の子を侍らせていることが多いから浮ついて見えるが、授業態度も倶楽部活動も真面目に取り組んでいるエルンを見ると、私が講師として帝国にいる間の成長をしっかり導きたいと強く思うようになった。
「先生~!先生に話すと、とても前向きになれます」
「嬉しいなあ、今日も倶楽部活動頑張っていこうね」
「はい!」
 エルンがいい返事をした途端、若干エルンを押し退けるようにしてイリスが教壇にやってきた。
「イリスさん、どうしました?」
「……今日の小テストの事なんですけど、問3がわからなくて……」
 (いや、イリスさん全問正解だったよね?)
「問3は……火を消すためにやってはいけない行為かな?」
「はい。火を圧縮して消そうとする選択肢が、なんでダメなのかわからなくて…」
「火を圧縮すると、温度が劇的に上がるので、最悪爆発が起こってしまうんです。なので、絶対にやってはいけない禁忌事項ですね。ぜひ覚えておいてください。」
「わかりました。ありがとうございます。
 あと、明後日の朝練もよろしくお願いしますね。」
「もちろん……なんかあった?」
「いえ!なにもないですよ?明後日楽しみにしてます」
 貼り付けた笑みを浮かべたまま、イリスは去っていった。
 マンツーマンでの週一回、朝練をする中で、イリスは結構顔に出ることがわかってきた。
 基本は貴族のお嬢様としての仮面を被ってるのだが、本当は表情豊かで、勝気で、努力を惜しまない分できないことがあるとムッとする。
 とはいえ今日の機嫌の悪さはなかなかだったな。暗に何かを伝えにきたのだろうが、お貴族様のハイコンテクストなやりとりは私には全く理解できなかった。

 2日後、いつもの朝練の集合時間より1時間早い7時に私とイリスは、校庭に集合していた。
 1ヶ月間、黒魔法の精度向上に向けて練習してきた。イリスは元々魔力量が多かったためか、攻撃力が高い魔法を広範囲に使える一方で、対象範囲や魔力量のコントロールには向上の余地あり、という状態だった。
 そのため、私が魔法実験のためだけの仮想空間を作った。そこで、イリスが魔法をかける範囲を、大きい範囲から少しずつ狭くしていく訓練を積んできた。
 最初はイリスも戸惑っていて、初日は全く範囲が狭まらなかった。自分の命を守るために黒魔法を使ってきたイリスにとっては、力は大きく見せたほうが良かったので、精度を高めるという発想すらなかったのだと思う。
 翌週も前半はその調子だったのだが、突如コツを掴んだようで、後半は範囲を少し狭められるようになってきた。
「変身魔法の時、頭のてっぺんから足先までを強く意識してかけてるのを思い出しました!」
 嬉しそうにニコッと笑うイリス。よくできました。
「確かに変身魔法上手いなら範囲指定で戸惑う必要なかったね……?」
「……」
 少し意地悪を言うと、無言になってしまった。慌てて謝る。
「先生、ひどーい!」
「ごめんごめん!私がもっと導いてあげれば良かったね!?」
「そうだそうだ!」
 顔を少し赤くしたイリスが可愛くて、もう少しからかいたかったが、教師の立場を思い出し、流石にやめておいた。
 

 魔力量のコントロールはまだまだだが、範囲のコントロールがあがってきた。仮想空間だと、現実とは感覚に差があるため、今日は校庭で、誰もいなさそうな時間にトライすることにした。
「じゃあイリスさん、やってみよう。大きめの結界を私の方で張る。結界と同じサイズ感ではなく、半分程度の範囲で黒魔法を使ってみてくれる?」
「わかりました」
 そう言って放った黒魔法の範囲は結界に対し3/4程度のサイズがあった。まだ大きい。
「もう一息!頑張れ!」
「なかなか小さくならない…」
「頭のてっぺんから足先まで意識してもう一回!」
「……」
 イリスさんは小さくしようと頑張ってるが難しそうだ。
「OK!一回休み!」
 イリスさんはへたりこむ。
「む、難しいですね……」
「魔力量のコントロールがもう少し習熟してくれば、範囲のコントロールも楽になるだろうね。」
「はい……」
 イリスは自分の実力不足にがっかりしているようだった。
 そもそも、黒魔法の基本的な技は抑えられているだけで、ハイルセン帝国ではなかなかいないレベルの魔法使いだろう。今の苦しみも魔力量が多いゆえである。そんなに落ち込むことではないが、これを言ったところで慰めにはならないだろう。
 全然別の話題を振ってみることにした。
「ちなみに、1ヶ月経って学校生活はどう?仲良い人とかできた?」
 イリスの授業中の様子しか分からないので、私の興味もあり話を振ってみる。
「そうですね。元々レオンハルトとは知り合いだったのでよく話しますね。」
 レオンハルト・ヴァルディエール侯爵子息かな。彼は背が高くガタイもよく、如何にも騎士目指してる、と言った少し男臭いタイプなので少し意外に思う。幼馴染なのかな。
「他には?例えば男の子だと、エルンさんとか」
 魔法という共通の話題もあるし、仲良くなれるのでは?と安直にエルンさんの名前を出すと、イリスさんの眉間に皺が寄り、険しい顔つきになった。
「イ、イリスさん……?」
「先生はエルンが気になってるんですか?」
「な、なんでそうなる!?2人とも魔法に興味があるから、繋がりがあっても良さそうだなと……」
 言いかけて思い出した。エルンはイリスの当たりが強い、イリスが怖いと漏らしていたことを……!
 もしかしてとても仲が悪いのに名前を出してしまったのか?
「エルン、イケメンですもんね。魔法倶楽部でも一緒だし。」
「え、なんか怒ってる……?」
「クラスの女子の半分くらいが取り巻きになってるのに、それでいてマナト先生にもモテてるなら許し難いかも」
「先生にモテてはない!よ!?」
「ならいいです」
 イリスの眉間の皺が浅くなったのでホッとする。エルンがクラスの女子の人気者なのは知っていたが、私まで取り巻きと疑われていたとは。教師としての威厳がなさすぎるのかな……?とはいえ、年齢も10歳も離れてないし、威厳なんて出せないしな。
「他には仲良い子いるの?」
「うーん、あとはエレノアとは少し話すくらいですかね。」
 美人すぎて孤高の存在なのだろうか。
 幼馴染の次に出てくるのが少し話すくらいのエレノア・カストリオ嬢とは、クラスに馴染めているのだろうか?心配になる。
「私は、マナト先生がいてくれれば、それだけでいいんですよ」
「……え?」
「なんでもないでーす。もう一回トライしてもいいですか?」
「も、もちろん。結界張り直すわ」
 なんだか、なかなかのことを言われた気がするが、一旦考えるのはやめた。














 
 
 
 
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