真夜中の恋人

chatetlune

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真夜中の恋人 28

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 こんなところで京助をたらし込んだ云々など京助のプライバシーにも関わってくるようなことを、俺が口にするわけにはいかないだろうと、わかっているのだ。
 どこまでも姑息なガキだ。
 速水は千雪を睨み付けた。
 確かにそんじょそこいらにはいない美形だが。
 初めて会った時は思わず息を呑んだ。
 女でなくてもこいつを手に入れたいと思うやつがいても不思議ではない。
 京助がたらし込まれたのも頷ける。
 口を開かなければな。
 フン、おそらくこいつは売出し予定の大事な秘蔵っ子というところか。
 それにしても何か引っかかる。
 この男が工藤、つまり例の映画のプロデューサーというわけだ。
 実は佐久間にちょい聞きしただけでヤクザなプロデューサー呼ばわりしたことを千雪のみならず文子にまで非難され、速水は人を使って工藤のことやこの会社のことも調べさせたのだ。
 結果、確かに工藤は広域暴力団トップの血縁にあたるものの、母親まで遡って縁を切っているし、双方の行き来は全くない、工藤は横浜の資産家だった曽祖父の遺産を相続してこの会社を興したという。
 認めたくはないが、現時点では自分の敗北を認めざるを得ない。
「今日のところはひきあげます。お騒がせしました」
 それを聞いて、ええ加減、帰れやと心の中で文句を言っていた千雪は少しほっとした。
 千雪を一瞥し、踵を返して速水が開けようとしたドアが、新たな訪問者によって開いたのはちょうどその時だ。
「夜分に申し訳ない、あ、千雪くん、いたいた!」
 傍を通り抜けてあたふたとオフィスに走りこんだその男に、速水は見覚えがあって振り返る。
 ………千雪くん?
 速水は聞き流せない名前に訝し気な顔になる。
「携帯は切ってるし、家にもいないし、ひょっとしてこっちにいるかと電話したらいるっていわれたから。工藤さん、すみません、ちょっと千雪くんを借りたいんです。緊急で!」
 ガタイの大きさに似合わない、甘めのマスクが半泣き状態で、渋谷が千雪に駆け寄った。
「あ、さっきの電話の方?」
 万里子が渋谷に尋ねた。
 渋谷はいきなり有名女優に声を掛けられて一瞬戸惑う。
「たまには捜査一課だけで事件解決してみたらどうだ? あ? 渋谷」
「皮肉らないでくださいよ、工藤さん。上は頭の固いやつらばっかで、だからいっそ、千雪くんにうちに入ってくれたらって言ってるんですけどね」
 思い切り千雪を凝視する速水と千雪はつい目が合ってしまう。
「何で、こういう展開になるんや」
 誰にとはなく、ボソリと千雪は毒づいた。
「千雪くんに言われたように、畑中検事に頼み込んだら起訴を踏みとどまってくれて、再捜査の猶予をもらったんだが、明日が拘留期限で、明日までに何も出なければ検事にも起訴すると言われてて」
 ひそひそと話しているつもりのようだが、興奮しているせいか渋谷の声は幾分声高になっている。
「何や、千雪、検事になるんか?」
 速水にも千雪だとバレたらしいと見ると、三田村が能天気にも茶々を入れる。
「なるか、あんな堅苦しいもん」
「すみません、それで」
 さすがに声が大きかったかと恐縮した渋谷は囁くように言った。
「被害者の布団の裏側にも血痕があったことが気になると言ってましたよね? ひょっとしてそこに何かがあって、それを被疑者が盗んだんじゃないかって。それについていろいろ聞き込みをしたんですが……」
「とにかく出まひょか」
 千雪は渋谷を促して、オフィスを出て行く。
「ほな、俺も、この辺で、お騒がせしました」
 三田村はオフィスの面々ににっこり笑ってから、ドアの傍に立っている速水に声をかけた。
「帰らはるんやないんですか? 速水さん」
 しばし呆然と、自分の傍を通って外に出て行った千雪を見送った速水は、ようやく我に返ったように三田村を見た。
 中にいた面々に会釈をすると、速水は三田村に続いてオフィスを出た。
「一体全体、どういうことだ………つまり彼は……」
 自然と肩を並べるように歩きながら、速水は言葉を搾り出した。
「ああ、何か、千雪のやつコスプレしてるんやて? 俺、最近日本に戻ってきたばっかでまだ見てないんです。近々、大学のぞきにいってみよ思て」
 つまりこの三田村と小林千雪と桐島は高校の同級生で、だから小林千雪は桐島と自分が会っていることを知りえたのだ、速水はとりあえずそれは理解した。
 オフィスの面々はどうやらあれが小林千雪と知っていた、あの刑事もだ、それも理解した。
「……何故、彼はあんなナリを……?」
「ああ」
 速水の疑問に、三田村が苦笑した。
「何せ、あの容姿ですやろ、目立つやんか。高校ん時も女にもてるの、俺と競ってたくらいで」
 三田村は嘯いた。
「アイドルまがいによその学校の女にまで追い掛け回されよったりして、懲りたんやないですか? 弁慶が離れてしもたこともあるしな」
 三田村は軽く説明した。
「弁慶?」
 速水は眉を寄せて聞き返す。
「ああ、ガキの頃からずっと千雪のガードしてたみたいなやつがいて、大学進学で離れよったから、千雪も苦慮の末の策やった思いますよ」
「なるほど……」
 まるで憑き物が落ちたように、速水は頭の中が冷静になっていくのを感じていた。
「追っかけまわすの、女だけやないし。ま、俺ら、結束固いですし、結構みんな千雪のこと好きやから、弁慶おらんでも、下手に千雪に何かしようもんなら痛い目みはりますよ?」
 茶化すように言いながら、三田村の目は笑っていなかった。
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