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真夜中の恋人 5
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「さすが名探偵ともなると、俺らのような下っ端とは酒も飲めないってわけだ?」
よく考えれば、京助には非がないのだが、この速水という男に千雪は猛烈に頭にきていた。
ひいてはあんな下卑た台詞をはくこの男とご友人な京助も気に入らない。
おそらく京助の部屋にいた人間と今ここにいる千雪が同一人物とは気づいていないようだが、いずれにせよ皮肉屋で性格は曲がりくねっていそうな気がする。
わざと人を煽って反応をみようという魂胆かもしれないが、到底好きになれない男だ。
「確か、五年前? 六年前だったっけ? お二人、付き合ってたわよね?」
大テーブルの方では、牧村が早速、京助と文子の焼けぼっくいに火をつける会の口火を切ったらしい。
「大昔の話だ」
京助がイラっとして即答する。
「マスコミを騒がせるばかりが能じゃないだろ? 今、付き合ってるヤツいないんなら、この際、元の鞘におさまっちまえよ?」
「川西くん、京助くんがモテ過ぎるからひがんでるんだよね~」
「いや、ひがみたくもなるって、ちょっといいなって思った子がいても、京助見るともうきゃーとか言っちゃって。京助くんが落ち着いてくれればね~」
さっきまで小難しい話をしていた法医研の助教もいい加減酒も入り、コイバナとなると牧村と掛け合いのようにここぞとばかりに京助に対する不満を口にする。
「京助くん、今、決まった相手、いないんでしょ? 文子さんも」
牧村があらためて聞いた。
「いや、俺は」
「いないいない。遊びはもうこの辺で卒業したらどうだ?」
反論しかけた京助の言葉を遮って、向かいに座る速水が断言する。
「勝手なことを言うな。相手はいる」
速水に食って掛かるように、京助は声を荒げた。
「ほう、さぞステキな美人なんだろうな? だったらちゃんと俺に紹介しろよ」
「お前に紹介する義理なんかねぇ!」
「久しぶりに会った親友掴まえて、えらい言い草だな? 俺はお前を心配してやってんだぞ?」
「それこそ余計なお世話だ! 人のことより、自分のことでも心配しとけ!」
「こらこら、その辺にしときなさいよ」
今にも掴みかかりそうに険悪な雰囲気の二人を、牧村が宥める。
千雪はそのようすを端から見ていたが、京助が相手がいると言った時、文子の表情が少し寂しげに曇ったのを見逃さなかった。
文子さんはまだ京助のことを好きらしいやん。
この際、ほんまにくっついてしもたらええんや。
京助のことで何だかだと考えたり、振り回されるのもウザったい。
わけのわからないモヤモヤした感情に支配されるのも。
「ちぇ、どうせ俺は振られっぱなしな、情けない男だよ」
今度は拗ねたように速水はハイボールを空ける。
「速水さんなんか向こうで、京助に負けずベッピンなパツキン美人にモテモテなんじゃないんですか」
横に座る心理学研究室の垣内が死語を連発する。
「そうよね、イケメンだし、ほんとはたくさん女の子泣かせてるんじゃないの?」
牧村が茶化す。
「冗談でしょ、俺はいつも一直線、当たってくだけちゃったんですよ。春になっても心はまだ冬のまま………凛とした美しい人だった……」
大げさに身振り手振りで自分を演出してみせる。
「あらぁ、速水さんを振るなんて、やっぱり金髪美人?」
「いえいえ、京都出身のはんなり美人で、しかもピアニスト、芸術家で………。付き合ってほしいってダイレクトに言ったら、振られたけど好きな人がいるんですって、きっぱり。そういうところも凛として、素晴らしい人だったな。全く、あんな素晴らしい人を振るなんて、どこのどいつか知らないが、そいつの目は節穴だ!」
拳を握りしめて喚く速水の横で、同じボストンの大学に籍を置く文子がクスクス笑う。
「そうね、彼女に振られたあと数日は、速水くん、立ち直れなかったものね」
「ああ、彼女のことを思い出すと、今でも心がうずく! 京助、貴様にはこんな純粋な恋心なんかわからねぇだろうなぁ」
尚も突っかかる速水を見て、京助はフンと鼻で笑う。
「てめぇの薄汚れた心なんかわかってたまるか」
「何だと?」
「そういえば、ピアニストの桐島さんて、京都の祇園高校の出身って言ってたけど、小林さん、高校はどちらでした?」
またしても喧々囂々が始まりそうな二人を遮って、文子が唐突に千雪に声をかけた。
「え、桐島……恵美?」
千雪が聞き返すと、がたんと立ち上がったのは速水だ。
「何で知ってる? 名探偵!」
今にも飛び掛かりそうな勢いで速水に睨みつけられ、千雪は少々困惑する。
「高校のクラスメイトってだけですよ」
「じゃあ、やっぱりそうなんだ? 世の中って狭いのね。恵美さんとは父の仕事の関係で結構前から知ってて、この冬、ニューヨークでリサイタルがあった時、彼女、ちょっと話してくれたのよね、高校の時に好きな人がいて、すごいきれいな名前の人でって」
文子の言葉に、とうとう速水は席を立って千雪の傍にやってきた。
こいつ、ほんまウッザ!
千雪は速水を睨み付ける。
よく考えれば、京助には非がないのだが、この速水という男に千雪は猛烈に頭にきていた。
ひいてはあんな下卑た台詞をはくこの男とご友人な京助も気に入らない。
おそらく京助の部屋にいた人間と今ここにいる千雪が同一人物とは気づいていないようだが、いずれにせよ皮肉屋で性格は曲がりくねっていそうな気がする。
わざと人を煽って反応をみようという魂胆かもしれないが、到底好きになれない男だ。
「確か、五年前? 六年前だったっけ? お二人、付き合ってたわよね?」
大テーブルの方では、牧村が早速、京助と文子の焼けぼっくいに火をつける会の口火を切ったらしい。
「大昔の話だ」
京助がイラっとして即答する。
「マスコミを騒がせるばかりが能じゃないだろ? 今、付き合ってるヤツいないんなら、この際、元の鞘におさまっちまえよ?」
「川西くん、京助くんがモテ過ぎるからひがんでるんだよね~」
「いや、ひがみたくもなるって、ちょっといいなって思った子がいても、京助見るともうきゃーとか言っちゃって。京助くんが落ち着いてくれればね~」
さっきまで小難しい話をしていた法医研の助教もいい加減酒も入り、コイバナとなると牧村と掛け合いのようにここぞとばかりに京助に対する不満を口にする。
「京助くん、今、決まった相手、いないんでしょ? 文子さんも」
牧村があらためて聞いた。
「いや、俺は」
「いないいない。遊びはもうこの辺で卒業したらどうだ?」
反論しかけた京助の言葉を遮って、向かいに座る速水が断言する。
「勝手なことを言うな。相手はいる」
速水に食って掛かるように、京助は声を荒げた。
「ほう、さぞステキな美人なんだろうな? だったらちゃんと俺に紹介しろよ」
「お前に紹介する義理なんかねぇ!」
「久しぶりに会った親友掴まえて、えらい言い草だな? 俺はお前を心配してやってんだぞ?」
「それこそ余計なお世話だ! 人のことより、自分のことでも心配しとけ!」
「こらこら、その辺にしときなさいよ」
今にも掴みかかりそうに険悪な雰囲気の二人を、牧村が宥める。
千雪はそのようすを端から見ていたが、京助が相手がいると言った時、文子の表情が少し寂しげに曇ったのを見逃さなかった。
文子さんはまだ京助のことを好きらしいやん。
この際、ほんまにくっついてしもたらええんや。
京助のことで何だかだと考えたり、振り回されるのもウザったい。
わけのわからないモヤモヤした感情に支配されるのも。
「ちぇ、どうせ俺は振られっぱなしな、情けない男だよ」
今度は拗ねたように速水はハイボールを空ける。
「速水さんなんか向こうで、京助に負けずベッピンなパツキン美人にモテモテなんじゃないんですか」
横に座る心理学研究室の垣内が死語を連発する。
「そうよね、イケメンだし、ほんとはたくさん女の子泣かせてるんじゃないの?」
牧村が茶化す。
「冗談でしょ、俺はいつも一直線、当たってくだけちゃったんですよ。春になっても心はまだ冬のまま………凛とした美しい人だった……」
大げさに身振り手振りで自分を演出してみせる。
「あらぁ、速水さんを振るなんて、やっぱり金髪美人?」
「いえいえ、京都出身のはんなり美人で、しかもピアニスト、芸術家で………。付き合ってほしいってダイレクトに言ったら、振られたけど好きな人がいるんですって、きっぱり。そういうところも凛として、素晴らしい人だったな。全く、あんな素晴らしい人を振るなんて、どこのどいつか知らないが、そいつの目は節穴だ!」
拳を握りしめて喚く速水の横で、同じボストンの大学に籍を置く文子がクスクス笑う。
「そうね、彼女に振られたあと数日は、速水くん、立ち直れなかったものね」
「ああ、彼女のことを思い出すと、今でも心がうずく! 京助、貴様にはこんな純粋な恋心なんかわからねぇだろうなぁ」
尚も突っかかる速水を見て、京助はフンと鼻で笑う。
「てめぇの薄汚れた心なんかわかってたまるか」
「何だと?」
「そういえば、ピアニストの桐島さんて、京都の祇園高校の出身って言ってたけど、小林さん、高校はどちらでした?」
またしても喧々囂々が始まりそうな二人を遮って、文子が唐突に千雪に声をかけた。
「え、桐島……恵美?」
千雪が聞き返すと、がたんと立ち上がったのは速水だ。
「何で知ってる? 名探偵!」
今にも飛び掛かりそうな勢いで速水に睨みつけられ、千雪は少々困惑する。
「高校のクラスメイトってだけですよ」
「じゃあ、やっぱりそうなんだ? 世の中って狭いのね。恵美さんとは父の仕事の関係で結構前から知ってて、この冬、ニューヨークでリサイタルがあった時、彼女、ちょっと話してくれたのよね、高校の時に好きな人がいて、すごいきれいな名前の人でって」
文子の言葉に、とうとう速水は席を立って千雪の傍にやってきた。
こいつ、ほんまウッザ!
千雪は速水を睨み付ける。
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