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真夜中の恋人 3
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ただ、本人は非常に清潔で小ざっぱりとし、最近の柔軟剤の香りも嫌いではない、にもかかわらず、本を読みながらキャンパスを歩いていると、どこからともなく失笑が聞こえ、中には聞こえよがしに、来たぜ来たぜ、うちの名物男が、とか、ホントに犯人でもおかしくないよね、とか、近寄るなよ、臭いのが移るぜなどと声高に話しているのが耳に届いたりする。
まあ、今日はことさら髪を掻き回してみたし、選んだ上着の色は濃いグレイ、襟は何故かレインボー、紺色のおじさんズボン、安物の合皮スニーカーの色がまた濃い茶色と敢えて色目はあり得ない組み合わせを目指しているところがミソかも知れない。
小林千雪、T大法学部研究室に籍を置いているが、どちらかというと在学中に書いたミステリーが賞を取ったり、そのお陰でたまたま警察から助言を求められたことで容疑者逮捕につながったり、千雪のギャグマンガから飛び出したかのような冴えない風貌と勝手に用心棒のように千雪にくっついている綾小路京助がイケメンだったりしたため、ここぞとばかりに一時は名探偵とその相棒としてマスコミに騒ぎ立てられ、今やこの二人はキャンパスならずとも知る人ぞ知る名物凸凹コンビとなっていた。
せんだっての京都での飲み会の際も、このイデタチ、コスプレが話題になり、実はこの組み合わせは同級生らが面白がって提案してくれたものだ。
今まで、おとなしめの色を選んでいた千雪は、それはいいかもと早速実行してみたというわけだ。
千雪の家に集まったクラスメイト達はちょっとオッサン臭くなったくらいで、中身は変わりなく、江美子や菊子、それに研二にしても、どうせ俺のことなんか忘れてるんだ、などと勝手に捻くれていた千雪だが、やはり昔と同じ大切な仲間なのだとあらためて思ったりした。
フッとそんなみんなのことを思い出して笑った時、どこからともなく、げ、笑ったよキモ、などと聞こえてきたので、千雪は思わずその声の方を向いて、にっこり笑ってやった。
声の主の女子学生らは、きゃあ、キモ~とばかりにひしと抱き合っていた。
そういう反応も面白くて、心理的な要素として小説に取り入れようかなどと真面目に考えている昨今である。
「あ、先輩、みいーーっけ!」
サンドイッチで軽く昼を済ませ、ゆっくりカフェテリアでコーヒーを飲んでいた千雪のところへ、うるさい男がやってきた。
同じ宮島教授の法学研究室にいる後輩、佐久間徹である。
「先輩、まぁた携帯切ってますやろ? 色々話あったのに」
勝手に向かいに座り、佐久間は持ってきたコーヒーをズズッとすする。
「俺にはあれへん」
「またまた、そんなつれなさそうな顔して、ほんまは聞きたいんですやろ?」
同じ関西出身とはいえ、大阪出身のとにかくうるさいばかりの佐久間がぐぐいと顔を覗きこむので、千雪は思わず後ろに身体を引いた。
「今夜の飲み会、先輩も行きますやろ?」
「飲み会? んなもん、行くか」
「またまたまた~、絶世の美女がきはるんでっせ? 大原文子さんいうて、しかも超才媛、ここの二年の時、マサチューセッツ工科大に留学しはったいう、正真正銘の深窓の令嬢でっせ?」
即答する千雪に、めげずに佐久間はたたみかける。
「全く興味ない」
「あきまへん、もう先輩、メンバーに入ってますし。京助先輩とこの法医学研究室とうちの研究室との合同の飲み会やから」
「何やねん、それ」
千雪は怪訝な顔で佐久間を見た。
「ちょうど先輩が研究室出ていかはった後で、法医研の面々が文子さんと一緒にきはって、文子さん、ここに在学中は宮島教授とも懇意にしてはったみたいで、まあ、特に牧村さんが先頭に立ってたみたいやけど、急遽そういうことになりましてん」
「勝手にやったらええ。俺はパス」
「そうはいきませんて、速水さん、て、京助さんの親友で、文子さんと一緒にうちの大学の心理学教室と共同プロジェクトに参加してる人ですけどね、今度の学会のために帰国しはったみたいで、その人がぜひ名探偵に会いたいて、ほんで、飲み会が決まったんですわ」
「何やて?」
聞き流すつもりだったが、どこかで聞いたような名前に、千雪は思わず聞き返した。
「せやから……あ、噂をすれば、京助先輩~! こっちこっち!」
佐久間が大声で呼びかけたその先を見て、千雪は一番考えたくなかった事態に直面することになった。
「美人ですやろ? 文子さん。ほんまに~。まあ、京助さんの元恋人やし、焼けぼっくいに火をつけようと、周りは画策してるみたいやけどね」
「へえ、そうなん?」
