15 / 25
希望とか愛とか夢とか
不穏
しおりを挟む
最終的に、タカハシは折れるしかなかった。
自分はいつ死ぬかわからないが、それで女の子を泣かせていい道理はない。
心境は随分と変化していた。
少し前まで早く死にたいとばかり思っていたが、そんな想いは欠片もなくなっていた。
「結局のところ、僕も一緒なんだろう。人間だから、孤独は耐えがたい。ラスコーリニコフと一緒だ」
ハルと話していると、心が安らぐ。
ひとりでいる安らぎではない。他人から与えられた安らぎだ。
タカハシの人生でおよそ初めてのものだった。
もう認めるしかない。ハルに惹かれていた。
しかし、同時に劣等感も感じていた。失ったはずの劣等感を。
あの時、ハルのライブを見ている時に芽生えた感情が少しずつ大きくなっていた。
ハルが思い出させた。
タカハシにもひとかけらの、ゴミ同然のプライドが残っていたのだ。
タカハシは、自己嫌悪に陥ることが多くなった。
華々しい世界で、輝かしい活躍をするハルは、どうしようもなく眩しかった。眩しすぎた。
太陽を直接見て、目が潰れてしまいそうなのだ。
まるで吸血鬼が灰になるように、日陰者のタカハシを焼き尽くす。
タカハシはそれなりに恋愛経験がある。結婚をせがまれたことだってある。
「10代の恋心なんてすぐに忘れる」ということもわかっていた。
ましてや人気ミュージシャンと18歳差の無職の中年だ。
アホくさすぎて週刊誌のネタにもならない。
2週間後、仕方がないのでハルのライブへ行く。
「すみません。タカハシと申します」
この台詞はもう何度目だっけ。
「ええ、伺ってます」
大好きなミュージシャンのライブを見るのに、気が重かった。
「ナツさん」
部屋には既にミズタニがいた。
「ハル、喜んでますよ」
やはり、この男はいつも笑顔だ。何がそんなに楽しいんだ?ハルがそうさせているのか?
「何よりです。僕も楽しみですよ」
憂鬱を態度に出すようなタカハシではない。
「なんか、元気ない」
振り向くと、ハルがいた。
(気付くのか・・・・・・・・お前のせいだよ・・・・)
「僕が元気な時なんてありませんよ。いつも通りです」
やはりミズタニは笑う。
ハルはこれからライブなのだ。余計なことは考えて欲しくない。
「ふーん、まあいいけど」
少しためらって続ける。
「今日はお話しできますよね?」
(悲しそうな顔で言うなよ・・・・・)
「ええ勿論。ライブも楽しみです」
ぱあっと笑顔になる。
「それじゃ!また後で!」
やはり、救われる。
「我々も行きましょうか」
ミズタニと共に関係者席へ行く。
もう、ライブの素晴らしさは言うまでもない。
日に日に圧倒的になる。完璧と言ってもいい。
その姿が強烈に劣等感を刺激する。
もう限界だった。
「ミズタニさん・・・・・」
「ハルさんは一体、僕のどこが気に入ってるんでしょうか」
陰気な無職の中年に魅力など何一つない。
「ハルだけじゃないです。私も気に入ってますよ」
「他のスタッフもみんな話してみたいって言ってます」
「いや、初耳ですけど。何でですか?」
「楽しいからです」
「ミズタニさんはいつも楽しそうですけど」
「ははは。そりゃ、こんなにエキサイティングな仕事は他にないですから」
「あの、本気で聞いているんです」
「つまらない話ですよ」
「何がです?」
「ナツさんが悩んでいることです」
「・・・・・・・バレましたか」
「さっきもハルに気を使ったんでしょう?」
「いや、面目ない」
頭を掻きながら下を向く。
「多分、私もハルも上手く言えませんよ。なんとなく、落ち着くんです」
「落ち着く?」
「気付いてないのはナツさんだけですよ。話してるとホッとします」
「・・・・ハルには申し訳ない気持ちがあるんです。同世代の友達も少ないし、いつも無理ばっかり強いている」
「最近不機嫌になるって言いましたよね、今までは人前で絶対そんな素振り見せなかったんです」
「ナツさんに会ってからですよ。毎日活き活きしてます。怒った所も初めて見せましたよ」
「年の差とか、つまらないこと気にしてるのはナツさんだけですよ」
・・・・・どうやらすべて見透かされている。
「まだ高校生じゃないですか。今からいくらでも出会いなんてあるでしょう」
「もう高校生なんですよ」
「受験だったり就職だったり、最終的には自分で決断しなければならないんですよ。そういう歳なんです」
タカハシは黙ったまま葛藤していた。
(それでも、この劣等感が消えるわけではない)
自分はいつ死ぬかわからないが、それで女の子を泣かせていい道理はない。
心境は随分と変化していた。
少し前まで早く死にたいとばかり思っていたが、そんな想いは欠片もなくなっていた。
「結局のところ、僕も一緒なんだろう。人間だから、孤独は耐えがたい。ラスコーリニコフと一緒だ」
ハルと話していると、心が安らぐ。
ひとりでいる安らぎではない。他人から与えられた安らぎだ。
タカハシの人生でおよそ初めてのものだった。
もう認めるしかない。ハルに惹かれていた。
しかし、同時に劣等感も感じていた。失ったはずの劣等感を。
あの時、ハルのライブを見ている時に芽生えた感情が少しずつ大きくなっていた。
ハルが思い出させた。
タカハシにもひとかけらの、ゴミ同然のプライドが残っていたのだ。
タカハシは、自己嫌悪に陥ることが多くなった。
華々しい世界で、輝かしい活躍をするハルは、どうしようもなく眩しかった。眩しすぎた。
太陽を直接見て、目が潰れてしまいそうなのだ。
まるで吸血鬼が灰になるように、日陰者のタカハシを焼き尽くす。
タカハシはそれなりに恋愛経験がある。結婚をせがまれたことだってある。
「10代の恋心なんてすぐに忘れる」ということもわかっていた。
ましてや人気ミュージシャンと18歳差の無職の中年だ。
アホくさすぎて週刊誌のネタにもならない。
2週間後、仕方がないのでハルのライブへ行く。
「すみません。タカハシと申します」
この台詞はもう何度目だっけ。
「ええ、伺ってます」
大好きなミュージシャンのライブを見るのに、気が重かった。
「ナツさん」
部屋には既にミズタニがいた。
「ハル、喜んでますよ」
やはり、この男はいつも笑顔だ。何がそんなに楽しいんだ?ハルがそうさせているのか?
