9 / 42
真夜中の恋人 9
しおりを挟む
「やあね、あたしと工藤さんがどうにかなるわけないじゃない」
万里子は軽く笑い飛ばした。
「万里子さん、どうぞ」
鈴木さんが千雪の向かいにお茶を置いて、万里子を促した。
「あら、おいしそう。いただきます」
万里子はソファに座り、長いストレートの髪を無造作に搔き揚げると、クッキーをつまんだ。
「ねえ、それより鈴木さん、今夜もこんな時間まで? あとはあたしやっておくから、いいわよ、帰っても」
鈴木さんを労わり、気軽にそんなことを申し出る万里子は、さっぱりした性格のようだ。
そういえば、確か平造が、鈴木さんがいなかった時、オフィスのことをやってくれていたと話していたのは、彼女のことだったかもしれない。
千雪は万里子を見つめた。
「女優さんに、そんなことさせられませんわ。小林さん、お紅茶おかわりいかが?」
「おおきに。俺はもう結構です」
鈴木さんがキッチンに引っ込むと、しばし沈黙があった。
「小野、万里子さん?」
雑誌の表紙と見比べながら、千雪は呼んだ。
つまり、映画のヒロイン候補はおそらく彼女だろう。
「映画のヒロイン?」
「ええ、工藤さんにやってみないかって言われて。映画は久しぶりだから、嬉しいわ」
「こんなミステリーの犯人役でも?」
工藤に任せると言ったものの、ヒロインということになると犯人役になるわけで、ちょっと千雪は聞いてみたくなった。
「私、好きよ、ミステリー。本も読んだけど、何か、ミステリーにしてはロマンチックだし、それに面白かったわ。あ、あなたも出るの? この映画に」
「そうだ、出るか? お前も、映画に」
万里子に答えたのは、ちょうど戻ってきた工藤だった。
「冗談言わんでください。それと、ええ加減なこと言うの、やめてください」
「あっちが勝手に思い込んだんだろ。俺はダシじゃなくてホントにしてもいっこうに構わないが」
工藤はニヤニヤと煙草に火をつける。
「そういう笑えないジョークはもっとやめてほしいわ。そういえば、犯人とか、原作のままなんですか?」
一言釘を刺して、千雪は尋ねた。
「あたりまえだ。お前もいじられるのはいやだろう?」
「まあ、そうですけど、映画になったらやっぱり別物ですし」
「あの!」
二人の会話を聞いていた万里子が口を挟む。
「えっと、まさか、小林さんって…………」
「小林千雪、原作者と会ってもらうと言っただろ?」
「ええええええーーーーっ! ウッソォ! 何で???」
工藤の答えに、万里子は思わず立ち上がった。
万里子には、小林千雪の正体については社外秘だといい含めて、工藤は万里子と千雪のためにタクシーを呼んだ。
いちいち驚かれるのも面倒なので、千雪としてもそうしてくれると有難かった。
部屋に辿り着くとどっと疲れが出て、千雪はベッドに倒れこんだ。
肉体的疲労というより、人間関係的なものが原因に違いない。
シャワーを浴びてから寝ようとむっくりと起き上り、バスルームのドアを開ける。
飲み会で散々いじられた挙句、青山プロダクションでもまた美女に絡まれるなんて。
「全くええ加減にしてほしいわ」
工藤ときた日には適当なことばかり人に振りまいてくれるし。
ふとその時、千雪は宮島教授の言葉を思い出した。
「調べてみるといいって、工藤のこと?」
怪訝な面持ちでバスルームから出てくると、喉が渇いて冷蔵庫に一本残っていたポカリスエットを思い切りよく飲む。
ようやく人心地ついた気がした。
「調べてみるか」
フウと息をついた時、チャイムが鳴った。
「俺だ、開けろ」
無視したところで、勝手に鍵を開けて入るのが関の山だ。
仕方なく、千雪はドアを開けた。
ドアが閉まるかしまらないかのうちに、京助は千雪に覆いかぶさってきた。
「おい、酔うてんのか?」
「誰が、酔ってるもんか。千雪ちゃん、いい匂いがする」
「アホか! こら、やめ………お前は酒臭いぞ!」
絡み付いてくる京助を押し戻そうとするが、酔っ払いは酒臭い息を吹きかけながら、千雪の唇を奪い、あちこちにキスしまくる。
「うわ、きょ………」
果てはそのままベッドに千雪を引き摺って行って千雪ごと倒れこむ。
おまけに千雪の上に馬乗りになったままズボンを脱ぎ始めた京助に、千雪は焦って身体を引こうとするが、大きな男が思いきり体重をかけているため身動きが取れない。
「冗談やないで! 昨日の今日で!」
「うるせぇ! やらせろ!」
京助が身体を浮かせたので、千雪は何とか這い出そうとして足蹴りして暴れた。
ところがその足をぐいと掴むと、京助はくるりと千雪をうつぶせにしてしまう。
「この、酔っ払い! 離せ!」
京助にとってはおあつらえ向きに、シャワーを浴びたばかりの千雪はTシャツとパンツ一丁だ。
「ヤツら勝手なことを言いやがって! いいか、文子となんか大昔の話で、今さらどうこうなるわけ、これっぽっちもねぇんだ!」
怒りの勢いに任せて、それでもいつもの癖でローションを手早く使うと京助は千雪に押し入った。
「う……あ……」
一瞬身体を硬直させた千雪だが、京助のことを聞いてきた文子の言葉がふいに頭をよぎり、途端、熱く血液が一気に逆流する。
万里子は軽く笑い飛ばした。
