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真夜中の恋人 4
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宙に浮いた手を仕方なく引っ込めた速水だが、テンションは下がらない。
「聞きしに勝る変人ぶり。面白いなぁ、何か、漫画の中から出てきたまんまって感じ?」
「大原です」
ぺこりと頭は下げただけで、千雪は速水は無視し、無表情で文子を見た。
深窓の令嬢とはまさしくこの人のことを言う気がした。
従姉の小夜子もお嬢様を絵に描いたようなタイプだが、天真爛漫な分、親しみがある。
だが、この文子は才媛というだけあって、少しお高い雰囲気かも、などと考えてから、千雪は京助の元恋人、ということで文子のあらを探したような気がして、そんな自分が気持ち悪い。
「今夜、法医研と法学研究室で飲み会やるんだ。もちろん、君も参加してもらわないと」
「あいにく、原稿あげないとあかんので、俺は遠慮します」
テンションが落ちない速水の独断的な言い方に、千雪は丁寧に辞退したつもりだった。
「あ、そうか、名探偵は、探偵小説も書いているんだっけ?」
あからさまに見下したような言い方をされ、土曜日の朝のことも蘇って、思わずぶん殴ってやりたい衝動にかられたが、お前はすぐカッとなるから心配だ、といつだったかの研二の言葉が頭をよぎり、千雪はこっそり深呼吸をして自分を静める。
三流小説だの何だの、散々こき下ろされたりするものの、別にそんなものは気にもかけない千雪だが、この男の口から出た言葉は許せない気がした。
「ほな、これで」
後ろにいる京助をジロリと睨みつけながら、千雪はその場を去ろうとした。
「ええ、そんなこと言わずに、たまには一緒に飲もうよ! 私としてはこないだの事件のことも聞きたいんだよね」
牧村久美は法医学教室の紅一点で、姉御肌のさっぱりとした気性の女性だ。
「そうでっせ? 大丈夫、千雪先輩は俺が絶対連れて行きますから」
安請け合いをする佐久間の横から京助がすっと近づいてきた。
「ほんとにすまない。今夜は出なくていいぞ」
京助はすまなそうに、耳元で囁く。
「誰が出るか」
思った以上に千雪が怒っているのに、京助はフウと息をつく。
「だから、悪いってっだろ?」
「今夜は俺はダシで、大原さんとお前の焼けぼっくいに火をつけるのが周りの目的らしいで。お前のご学友とは言葉を交わす気にもなれへん」
「おい、佐久間が何を言ったか知らないが、俺と文子はとっくに……」
京助は焦り、思わず声を上げる。
「お前と大原さん、似合いやん? うまくいくように応援してるわ」
「おい、千雪!」
もどかしげにイラつく京助に、追い討ちをかけるようにはっきりそう言うと、千雪はその場をあとにした。
何でこうなるんや!
千雪は心の中で喚いてから、立ってビールを継ぎにまわったりして、あちこちに愛想を振りまいている佐久間を睨みつける。
御茶ノ水にあるこの居酒屋は、多くの学生で溢れる中、この店の店長が佐久間の高校の先輩だというので、割と急だったにもかかわらず総勢二十名ほどの席をキープできたらしい。
小テーブルには宮島教授と千雪、それに法医学研究室の准教授伊藤と心理学教室の関谷教授が座り、あと全員が陣取った傍の大テーブルは大原文子と牧村久美を中心に大いに盛り上がっている。
千雪は始めから来るつもりはなかったのだ。
「今夜、法医学研究室と心理学研究室と一緒に飲み会だってね。あまりそんな機会はないから、みんな張り切ってるよ。君も行くよね?」
宮島教授がそう切り出したりしなければ。
「いや…………、俺なんか行っても、あまり歓迎されへんと思いますし……」
「そんなことあるもんかね。法医研の牧村くんや佐久間くんから、ぜひ君を連れてきて欲しいって頼まれちゃってね」
佐久間のアホがぁ!!!!
