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真夜中の恋人 27
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「とんでもない、万里子さんは永遠にお若いです!」
「三田村さん、今、おいくつ?」
「二十三です」
「やっぱり二歳もおばあちゃんだわ」
「歳とか女優さんには関係ないと思います」
フフッと笑う万里子に、三田村は鼻息も荒く断言する。
「テレビのデビュー作の『はじめの一歩』からずっと観てました」
「やだ、恥ずかしい、そんな古い話!」
恥ずかしいと言いながら、万里子も熱心なファンに満更でもないようすで、二人はしばし万里子の出演したドラマや映画の話で盛り上がった。
「ただ今戻りました」
そこへ弁当やデザートなどコンビニで調達したらしい、マネージャーの菊池が戻ってきた。
「あ、小林先生、お世話様です」
菊池は千雪に気づいて声をかけた。
「こちらこそ。え、食事まだやったんですか?」
「ええ、万里子さん、あんまり外食とかの気分じゃないということで。ちょっとここのところいろいろ騒がれてましたから、静かにオフィスにいるのがいいとおっしゃって」
「こうみえて意外と繊細なのよ」
フフフと笑う万里子に、三田村が慌てた。
「うっわ、すみません、俺、何も知らんと騒いでしもて」
「あら、いいの。楽しかったわ、三田村さん、小林先生も何か召し上がる?」
「これ見よがしに先生はやめてんか。それより、急にお邪魔してもて、そろそろ帰るで、三田村」
そう言って千雪が立ち上がりかけた時、オフィスのドアが開いた。
何気なく顔を上げた千雪は、入ってきた予期せぬ人物に驚いた。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
即座に菊池が男の前に立った。
「用があるのはそこにいる、そいつにだ」
明らかに男が千雪を睨みつけていると分かり、今度は三田村が千雪の前に立ちはだかった。
「あんた、不躾に失礼やろ? 人のオフィスにいきなりおしかけて、まず名前を名乗るのが礼儀言うもんや」
「速水克也。今、T大の心理学研究室にいる」
それを聞くと、「ああ、速水ってあんたか」と三田村が呟いた。
千雪はよもやこんなところまで速水が現れると思っていなかったので、まずいことにならなければいいがと眉を顰める。
速水は三田村の呟きを聞き逃さなかった。
「ほう? 今度は別の男か? 名前を名乗るのが礼儀というなら、お前、いい加減名前を名乗ってくれてもいいんじゃないか? 人のデートを思いきりぶち壊して、俺に大恥をかかせてくれたんだ、それで気がすんだわけか?」
万里子も菊池も工藤が千雪のことを社外秘だと念を押したこともあってか、傍観を決め込んでいる。
「人のオフィスまで乗り込んで、一体何の騒ぎだ?」
何やら不穏な空気が漂い始めたところへ、ようやく電話を切った工藤が口を挟んだ。
「夜分に大変失礼しました。いや、これにはわけがありまして。ここにいる彼は名前も素性も話してはくれないし、たまたまここに出入りしていたのを見たので、ここに来たらいるのではと伺った次第です」
「ほう? 俺はここの責任者の工藤だが、それで、こいつをどんな要件で追い回しているんですかな? T大の先生ともあろうものが」
「追い回すとは人聞きの悪い。私はただ、彼に弁明を求めたかっただけですよ。それで彼はここの所属タレントか何かですか?」
工藤はしばし間を置いて口を開く。
「タレントとはちょっとばかし、違うが………」
「悪いんやけど、速水さん」
二人の間に割って入ったのは三田村だ。
「あんたが、せっかくのデートをぶち壊されて? 恥かかされて怒っているのはわかるけど、今、桐島とつき合ってるのんは俺ですねん。高校の同級生で」
「え………」
今度はさすがに速水も一瞬言葉がなかった。
「なるほど、それは知らなかったとはいえ、すまなかった。桐島さんのことはそもそも俺の一方的な話だから仕方ないとしよう。だが、そこの彼に、彼女の前で俺を侮辱するような発言をしたことに対する弁明をしてもらうのとは別の話だ」
この男が皮肉屋で性格は曲がりくねっていそうな気がすると思ったのは確かだが、執念深くて立ち直りは早いというのもつけくわえておこうなどと思いながら、千雪は立ち上がる。
「あんた都合よう自分の言うたことは覚えてへんらしいな。俺はちょっとしたお返しをしただけやし? 目ぇ剥いて俺を追い掛け回すようなことやないんちがう? ほんま、京助のダチだけのことはあるわ」
苦々しい表情を浮かべる速水を見て、三田村がハハハと笑う。
「こいつに何言うたか知らんけど、こいつに睨まれたら恐ろしことになりまっせ? 関わり合わん方がええ思いますけど?」
「俺がまるで極悪非道みたいなこと言いなや。工藤さんやあるまいし」
ムッとした千雪は三田村に抗議する。
「おいおい、こっちにとばっちりをよこすなよ。先生、京助のオトモダチだって?」
軽く千雪の憎まれ口をたしなめて、ことの成り行きを面白そうに眺めていた工藤がニヤリと笑う。
どうやらここにいる者みんなが千雪のシンパで、自分にはここから先へ一歩も踏み込めないようだと、速水は悟る。
それにしても一体どういうつながりなんだ?
この男が桐島女史と付き合っているということは、こいつと桐島さんはだったら元々知り合いなわけか?