「万里子さん、どうぞ」
鈴木さんが千雪の向かいにお茶を置いて、万里子を促した。
「あら、おいしそう。いただきます」
万里子はソファに座り、長いストレートの髪を無造作に搔き揚げると、クッキーをつまんだ。
「ねえ、それより鈴木さん、今夜もこんな時間まで? あとはあたしやっておくから、いいわよ、帰っても」
鈴木さんを労わり、気軽にそんなことを申し出る万里子は、さっぱりした性格のようだ。
そういえば、確か平造が、鈴木さんがいなかった時、オフィスのことをやってくれていたと話していたのは、彼女のことだったかもしれない。
千雪は万里子を見つめた。
「女優さんに、そんなことさせられませんわ。小林さん、お紅茶おかわりいかが?」
「おおきに。俺はもう結構です」
鈴木さんがキッチンに引っ込むと、しばし沈黙があった。
「小野、万里子さん?」
雑誌の表紙と見比べながら、千雪は呼んだ。
つまり、映画のヒロイン候補はおそらく彼女だろう。
「映画のヒロイン?」
「ええ、工藤さんにやってみないかって言われて。映画は久しぶりだから、嬉しいわ」
「こんなミステリーの犯人役でも?」
工藤に任せると言ったものの、ヒロインということになると犯人役になるわけで、ちょっと千雪は聞いてみたくなった。
「私、好きよ、ミステリー。本も読んだけど、何か、ミステリーにしてはロマンチックだし、それに面白かったわ。あ、あなたも出るの? この映画に」
「そうだ、出るか? お前も、映画に」
万里子に答えたのは、ちょうど戻ってきた工藤だった。
「冗談言わんでください。それと、ええ加減なこと言うの、やめてください」
「あっちが勝手に思い込んだんだろ。俺はダシじゃなくてホントにしてもいっこうに構わないが」
工藤はニヤニヤと煙草に火をつける。
「そういう笑えないジョークはもっとやめてほしいわ。そういえば、犯人とか、原作のままなんですか?」
一言釘を刺して、千雪は尋ねた。
「あたりまえだ。お前もいじられるのはいやだろう?」
「まあ、そうですけど、映画になったらやっぱり別物ですし」
「あの!」
二人の会話を聞いていた万里子が口を挟む。
「えっと、まさか、小林さんって…………」
「小林千雪、原作者と会ってもらうと言っただろ?」
「ええええええーーーーっ! ウッソォ! 何で???」
工藤の答えに、万里子は思わず立ち上がった。
万里子には、小林千雪の正体については社外秘だといい含めて、工藤は万里子と千雪のためにタクシーを呼んだ。
いちいち驚かれるのも面倒なので、千雪としてもそうしてくれると有難かった。
部屋に辿り着くとどっと疲れが出て、千雪はベッドに倒れこんだ。
肉体的疲労というより、人間関係的なものが原因に違いない。
シャワーを浴びてから寝ようとむっくりと起き上り、バスルームのドアを開ける。
飲み会で散々いじられた挙句、青山プロダクションでもまた美女に絡まれるなんて。
「全くええ加減にしてほしいわ」
工藤ときた日には適当なことばかり人に振りまいてくれるし。
ふとその時、千雪は宮島教授の言葉を思い出した。
「調べてみるといいって、工藤のこと?」
怪訝な面持ちでバスルームから出てくると、喉が渇いて冷蔵庫に一本残っていたポカリスエットを思い切りよく飲む。
ようやく人心地ついた気がした。
「調べてみるか」
フウと息をついた時、チャイムが鳴った。
「俺だ、開けろ」
無視したところで、勝手に鍵を開けて入るのが関の山だ。
仕方なく、千雪はドアを開けた。
ドアが閉まるかしまらないかのうちに、京助は千雪に覆いかぶさってきた。
「おい、酔うてんのか?」
「誰が、酔ってるもんか。千雪ちゃん、いい匂いがする」
「アホか! こら、やめ………お前は酒臭いぞ!」
絡み付いてくる京助を押し戻そうとするが、酔っ払いは酒臭い息を吹きかけながら、千雪の唇を奪い、あちこちにキスしまくる。
「うわ、きょ………」
果てはそのままベッドに千雪を引き摺って行って千雪ごと倒れこむ。
おまけに千雪の上に馬乗りになったままズボンを脱ぎ始めた京助に、千雪は焦って身体を引こうとするが、大きな男が思いきり体重をかけているため身動きが取れない。
「冗談やないで! 昨日の今日で!」
「うるせぇ! やらせろ!」
京助が身体を浮かせたので、千雪は何とか這い出そうとして足蹴りして暴れた。
ところがその足をぐいと掴むと、京助はくるりと千雪をうつぶせにしてしまう。
「この、酔っ払い! 離せ!」
京助にとってはおあつらえ向きに、シャワーを浴びたばかりの千雪はTシャツとパンツ一丁だ。
「ヤツら勝手なことを言いやがって! いいか、文子となんか大昔の話で、今さらどうこうなるわけ、これっぽっちもねぇんだ!」
怒りの勢いに任せて、それでもいつもの癖でローションを手早く使うと京助は千雪に押し入った。
「う……あ……」
一瞬身体を硬直させた千雪だが、京助のことを聞いてきた文子の言葉がふいに頭をよぎり、途端、熱く血液が一気に逆流する。
1
あなたにおすすめの小説
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる