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真夜中の恋人 15
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「俺たちの仲間で、工藤の恋人だった。宮島教授は二人のことを微笑ましく見ていたよ。だが二人が背負っているそれぞれの背景が厄介でね。工藤は伯父が広域暴力団の組長で、桜木は政治家の娘だった。二人が引き裂かれたことが原因で桜木は自殺した。表向きは」
「自殺? ですか? 何で、自殺やなんて。駆け落ちするとか、ほかにも方法があったはずやないですか」
千雪は思わず声高になった。
「桜木? 政治家というと、まさか何年か前、贈収賄事件で起訴された桜木代議士?」
「そうだ。君の言う通り、引き裂かれて自殺なんて、今時はやらないよな」
小田は苦笑いしながら振り返った。
「いえ、境遇とかは違うかもしれませんが、俺の両親、駆け落ちやったんです。母親には縁談があったし、祖父がしょぼい学者の卵なんかに大反対で」
「君は幸せな家族の中で育ったんだね」
「ええまあ。子供残して、とっとと親父も母親の後を追って逝ってしもたくらい仲よかったみたいで」
千雪は笑った。
「そう。……いや、工藤も甲斐性がなかったわけではないんだ。だが、実を言うと彼女は社会正義のために自殺したんだ」
「え?」
千雪は驚いた。
「どういう……?」
「引き裂かれたくらいで自殺されたら、工藤が可哀想だろう。平手政秀を知ってるかね?」
「信長の重臣ですか? 確か、信長のために諌死したという説がありますが」
「桜木は戦国武将も真っ青なことやってくれたわけだ。だが、残念なことに、桜木代議士には死を以って諌めようとした彼女の意志は伝わらなかった。桜木代議士が起訴されたのは彼女が亡くなって何年後かだが、彼女が荒木に渡していた代議士のデータのいくつかが証拠として採用された」
思いもよらない事実だった。
「まさしく諌死…ですね。でも工藤さんとしてはやりきれないですね」
「そうだ。やりきれない。だから今も引きずっているんだろう。だが、俺も荒木も未だにやりきれない。何しろ桜木代議士は表舞台からは退いたが、フィクサーとして今でも影響力は大きい。さらに代わりに表舞台に挙げた娘婿というのが、桜木が決めていたちゆきの元婚約者でちゆきが死ぬと、その妹にそのままスライドだ。考えただけで胸糞が悪くなる」
穏やかそうだった小田が激昂する。
「いや、つい、桜木の件を思い出すとカッカきてしまう。俺も修行が足りないな。当時、三人で司法試験を受けたのは桜木の弔い合戦だった。俺にとっても桜木ちゆきは戦友みたいなものだ。こうして法律に携わる仕事をしている者としても桜木のことを忘れることはできない」
おそらく宮島教授も彼らと同じ意識を持っているのではないかと、千雪は思った。
非常に穏やかな人だが、その理論は時として怜悧で厳しいものがある。
「ただ工藤には、その上にある桜木への思いがまだ昇華されずに燻り続けている。二人の間には誰にも入っていけないくらい惹かれあっていたからな。工藤のやつ、一時ひどく荒れていて心配したんだが」
なるほど、エロオヤジにもいろいろあったわけか。
その思いを推し量ることなどとてもできそうにない。
「……桜の頃ですか? ちゆきさんが亡くなったの」
ふと、そんな気がしたのだ。
今は愛でるのもこのじじい一人で、桜も寂しがってることじゃろ…
平造の言葉が頭に浮かぶ。
「ああ、そうだったな」
小田は噛みしめるようにそう口にした。
「そういえば、どうしてそんな奇抜な格好してるんだ?」
帰り際、唐突に小田が尋ねた。
「え、工藤さん、言うたんですか?」
「なるほど、やっぱりわざとなんだな?」
つい問い返してしまった千雪は、苦笑する。
茶目っ気を見せた小田は、またいつでもおいで、と小学生を帰すような口ぶりで千雪の肩を叩いた。
「自殺? ですか? 何で、自殺やなんて。駆け落ちするとか、ほかにも方法があったはずやないですか」
千雪は思わず声高になった。
「桜木? 政治家というと、まさか何年か前、贈収賄事件で起訴された桜木代議士?」
「そうだ。君の言う通り、引き裂かれて自殺なんて、今時はやらないよな」
小田は苦笑いしながら振り返った。
「いえ、境遇とかは違うかもしれませんが、俺の両親、駆け落ちやったんです。母親には縁談があったし、祖父がしょぼい学者の卵なんかに大反対で」
「君は幸せな家族の中で育ったんだね」
「ええまあ。子供残して、とっとと親父も母親の後を追って逝ってしもたくらい仲よかったみたいで」
千雪は笑った。
「そう。……いや、工藤も甲斐性がなかったわけではないんだ。だが、実を言うと彼女は社会正義のために自殺したんだ」
「え?」
千雪は驚いた。
「どういう……?」
「引き裂かれたくらいで自殺されたら、工藤が可哀想だろう。平手政秀を知ってるかね?」
「信長の重臣ですか? 確か、信長のために諌死したという説がありますが」
「桜木は戦国武将も真っ青なことやってくれたわけだ。だが、残念なことに、桜木代議士には死を以って諌めようとした彼女の意志は伝わらなかった。桜木代議士が起訴されたのは彼女が亡くなって何年後かだが、彼女が荒木に渡していた代議士のデータのいくつかが証拠として採用された」
思いもよらない事実だった。
「まさしく諌死…ですね。でも工藤さんとしてはやりきれないですね」
「そうだ。やりきれない。だから今も引きずっているんだろう。だが、俺も荒木も未だにやりきれない。何しろ桜木代議士は表舞台からは退いたが、フィクサーとして今でも影響力は大きい。さらに代わりに表舞台に挙げた娘婿というのが、桜木が決めていたちゆきの元婚約者でちゆきが死ぬと、その妹にそのままスライドだ。考えただけで胸糞が悪くなる」
穏やかそうだった小田が激昂する。
「いや、つい、桜木の件を思い出すとカッカきてしまう。俺も修行が足りないな。当時、三人で司法試験を受けたのは桜木の弔い合戦だった。俺にとっても桜木ちゆきは戦友みたいなものだ。こうして法律に携わる仕事をしている者としても桜木のことを忘れることはできない」
おそらく宮島教授も彼らと同じ意識を持っているのではないかと、千雪は思った。
非常に穏やかな人だが、その理論は時として怜悧で厳しいものがある。
「ただ工藤には、その上にある桜木への思いがまだ昇華されずに燻り続けている。二人の間には誰にも入っていけないくらい惹かれあっていたからな。工藤のやつ、一時ひどく荒れていて心配したんだが」
なるほど、エロオヤジにもいろいろあったわけか。
その思いを推し量ることなどとてもできそうにない。
「……桜の頃ですか? ちゆきさんが亡くなったの」
ふと、そんな気がしたのだ。
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平造の言葉が頭に浮かぶ。
「ああ、そうだったな」
小田は噛みしめるようにそう口にした。
「そういえば、どうしてそんな奇抜な格好してるんだ?」
帰り際、唐突に小田が尋ねた。
「え、工藤さん、言うたんですか?」
「なるほど、やっぱりわざとなんだな?」
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