真夜中の恋人

chatetlune

文字の大きさ
16 / 42

真夜中の恋人 16

しおりを挟む


 
 
    Act 5
 
 
 六本木の大通りから少し入ったところにあるバー「サンクチュアリ」は、富裕層が利用する高級会員制クラブの系列で、VIPルームもあるシックな店だが、京助や速水にとっては高校時代からのたまり場で、加えて大抵何人もの遊び仲間が屯していた。
 久々にドアをくぐると、久しぶり、と京助に声をかけてくる者もいる。
 もともと金のある知りあいに連れられてきた二人だが、当時から誰も高校生とは思わなかったようだ。
 ちょうど京助がK大学進学で東京を離れたのをいいことに、それまで住んでいた部屋を解約した速水は留学する九月までを京助の部屋に居候して、この店にも足しげく通い、大いに羽を伸ばしていた。
「あら、京助じゃない、久しぶりね。克也も帰ってたの?」
 早速声をかけてきたのは、たまに京助と噂に上ってマスコミを賑わしたことのある華道家元の娘、五所乃尾理香だ。
 華やかな美貌とはっきりしたきつい性格で男たちを手のひらで操るくらい朝飯前の女王様ぶりはよく知られている。
 京助も当時つき合っていた小山美沙や、二年後T大に入り直して少しつき合った文子を連れてきたこともある。
 だが、結局美沙には振られ、文子とつき合ったものの美沙のことがまだ忘れられずダメになり、それから自棄になって遊びまくっていた頃、理香とも寝たことがあるが、彼女とは遊びでしかない。
 そういう京助を知っている者がいるだろうこの店に、千雪を連れてくるつもりはなかった。
 今夜はフランス人らしい男が理香にべったりくっついていた。
「あちこちで聞いたわよ、噂の真夜中の恋人って、今日は一緒じゃないの? 京助」
「何だそれは」
 また虫唾が走るようなその呼称を耳にした京助は途端に不機嫌になる。
「やあね、隠さなくてもいいじゃない。すごい美人なんですって?」
 京助はケラケラ笑う理香を睨みつける。
「いたとしてもお前らに紹介するような義理はない」
「何よそれ? 美沙さんに振られたのが私たちのせいとかまだ根に持ってるの? 別にいじめたりしなかったわよ?」
 苛めたわけではないだろう。
 だが、派手で金を空気のように使って遊びまくる理香のような連中に囲まれ、美沙は違和感を感じたようだ。
 前の男とよりを戻したから別れたいという理由だったが、住む世界が違うとそう言われたことの方が大きな要因だったのではないかと、自分がもっと気を使っていればと後で悔やんだが既に遅かった。
 文子は住む世界といえば、理香とさして変わらなかったかもしれないが、こんなところで遊びまくる連中とはまた人種が違ったし、多少のことでぶれるような女ではなかったが、当時京助の方が美沙を忘れきれず、深い付き合いにはならなかった。
 いずれにせよ今となっては既に昔の話だ。
「それでいったい何の用だ?」
 理香のお蔭で余計なことを思い出し、イライラしながら京助はグラスを空けた。
「だからその真夜中の恋人のことだ」
 理香が離れていったのを見計らって、速水は声を落とした。
「まさか、本気じゃあるまい? あんな坊やに」
「お前に関係ないことだ」
「俺は心配なんだよ。お前が、言われているほど遊び人じゃないし、結構一途で不器用なやつだってことはよく知ってるからな」
 一呼吸おいて、速水は続けた。
「いくらでも女がより取り見取りだろう? ゲイってわけじゃないんだ。何も坊やなんか選ばなくてもいいだろ? いったいどこで知り合った? ニューヨークあたりでもよくいるが、あの手合いは絶対援助目的だぜ? お前の素性知ってるんだろ?」
 何も答えない京助に、速水は畳みかけるように言った。
「いや、ここのところ、お前、すっかりマスコミに好かれているらしいからな。わかってて近づいてきたに違いない。モデルか何かか? それともただの学生とか? まあ、ちょっとないくらいの美形だからな。女もだが男もほっとかなかっただろ、きっと。ありゃ、結構したたかなのかもしれないぜ?」
 その時、京助は不意に研二を思い出した。
 いや、確かに男でもほっとかなかったかもしれない。ひょっとしてもしあの弁慶がいなければ………。
 じゃあ、何で手放したんだよ!
 いや、もう遅いぜ、研二、遅いんだよ。
「お前、まさか、高校生に手出したんじゃないだろうな?」
 京助はフンと鼻で笑う。
「バカ、あり得ねぇよ。お前の気持ちは有難迷惑この上ない。全くわざわざお前の心配するようなことはない。克也、俺は決めたんだ。あいつと生きていく」
「おい、京助!」
 さすがにここまで断言されると、速水は驚きを隠せない。
「俺が男に走ったことが気に入らないってのなら、いつでも絶交してくれてかまわねぇぜ? 俺は」
 京助はそう言い切ると、苦々しい顔の速水を残して店を出た。
 速水が帰るまでは会わない、部屋にも来るな。
 数日前、昼に速水とひと悶着かました夜、千雪からそんなラインが届いたきり、携帯も切っている。
 昼もカフェや学食にも現れず、連絡も取れないのが歯がゆいのだが、無理に押しかけたりしたら、千雪のことだ、それこそ本当に絶交なんてことになりかねない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...