真夜中の恋人

chatetlune

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真夜中の恋人 9

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「やあね、あたしと工藤さんがどうにかなるわけないじゃない」
 万里子は軽く笑い飛ばした。
「万里子さん、どうぞ」
 鈴木さんが千雪の向かいにお茶を置いて、万里子を促した。
「あら、おいしそう。いただきます」
 万里子はソファに座り、長いストレートの髪を無造作に搔き揚げると、クッキーをつまんだ。
「ねえ、それより鈴木さん、今夜もこんな時間まで? あとはあたしやっておくから、いいわよ、帰っても」
 鈴木さんを労わり、気軽にそんなことを申し出る万里子は、さっぱりした性格のようだ。
 そういえば、確か平造が、鈴木さんがいなかった時、オフィスのことをやってくれていたと話していたのは、彼女のことだったかもしれない。
 千雪は万里子を見つめた。
「女優さんに、そんなことさせられませんわ。小林さん、お紅茶おかわりいかが?」
「おおきに。俺はもう結構です」
 鈴木さんがキッチンに引っ込むと、しばし沈黙があった。
「小野、万里子さん?」
 雑誌の表紙と見比べながら、千雪は呼んだ。
 つまり、映画のヒロイン候補はおそらく彼女だろう。
「映画のヒロイン?」
「ええ、工藤さんにやってみないかって言われて。映画は久しぶりだから、嬉しいわ」
「こんなミステリーの犯人役でも?」
 工藤に任せると言ったものの、ヒロインということになると犯人役になるわけで、ちょっと千雪は聞いてみたくなった。
「私、好きよ、ミステリー。本も読んだけど、何か、ミステリーにしてはロマンチックだし、それに面白かったわ。あ、あなたも出るの? この映画に」
「そうだ、出るか? お前も、映画に」
 万里子に答えたのは、ちょうど戻ってきた工藤だった。
「冗談言わんでください。それと、ええ加減なこと言うの、やめてください」
「あっちが勝手に思い込んだんだろ。俺はダシじゃなくてホントにしてもいっこうに構わないが」
 工藤はニヤニヤと煙草に火をつける。
「そういう笑えないジョークはもっとやめてほしいわ。そういえば、犯人とか、原作のままなんですか?」
 一言釘を刺して、千雪は尋ねた。
「あたりまえだ。お前もいじられるのはいやだろう?」
「まあ、そうですけど、映画になったらやっぱり別物ですし」
「あの!」
 二人の会話を聞いていた万里子が口を挟む。
「えっと、まさか、小林さんって…………」
「小林千雪、原作者と会ってもらうと言っただろ?」
「ええええええーーーーっ! ウッソォ! 何で???」
 工藤の答えに、万里子は思わず立ち上がった。
 

 
 
 万里子には、小林千雪の正体については社外秘だといい含めて、工藤は万里子と千雪のためにタクシーを呼んだ。
 いちいち驚かれるのも面倒なので、千雪としてもそうしてくれると有難かった。
 部屋に辿り着くとどっと疲れが出て、千雪はベッドに倒れこんだ。
 肉体的疲労というより、人間関係的なものが原因に違いない。
 シャワーを浴びてから寝ようとむっくりと起き上り、バスルームのドアを開ける。
 飲み会で散々いじられた挙句、青山プロダクションでもまた美女に絡まれるなんて。
「全くええ加減にしてほしいわ」
 工藤ときた日には適当なことばかり人に振りまいてくれるし。
 ふとその時、千雪は宮島教授の言葉を思い出した。
「調べてみるといいって、工藤のこと?」
 怪訝な面持ちでバスルームから出てくると、喉が渇いて冷蔵庫に一本残っていたポカリスエットを思い切りよく飲む。
 ようやく人心地ついた気がした。
「調べてみるか」
 フウと息をついた時、チャイムが鳴った。
「俺だ、開けろ」
 無視したところで、勝手に鍵を開けて入るのが関の山だ。
 仕方なく、千雪はドアを開けた。
 ドアが閉まるかしまらないかのうちに、京助は千雪に覆いかぶさってきた。
「おい、酔うてんのか?」
「誰が、酔ってるもんか。千雪ちゃん、いい匂いがする」
「アホか! こら、やめ………お前は酒臭いぞ!」
 絡み付いてくる京助を押し戻そうとするが、酔っ払いは酒臭い息を吹きかけながら、千雪の唇を奪い、あちこちにキスしまくる。
「うわ、きょ………」
 果てはそのままベッドに千雪を引き摺って行って千雪ごと倒れこむ。
 おまけに千雪の上に馬乗りになったままズボンを脱ぎ始めた京助に、千雪は焦って身体を引こうとするが、大きな男が思いきり体重をかけているため身動きが取れない。
「冗談やないで! 昨日の今日で!」
「うるせぇ! やらせろ!」
 京助が身体を浮かせたので、千雪は何とか這い出そうとして足蹴りして暴れた。
 ところがその足をぐいと掴むと、京助はくるりと千雪をうつぶせにしてしまう。
「この、酔っ払い! 離せ!」
 京助にとってはおあつらえ向きに、シャワーを浴びたばかりの千雪はTシャツとパンツ一丁だ。
「ヤツら勝手なことを言いやがって! いいか、文子となんか大昔の話で、今さらどうこうなるわけ、これっぽっちもねぇんだ!」
 怒りの勢いに任せて、それでもいつもの癖でローションを手早く使うと京助は千雪に押し入った。
「う……あ……」
 一瞬身体を硬直させた千雪だが、京助のことを聞いてきた文子の言葉がふいに頭をよぎり、途端、熱く血液が一気に逆流する。
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