「まあ、速水さん。何があったか知らないが、今日のところは帰ってくれ。オフィスもそろそろ閉めるんでね」
ニヤニヤしていた工藤も、今度は鋭い眼差しを速水に向けた。
「それは失礼した……」
もうここは引き下がるしかないだろう。
千雪は知らん顔を決め込んでいる。
「三田村さん、今、おいくつ?」
「二十三です」
「やっぱり二歳もおばあちゃんだわ」
「歳とか女優さんには関係ないと思います」
フフッと笑う万里子に、三田村は鼻息も荒く断言する。
「テレビのデビュー作の『はじめの一歩』からずっと観てました」
「やだ、恥ずかしい、そんな古い話!」
恥ずかしいと言いながら、万里子も熱心なファンに満更でもないようすで、二人はしばし万里子の出演したドラマや映画の話で盛り上がった。
「ただ今戻りました」
そこへ弁当やデザートなどコンビニで調達したらしい、マネージャーの菊池が戻ってきた。
「あ、小林先生、お世話様です」
菊池は千雪に気づいて声をかけた。
「こちらこそ。え、食事まだやったんですか?」
「ええ、万里子さん、あんまり外食とかの気分じゃないということで。ちょっとここのところいろいろ騒がれてましたから、静かにオフィスにいるのがいいとおっしゃって」
「こうみえて意外と繊細なのよ」
フフフと笑う万里子に、三田村が慌てた。
「うっわ、すみません、俺、何も知らんと騒いでしもて」
「あら、いいの。楽しかったわ、三田村さん、小林先生も何か召し上がる?」
「これ見よがしに先生はやめてんか。それより、急にお邪魔してもて、そろそろ帰るで、三田村」
そう言って千雪が立ち上がりかけた時、オフィスのドアが開いた。
何気なく顔を上げた千雪は、入ってきた予期せぬ人物に驚いた。
「失礼ですが、どちら様ですか?」
即座に菊池が男の前に立った。
「用があるのはそこにいる、そいつにだ」
明らかに男が千雪を睨みつけていると分かり、今度は三田村が千雪の前に立ちはだかった。
「あんた、不躾に失礼やろ? 人のオフィスにいきなりおしかけて、まず名前を名乗るのが礼儀言うもんや」
「速水克也。今、T大の心理学研究室にいる」
それを聞くと、「ああ、速水ってあんたか」と三田村が呟いた。
千雪はよもやこんなところまで速水が現れると思っていなかったので、まずいことにならなければいいがと眉を顰める。
速水は三田村の呟きを聞き逃さなかった。
「ほう? 今度は別の男か? 名前を名乗るのが礼儀というなら、お前、いい加減名前を名乗ってくれてもいいんじゃないか? 人のデートを思いきりぶち壊して、俺に大恥をかかせてくれたんだ、それで気がすんだわけか?」
万里子も菊池も工藤が千雪のことを社外秘だと念を押したこともあってか、傍観を決め込んでいる。
「人のオフィスまで乗り込んで、一体何の騒ぎだ?」
何やら不穏な空気が漂い始めたところへ、ようやく電話を切った工藤が口を挟んだ。
「夜分に大変失礼しました。いや、これにはわけがありまして。ここにいる彼は名前も素性も話してはくれないし、たまたまここに出入りしていたのを見たので、ここに来たらいるのではと伺った次第です」
「ほう? 俺はここの責任者の工藤だが、それで、こいつをどんな要件で追い回しているんですかな? T大の先生ともあろうものが」
「追い回すとは人聞きの悪い。私はただ、彼に弁明を求めたかっただけですよ。それで彼はここの所属タレントか何かですか?」
工藤はしばし間を置いて口を開く。
「タレントとはちょっとばかし、違うが………」
「悪いんやけど、速水さん」
二人の間に割って入ったのは三田村だ。
「あんたが、せっかくのデートをぶち壊されて? 恥かかされて怒っているのはわかるけど、今、桐島とつき合ってるのんは俺ですねん。高校の同級生で」
「え………」
今度はさすがに速水も一瞬言葉がなかった。
「なるほど、それは知らなかったとはいえ、すまなかった。桐島さんのことはそもそも俺の一方的な話だから仕方ないとしよう。だが、そこの彼に、彼女の前で俺を侮辱するような発言をしたことに対する弁明をしてもらうのとは別の話だ」
この男が皮肉屋で性格は曲がりくねっていそうな気がすると思ったのは確かだが、執念深くて立ち直りは早いというのもつけくわえておこうなどと思いながら、千雪は立ち上がる。
「あんた都合よう自分の言うたことは覚えてへんらしいな。俺はちょっとしたお返しをしただけやし? 目ぇ剥いて俺を追い掛け回すようなことやないんちがう? ほんま、京助のダチだけのことはあるわ」
苦々しい表情を浮かべる速水を見て、三田村がハハハと笑う。
「こいつに何言うたか知らんけど、こいつに睨まれたら恐ろしことになりまっせ? 関わり合わん方がええ思いますけど?」
「俺がまるで極悪非道みたいなこと言いなや。工藤さんやあるまいし」
ムッとした千雪は三田村に抗議する。
「おいおい、こっちにとばっちりをよこすなよ。先生、京助のオトモダチだって?」
軽く千雪の憎まれ口をたしなめて、ことの成り行きを面白そうに眺めていた工藤がニヤリと笑う。
どうやらここにいる者みんなが千雪のシンパで、自分にはここから先へ一歩も踏み込めないようだと、速水は悟る。
それにしても一体どういうつながりなんだ?
この男が桐島女史と付き合っているということは、こいつと桐島さんはだったら元々知り合いなわけか?
「まあ、速水さん。何があったか知らないが、今日のところは帰ってくれ。オフィスもそろそろ閉めるんでね」
ニヤニヤしていた工藤も、今度は鋭い眼差しを速水に向けた。
「それは失礼した……」
もうここは引き下がるしかないだろう。
千雪は知らん顔を決め込んでいる。
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