「何よりです。僕も楽しみですよ」
憂鬱を態度に出すようなタカハシではない。
「なんか、元気ない」
振り向くと、ハルがいた。
(気付くのか・・・・・・・・お前のせいだよ・・・・)
「僕が元気な時なんてありませんよ。いつも通りです」
やはりミズタニは笑う。
ハルはこれからライブなのだ。余計なことは考えて欲しくない。
「ふーん、まあいいけど」
少しためらって続ける。
「今日はお話しできますよね?」
(悲しそうな顔で言うなよ・・・・・)
「ええ勿論。ライブも楽しみです」
ぱあっと笑顔になる。
「それじゃ!また後で!」
やはり、救われる。
「我々も行きましょうか」
ミズタニと共に関係者席へ行く。
もう、ライブの素晴らしさは言うまでもない。
日に日に圧倒的になる。完璧と言ってもいい。
その姿が強烈に劣等感を刺激する。
もう限界だった。
「ミズタニさん・・・・・」
「ハルさんは一体、僕のどこが気に入ってるんでしょうか」
陰気な無職の中年に魅力など何一つない。
「ハルだけじゃないです。私も気に入ってますよ」
「他のスタッフもみんな話してみたいって言ってます」
「いや、初耳ですけど。何でですか?」
「楽しいからです」
「ミズタニさんはいつも楽しそうですけど」
「ははは。そりゃ、こんなにエキサイティングな仕事は他にないですから」
「あの、本気で聞いているんです」
「つまらない話ですよ」
「何がです?」
「ナツさんが悩んでいることです」
「・・・・・・・バレましたか」
「さっきもハルに気を使ったんでしょう?」
「いや、面目ない」
頭を掻きながら下を向く。
「多分、私もハルも上手く言えませんよ。なんとなく、落ち着くんです」
「落ち着く?」
「気付いてないのはナツさんだけですよ。話してるとホッとします」
「・・・・ハルには申し訳ない気持ちがあるんです。同世代の友達も少ないし、いつも無理ばっかり強いている」
「最近不機嫌になるって言いましたよね、今までは人前で絶対そんな素振り見せなかったんです」
「ナツさんに会ってからですよ。毎日活き活きしてます。怒った所も初めて見せましたよ」
「年の差とか、つまらないこと気にしてるのはナツさんだけですよ」
・・・・・どうやらすべて見透かされている。
「まだ高校生じゃないですか。今からいくらでも出会いなんてあるでしょう」
「もう高校生なんですよ」
「受験だったり就職だったり、最終的には自分で決断しなければならないんですよ。そういう歳なんです」
タカハシは黙ったまま葛藤していた。
(それでも、この劣等感が消えるわけではない)
10
あなたにおすすめの小説
『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました
宵原リク
恋愛
カクヨムでも読めます。
完結まで毎日投稿します!20時50分更新
ーーーーーー
椿は、八代家で生まれた。八代家は、代々あやかしを従えるで有名な一族だった。
その一族の次女として生まれた椿は、あやかしをうまく従えることができなかった。
私の才能の無さに、両親や家族からは『出来損ない』と言われてしまう始末。
ある日、八代家は有名な家柄が招待されている舞踏会に誘われた。
それに椿も同行したが、両親からきつく「目立つな」と言いつけられた。
椿は目立たないように、会場の端の椅子にポツリと座り込んでいると辺りが騒然としていた。
そこには、あやかしがいた。しかも、かなり強力なあやかしが。
それを見て、みんな動きが止まっていた。そのあやかしは、あたりをキョロキョロと見ながら私の方に近づいてきて……
「私、政宗と申します」と私の前で一礼をしながら名を名乗ったのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる