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真夜中の恋人 2
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一瞬、男の言う意味を計りかねたものの、すぐにそうと思い当たった千雪は、身体中が沸騰しそうな思いで、「京助!! どこや!!」と声を張り上げた。
「俺が来た時、京助のやつもういなかったぜ?」
そういえば、朝イチで教授に呼ばれていると京助は言っていた気がする。
だったら一体こいつはどうやって入ってきたんだと訝し気に千雪は男を睨みつける。
兄弟にしては全く似ていない。
「ああ、俺か? 俺は速水克也。京助のガキの頃からの友人だ。怪しいもんじゃない。夕べ東京に着いて、大学行く前に京助がいるかと思ってね。渡米前に部屋を引き払って遊んでた時、ちょっと居候してて、カードキー、持ってるんだ」
端的な説明に、男が何故部屋にいるかは理解できたものの、あまりいい状況とはいえないのは明らかだ。
「しかし、噂の『真夜中の恋人』がこんなきれいな坊やだったとはな。いやあ半端ない美人だし、さすがの京助もたらし込まれて納得ってもんだ。で、君、ハーフ? モデルとか? 俳優のタマゴ? まさかその手の仕事?」
イケメンの部類だが、その台詞にひどくいやらしさを感じて、沸騰した千雪の頭も次第にクールダウンする。
「出てけや。着替えるし」
アメリカ暮らしの証だとばかり、速水は肩をすくめて、またニヤリと笑う。
「こいつは失礼」
速水が出て行くと、千雪は傍らの椅子に引っ掛けてあった服を慌てて着込み、部屋を出た。
吹き抜けになっているリビングを見下ろすと所在無げに速水が立っていたが、千雪は階段を降りると、「え、帰るの? 名前くらい教えてよ」と言う速水を無視した。
地下鉄の入り口まで早足で歩いてから思い出したように、「当分会わない。連絡もするな」と京助にラインしてすぐ、電源を切った。
「京助のクソアホンダラ!!」
思い切り怒鳴りつけた千雪を道行く人々が驚いて振り返った。
都内で開催された研究会に教授のお供で出席した京助は、夕方やっと研究会が終わり、どうだね、一杯付き合わないか、という教授に、車ですし実は身内に不幸がありましてとどこぞで聞いたようなありふれた言い訳をして部屋に戻ろうと車に乗り込んで初めて、千雪のラインに気づいて慌てた。
何度も携帯をコールしてみるが応答はない。
電源を切っている。
もちろんラインを送ってみるが、まったく既読がつかない。
いったい何がどうしたっていうんだ?
胸に手を当てても、京都から帰って以来千雪を怒らせるような真似は一切していないはずだ。
まさかまた工藤のところ、いや、もしや京都へ舞い戻ったとか?
そんな思いを巡らしていたその時、携帯が鳴った。
「………お前か」
いつだったか帰国するという電話をもらった気もするが、そんなことはすっかり忘れていた。
「今、忙しいんだ、切るぞ」
「噂の『真夜中の恋人』にお目にかかったよ」
あたふたと切ろうとして、京助は気になる台詞に眉を顰める。
「何だ、克也、その背中に虫唾が走るような代名詞は」
「まさか本人が知らないのか? お前が超のつく美人を最近連れまわしてるらしいと、中井らから聞いたのさ。それも真夜中限定で。で、一体どういう相手だろうと、仲間うちじゃ想像たくましくしてるみたいだぜ?」
京助は舌打ちした。
マスコミに妙なことを書き立てられないようにとは、気をつけていたつもりだが。
女ならいい。
いや、いいわけではないが、少なくとも千雪のことを取りざたされなければだ。
世間がどうのなんてのはどうでもいい。
千雪本人がまた別れる切れるを言い出さないとも限らないからだ。
「いや、俺もお前がそんなに入れあげているっていう相手に興味はあったが、噂以上の美人じゃないか? 俺もとんとあんな美人にはお目にかかったことがない。一体どこで捕まえたんだ? いや、捕まえられた、か?」
京助はいきなり雷に撃たれたような思いがした。
「貴様、一体どこで……?」
「たったさっき、お前の部屋で、お前がいるかと思って部屋に入ったら、眠れる森の美女ならぬ美少年がいて、もっと話したかったのに帰っちまってさ、ああ、東京にいる間しばらくまた世話になるぜ」
すぐに千雪のラインの意味を理解した。
しかも恐ろしく怒っているだろうことも。
「断る。どこかホテルでも探せ」
「おいおい、そりゃ、ないだろ? お前と俺のつきあいで。あ、まさか、あの坊やのせいとか言わないよな?」
「とにかく、部屋を出ろ。鍵は置いて行け」
まさかの事態だ。
「それと、殴られたくなけりゃその虫唾が走る呼称を金輪際口にするな!」
速水が何かまだごちゃごちゃ言っている携帯を切り、シートに凭れて京助は大きく息をついてからエンジンをかけた。