またか、と千雪は思う。
「君が、名探偵か。はじめまして、京助の親友の速水です」
逃げる間もなく、速水は京助や文子、それに牧村を従えて近づいてきた。
「小林です」
握手をと差し出されたその手を無視して、千雪はそれだけ言った。
まあ、今日はことさら髪を掻き回してみたし、選んだ上着の色は濃いグレイ、襟は何故かレインボー、紺色のおじさんズボン、安物の合皮スニーカーの色がまた濃い茶色と敢えて色目はあり得ない組み合わせを目指しているところがミソかも知れない。
小林千雪、T大法学部研究室に籍を置いているが、どちらかというと在学中に書いたミステリーが賞を取ったり、そのお陰でたまたま警察から助言を求められたことで容疑者逮捕につながったり、千雪のギャグマンガから飛び出したかのような冴えない風貌と勝手に用心棒のように千雪にくっついている綾小路京助がイケメンだったりしたため、ここぞとばかりに一時は名探偵とその相棒としてマスコミに騒ぎ立てられ、今やこの二人はキャンパスならずとも知る人ぞ知る名物凸凹コンビとなっていた。
せんだっての京都での飲み会の際も、このイデタチ、コスプレが話題になり、実はこの組み合わせは同級生らが面白がって提案してくれたものだ。
今まで、おとなしめの色を選んでいた千雪は、それはいいかもと早速実行してみたというわけだ。
千雪の家に集まったクラスメイト達はちょっとオッサン臭くなったくらいで、中身は変わりなく、江美子や菊子、それに研二にしても、どうせ俺のことなんか忘れてるんだ、などと勝手に捻くれていた千雪だが、やはり昔と同じ大切な仲間なのだとあらためて思ったりした。
フッとそんなみんなのことを思い出して笑った時、どこからともなく、げ、笑ったよキモ、などと聞こえてきたので、千雪は思わずその声の方を向いて、にっこり笑ってやった。
声の主の女子学生らは、きゃあ、キモ~とばかりにひしと抱き合っていた。
そういう反応も面白くて、心理的な要素として小説に取り入れようかなどと真面目に考えている昨今である。
「あ、先輩、みいーーっけ!」
サンドイッチで軽く昼を済ませ、ゆっくりカフェテリアでコーヒーを飲んでいた千雪のところへ、うるさい男がやってきた。
同じ宮島教授の法学研究室にいる後輩、佐久間徹である。
「先輩、まぁた携帯切ってますやろ? 色々話あったのに」
勝手に向かいに座り、佐久間は持ってきたコーヒーをズズッとすする。
「俺にはあれへん」
「またまた、そんなつれなさそうな顔して、ほんまは聞きたいんですやろ?」
同じ関西出身とはいえ、大阪出身のとにかくうるさいばかりの佐久間がぐぐいと顔を覗きこむので、千雪は思わず後ろに身体を引いた。
「今夜の飲み会、先輩も行きますやろ?」
「飲み会? んなもん、行くか」
「またまたまた~、絶世の美女がきはるんでっせ? 大原文子さんいうて、しかも超才媛、ここの二年の時、マサチューセッツ工科大に留学しはったいう、正真正銘の深窓の令嬢でっせ?」
即答する千雪に、めげずに佐久間はたたみかける。
「全く興味ない」
「あきまへん、もう先輩、メンバーに入ってますし。京助先輩とこの法医学研究室とうちの研究室との合同の飲み会やから」
「何やねん、それ」
千雪は怪訝な顔で佐久間を見た。
「ちょうど先輩が研究室出ていかはった後で、法医研の面々が文子さんと一緒にきはって、文子さん、ここに在学中は宮島教授とも懇意にしてはったみたいで、まあ、特に牧村さんが先頭に立ってたみたいやけど、急遽そういうことになりましてん」
「勝手にやったらええ。俺はパス」
「そうはいきませんて、速水さん、て、京助さんの親友で、文子さんと一緒にうちの大学の心理学教室と共同プロジェクトに参加してる人ですけどね、今度の学会のために帰国しはったみたいで、その人がぜひ名探偵に会いたいて、ほんで、飲み会が決まったんですわ」
「何やて?」
聞き流すつもりだったが、どこかで聞いたような名前に、千雪は思わず聞き返した。
「せやから……あ、噂をすれば、京助先輩~! こっちこっち!」
佐久間が大声で呼びかけたその先を見て、千雪は一番考えたくなかった事態に直面することになった。
「美人ですやろ? 文子さん。ほんまに~。まあ、京助さんの元恋人やし、焼けぼっくいに火をつけようと、周りは画策してるみたいやけどね」
「へえ、そうなん?」
またか、と千雪は思う。
「君が、名探偵か。はじめまして、京助の親友の速水です」
逃げる間もなく、速水は京助や文子、それに牧村を従えて近づいてきた。
「小林です」
握手をと差し出されたその手を無視して、千雪はそれだけ言った。
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