真夜中の恋人

chatetlune

文字の大きさ
27 / 42

真夜中の恋人 27

しおりを挟む
「とんでもない、万里子さんは永遠にお若いです!」
「三田村さん、今、おいくつ?」
「二十三です」
「やっぱり二歳もおばあちゃんだわ」
「歳とか女優さんには関係ないと思います」
 フフッと笑う万里子に、三田村は鼻息も荒く断言する。
「テレビのデビュー作の『はじめの一歩』からずっと観てました」
「やだ、恥ずかしい、そんな古い話!」
 恥ずかしいと言いながら、万里子も熱心なファンに満更でもないようすで、二人はしばし万里子の出演したドラマや映画の話で盛り上がった。
「ただ今戻りました」
 そこへ弁当やデザートなどコンビニで調達したらしい、マネージャーの菊池が戻ってきた。
「あ、小林先生、お世話様です」
 菊池は千雪に気づいて声をかけた。
「こちらこそ。え、食事まだやったんですか?」
「ええ、万里子さん、あんまり外食とかの気分じゃないということで。ちょっとここのところいろいろ騒がれてましたから、静かにオフィスにいるのがいいとおっしゃって」
「こうみえて意外と繊細なのよ」
 フフフと笑う万里子に、三田村が慌てた。
「うっわ、すみません、俺、何も知らんと騒いでしもて」
「あら、いいの。楽しかったわ、三田村さん、小林先生も何か召し上がる?」
「これ見よがしに先生はやめてんか。それより、急にお邪魔してもて、そろそろ帰るで、三田村」
 そう言って千雪が立ち上がりかけた時、オフィスのドアが開いた。
 何気なく顔を上げた千雪は、入ってきた予期せぬ人物に驚いた。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
 即座に菊池が男の前に立った。
「用があるのはそこにいる、そいつにだ」
 明らかに男が千雪を睨みつけていると分かり、今度は三田村が千雪の前に立ちはだかった。
「あんた、不躾に失礼やろ? 人のオフィスにいきなりおしかけて、まず名前を名乗るのが礼儀言うもんや」
「速水克也。今、T大の心理学研究室にいる」
 それを聞くと、「ああ、速水ってあんたか」と三田村が呟いた。
 千雪はよもやこんなところまで速水が現れると思っていなかったので、まずいことにならなければいいがと眉を顰める。
 速水は三田村の呟きを聞き逃さなかった。
「ほう? 今度は別の男か? 名前を名乗るのが礼儀というなら、お前、いい加減名前を名乗ってくれてもいいんじゃないか? 人のデートを思いきりぶち壊して、俺に大恥をかかせてくれたんだ、それで気がすんだわけか?」
 万里子も菊池も工藤が千雪のことを社外秘だと念を押したこともあってか、傍観を決め込んでいる。
「人のオフィスまで乗り込んで、一体何の騒ぎだ?」
 何やら不穏な空気が漂い始めたところへ、ようやく電話を切った工藤が口を挟んだ。
「夜分に大変失礼しました。いや、これにはわけがありまして。ここにいる彼は名前も素性も話してはくれないし、たまたまここに出入りしていたのを見たので、ここに来たらいるのではと伺った次第です」
「ほう? 俺はここの責任者の工藤だが、それで、こいつをどんな要件で追い回しているんですかな? T大の先生ともあろうものが」
「追い回すとは人聞きの悪い。私はただ、彼に弁明を求めたかっただけですよ。それで彼はここの所属タレントか何かですか?」
 工藤はしばし間を置いて口を開く。
「タレントとはちょっとばかし、違うが………」
「悪いんやけど、速水さん」
 二人の間に割って入ったのは三田村だ。
「あんたが、せっかくのデートをぶち壊されて? 恥かかされて怒っているのはわかるけど、今、桐島とつき合ってるのんは俺ですねん。高校の同級生で」
「え………」
 今度はさすがに速水も一瞬言葉がなかった。
「なるほど、それは知らなかったとはいえ、すまなかった。桐島さんのことはそもそも俺の一方的な話だから仕方ないとしよう。だが、そこの彼に、彼女の前で俺を侮辱するような発言をしたことに対する弁明をしてもらうのとは別の話だ」
 この男が皮肉屋で性格は曲がりくねっていそうな気がすると思ったのは確かだが、執念深くて立ち直りは早いというのもつけくわえておこうなどと思いながら、千雪は立ち上がる。
「あんた都合よう自分の言うたことは覚えてへんらしいな。俺はちょっとしたお返しをしただけやし? 目ぇ剥いて俺を追い掛け回すようなことやないんちがう? ほんま、京助のダチだけのことはあるわ」
 苦々しい表情を浮かべる速水を見て、三田村がハハハと笑う。
「こいつに何言うたか知らんけど、こいつに睨まれたら恐ろしことになりまっせ? 関わり合わん方がええ思いますけど?」
「俺がまるで極悪非道みたいなこと言いなや。工藤さんやあるまいし」
 ムッとした千雪は三田村に抗議する。
「おいおい、こっちにとばっちりをよこすなよ。先生、京助のオトモダチだって?」
 軽く千雪の憎まれ口をたしなめて、ことの成り行きを面白そうに眺めていた工藤がニヤリと笑う。
 どうやらここにいる者みんなが千雪のシンパで、自分にはここから先へ一歩も踏み込めないようだと、速水は悟る。
 それにしても一体どういうつながりなんだ?
 この男が桐島女史と付き合っているということは、こいつと桐島さんはだったら元々知り合いなわけか?
「まあ、速水さん。何があったか知らないが、今日のところは帰ってくれ。オフィスもそろそろ閉めるんでね」
 ニヤニヤしていた工藤も、今度は鋭い眼差しを速水に向けた。
「それは失礼した……」
 もうここは引き下がるしかないだろう。
 千雪は知らん顔を決め込んでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

処理中です...