久々、静かな週末をひとりで過ごし、月曜の朝は少しばかりまともな頭になって千雪は研究室に向かっていた。
小ざっぱりしたジャージの上着とスニーカーは昨日スーパーで買ったばかりだし、ズボンも洗濯をしたものだ。
「俺が来た時、京助のやつもういなかったぜ?」
そういえば、朝イチで教授に呼ばれていると京助は言っていた気がする。
だったら一体こいつはどうやって入ってきたんだと訝し気に千雪は男を睨みつける。
兄弟にしては全く似ていない。
「ああ、俺か? 俺は速水克也。京助のガキの頃からの友人だ。怪しいもんじゃない。夕べ東京に着いて、大学行く前に京助がいるかと思ってね。渡米前に部屋を引き払って遊んでた時、ちょっと居候してて、カードキー、持ってるんだ」
端的な説明に、男が何故部屋にいるかは理解できたものの、あまりいい状況とはいえないのは明らかだ。
「しかし、噂の『真夜中の恋人』がこんなきれいな坊やだったとはな。いやあ半端ない美人だし、さすがの京助もたらし込まれて納得ってもんだ。で、君、ハーフ? モデルとか? 俳優のタマゴ? まさかその手の仕事?」
イケメンの部類だが、その台詞にひどくいやらしさを感じて、沸騰した千雪の頭も次第にクールダウンする。
「出てけや。着替えるし」
アメリカ暮らしの証だとばかり、速水は肩をすくめて、またニヤリと笑う。
「こいつは失礼」
速水が出て行くと、千雪は傍らの椅子に引っ掛けてあった服を慌てて着込み、部屋を出た。
吹き抜けになっているリビングを見下ろすと所在無げに速水が立っていたが、千雪は階段を降りると、「え、帰るの? 名前くらい教えてよ」と言う速水を無視した。
地下鉄の入り口まで早足で歩いてから思い出したように、「当分会わない。連絡もするな」と京助にラインしてすぐ、電源を切った。
「京助のクソアホンダラ!!」
思い切り怒鳴りつけた千雪を道行く人々が驚いて振り返った。
都内で開催された研究会に教授のお供で出席した京助は、夕方やっと研究会が終わり、どうだね、一杯付き合わないか、という教授に、車ですし実は身内に不幸がありましてとどこぞで聞いたようなありふれた言い訳をして部屋に戻ろうと車に乗り込んで初めて、千雪のラインに気づいて慌てた。
何度も携帯をコールしてみるが応答はない。
電源を切っている。
もちろんラインを送ってみるが、まったく既読がつかない。
いったい何がどうしたっていうんだ?
胸に手を当てても、京都から帰って以来千雪を怒らせるような真似は一切していないはずだ。
まさかまた工藤のところ、いや、もしや京都へ舞い戻ったとか?
そんな思いを巡らしていたその時、携帯が鳴った。
「………お前か」
いつだったか帰国するという電話をもらった気もするが、そんなことはすっかり忘れていた。
「今、忙しいんだ、切るぞ」
「噂の『真夜中の恋人』にお目にかかったよ」
あたふたと切ろうとして、京助は気になる台詞に眉を顰める。
「何だ、克也、その背中に虫唾が走るような代名詞は」
「まさか本人が知らないのか? お前が超のつく美人を最近連れまわしてるらしいと、中井らから聞いたのさ。それも真夜中限定で。で、一体どういう相手だろうと、仲間うちじゃ想像たくましくしてるみたいだぜ?」
京助は舌打ちした。
マスコミに妙なことを書き立てられないようにとは、気をつけていたつもりだが。
女ならいい。
いや、いいわけではないが、少なくとも千雪のことを取りざたされなければだ。
世間がどうのなんてのはどうでもいい。
千雪本人がまた別れる切れるを言い出さないとも限らないからだ。
「いや、俺もお前がそんなに入れあげているっていう相手に興味はあったが、噂以上の美人じゃないか? 俺もとんとあんな美人にはお目にかかったことがない。一体どこで捕まえたんだ? いや、捕まえられた、か?」
京助はいきなり雷に撃たれたような思いがした。
「貴様、一体どこで……?」
「たったさっき、お前の部屋で、お前がいるかと思って部屋に入ったら、眠れる森の美女ならぬ美少年がいて、もっと話したかったのに帰っちまってさ、ああ、東京にいる間しばらくまた世話になるぜ」
すぐに千雪のラインの意味を理解した。
しかも恐ろしく怒っているだろうことも。
「断る。どこかホテルでも探せ」
「おいおい、そりゃ、ないだろ? お前と俺のつきあいで。あ、まさか、あの坊やのせいとか言わないよな?」
「とにかく、部屋を出ろ。鍵は置いて行け」
まさかの事態だ。
「それと、殴られたくなけりゃその虫唾が走る呼称を金輪際口にするな!」
速水が何かまだごちゃごちゃ言っている携帯を切り、シートに凭れて京助は大きく息をついてからエンジンをかけた。
久々、静かな週末をひとりで過ごし、月曜の朝は少しばかりまともな頭になって千雪は研究室に向かっていた。
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