教授から手を回させるなんて姑息なことをしやがって、と思ったものの、宮島教授の誘いを無下に断ることもできない。
仕方なく、適当なところで切り上げようと思いつつ、教授についてきたわけである。
確かに、大学に進学してからは苦心したこの眼鏡やボサボサ頭、それにダサダサの風貌のせいで、ごく普通の大学生ならあたりまえのコンパや飲み会などに誘われることもほとんどなく、今まで過ごしてきてしまったが、千雪としてはそんなことはどうでもよかった。
「千雪先輩、飲みが足りてまへんで!」
あっという間もなく、佐久間が教授らと同様に千雪のグラスにもビールを注ぐ。
ウザい…………
睨みつけても、結構このメガネのせいで、ちょっと見ではあまり表情がわからないらしい。
いい加減、このコスプレも面倒くさくなってきたところなのだが、それをやめた時の周囲の反応を考えると、自意識過剰と言われようと、もっとウザいことになるに違いないのだ。
「先輩もあっち行って一緒に飲みましょうよ」
「俺はここでええ」
佐久間の誘いを、千雪はきっぱり断る。
「私たちに遠慮しなくてもいいんだよ?」
宮島教授の気遣いもありがたくはない。
「聞きしに勝る変人ぶり。面白いなぁ、何か、漫画の中から出てきたまんまって感じ?」
「大原です」
ぺこりと頭は下げただけで、千雪は速水は無視し、無表情で文子を見た。
深窓の令嬢とはまさしくこの人のことを言う気がした。
従姉の小夜子もお嬢様を絵に描いたようなタイプだが、天真爛漫な分、親しみがある。
だが、この文子は才媛というだけあって、少しお高い雰囲気かも、などと考えてから、千雪は京助の元恋人、ということで文子のあらを探したような気がして、そんな自分が気持ち悪い。
「今夜、法医研と法学研究室で飲み会やるんだ。もちろん、君も参加してもらわないと」
「あいにく、原稿あげないとあかんので、俺は遠慮します」
テンションが落ちない速水の独断的な言い方に、千雪は丁寧に辞退したつもりだった。
「あ、そうか、名探偵は、探偵小説も書いているんだっけ?」
あからさまに見下したような言い方をされ、土曜日の朝のことも蘇って、思わずぶん殴ってやりたい衝動にかられたが、お前はすぐカッとなるから心配だ、といつだったかの研二の言葉が頭をよぎり、千雪はこっそり深呼吸をして自分を静める。
三流小説だの何だの、散々こき下ろされたりするものの、別にそんなものは気にもかけない千雪だが、この男の口から出た言葉は許せない気がした。
「ほな、これで」
後ろにいる京助をジロリと睨みつけながら、千雪はその場を去ろうとした。
「ええ、そんなこと言わずに、たまには一緒に飲もうよ! 私としてはこないだの事件のことも聞きたいんだよね」
牧村久美は法医学教室の紅一点で、姉御肌のさっぱりとした気性の女性だ。
「そうでっせ? 大丈夫、千雪先輩は俺が絶対連れて行きますから」
安請け合いをする佐久間の横から京助がすっと近づいてきた。
「ほんとにすまない。今夜は出なくていいぞ」
京助はすまなそうに、耳元で囁く。
「誰が出るか」
思った以上に千雪が怒っているのに、京助はフウと息をつく。
「だから、悪いってっだろ?」
「今夜は俺はダシで、大原さんとお前の焼けぼっくいに火をつけるのが周りの目的らしいで。お前のご学友とは言葉を交わす気にもなれへん」
「おい、佐久間が何を言ったか知らないが、俺と文子はとっくに……」
京助は焦り、思わず声を上げる。
「お前と大原さん、似合いやん? うまくいくように応援してるわ」
「おい、千雪!」
もどかしげにイラつく京助に、追い討ちをかけるようにはっきりそう言うと、千雪はその場をあとにした。
何でこうなるんや!
千雪は心の中で喚いてから、立ってビールを継ぎにまわったりして、あちこちに愛想を振りまいている佐久間を睨みつける。
御茶ノ水にあるこの居酒屋は、多くの学生で溢れる中、この店の店長が佐久間の高校の先輩だというので、割と急だったにもかかわらず総勢二十名ほどの席をキープできたらしい。
小テーブルには宮島教授と千雪、それに法医学研究室の准教授伊藤と心理学教室の関谷教授が座り、あと全員が陣取った傍の大テーブルは大原文子と牧村久美を中心に大いに盛り上がっている。
千雪は始めから来るつもりはなかったのだ。
「今夜、法医学研究室と心理学研究室と一緒に飲み会だってね。あまりそんな機会はないから、みんな張り切ってるよ。君も行くよね?」
宮島教授がそう切り出したりしなければ。
「いや…………、俺なんか行っても、あまり歓迎されへんと思いますし……」
「そんなことあるもんかね。法医研の牧村くんや佐久間くんから、ぜひ君を連れてきて欲しいって頼まれちゃってね」
佐久間のアホがぁ!!!!
教授から手を回させるなんて姑息なことをしやがって、と思ったものの、宮島教授の誘いを無下に断ることもできない。
仕方なく、適当なところで切り上げようと思いつつ、教授についてきたわけである。
確かに、大学に進学してからは苦心したこの眼鏡やボサボサ頭、それにダサダサの風貌のせいで、ごく普通の大学生ならあたりまえのコンパや飲み会などに誘われることもほとんどなく、今まで過ごしてきてしまったが、千雪としてはそんなことはどうでもよかった。
「千雪先輩、飲みが足りてまへんで!」
あっという間もなく、佐久間が教授らと同様に千雪のグラスにもビールを注ぐ。
ウザい…………
睨みつけても、結構このメガネのせいで、ちょっと見ではあまり表情がわからないらしい。
いい加減、このコスプレも面倒くさくなってきたところなのだが、それをやめた時の周囲の反応を考えると、自意識過剰と言われようと、もっとウザいことになるに違いないのだ。
「先輩もあっち行って一緒に飲みましょうよ」
「俺はここでええ」
佐久間の誘いを、千雪はきっぱり断る。
「私たちに遠慮しなくてもいいんだよ?」
宮島教授の気遣いもありがたくはない。
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