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真夜中の恋人 33
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「なあ」
急に三田村の顔が千雪の前でアップになっている。
「ここでお前にキスしたら、さっきの女の子ら、どない反応するやろな?」
今にも唇が触れそうになっているのに千雪は眉を顰め、その肩を掴んで押し戻す。
「俺で遊ぶなや!」
「ちぇ、チャンスやったのに」
ニタニタ笑う三田村を思い切り睨みつけて、もう一度、アホ、と言い放つ。
「おい、お前、何やってる!」
そこへドカドカとやってきて仁王立ちになったのは、京助だった。
二人に気づいて、今のやりとりを見た途端、血相を変えてやってきたのだ。
「京助……。ああ、こいつ、高校の同級生の三田村や。昨日、久しぶりに会うて」
京助に鬼の形相で見下ろされた三田村は、徐に立ち上がった。
「ああ、お噂は。つい最近ドイツから帰国したばかりで、京都での話、聞きました。三田村と言います」
「綾小路京助、法医学教室にいてる、先輩なんや」
まだ警戒を解こうとしない京助を千雪はとりあえず三田村に紹介する。
「千雪がえろうお世話になっとるみたいですね」
三田村は明らかに牽制するような眼差しを京助に向けた。
桐島から、京助の話は聞いていた。
気になったのは、すごく親しげだったという、そこのところだ。
ここまでやってきたのは、その京助にも会ってみたいと思ったからだ。
いったい、どう、親しいのだろう、と。
「フン、こいつは世話のしがいがあるからな」
京助は三田村の牽制を鼻で笑って言い返した。
「おい、夕べ、速水のやつに聞いた。これで何も隠すことはないってわけだ」
ボソリと京助が言った。
「今夜、部屋に行くからな」
京助は千雪の肩にぽんと手を置くと、少し離れたテーブルにいる速水や文子、それに牧村のところへ戻っていった。
速水の自分に向けられた視線は感じていたが、今日は絡んでくる気はないらしいのはありがたかった。
「千雪、あいつ、何、威張ってんね」
京助の言葉に三田村は少しムッとしていた。
「お前ら、どういうおつきあいしてんのや?」
真っ向から問われた千雪は一呼吸置いて三田村を見返した。
「どういうも、ないで? ほな、俺、講義あるから」
ごまかしは効かない、三田村に気づかれたと千雪は思ったが、三田村なら今さらどうでもいい。
千雪は空の紙コップを持って立ち上がる。
「来週末、桐島のリサイタル、行くやろ? またチケット持ってくるわ」
三田村は千雪の背中に向かって言った。
「ああ、わかった」
人に知られて、後ろめたいなんて、好かん。
京助はストレートに感情をぶつけてくる。
でも俺がいてへんかったら、京助は文子やもっと他の女性に愛情を向けてたん違うやろか。
何か、俺、ひょっとして、京助にとっては疫病神と違うか?
ああ、ほんまに、こういう感情のモヤモヤが嫌なんや。
千雪はひとり、どこにも持って行き場のない感情をもてあました。
ようやくレポートにも目処がついたので、部屋に帰ってベッドに横になっていたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
千雪は電話の音で目が覚めた。
「………はい」
しつこく鳴り響く電話のコール音に、やっと起き上がった千雪はひどく不機嫌な声を出した。
「千雪くんのお陰で、真犯人逮捕した」
いつもに増して大きな声は渋谷だった。
事件は急展開し、今朝ほどの千雪の下手な小芝居に真犯人が食いついて、逮捕に至ったという。
「田辺の婚約者に張り付いてたらこの女、何かを例の証拠品が見つかったすぐ近くに捨てたんで、問い詰めたら簡単に全て吐きましたよ」
女が持っていたのは血痕がついた巾着で、老女のものだった。
実は田辺が老女のところに通う以前、彼女が老女の家に行っていた。
だが、彼女がたまたまその巾着を見つけたので、老女は他の介護士に代えさせたというのだ。
彼女はその巾着におよそ三百万が入っていたのを婚約者の田辺に話した。
田辺は派遣センターで老女の担当に志願し、それを奪う機会を狙っていた。
だが、いざそれを盗み出したと思った途端、眠っていたと思った老女が目を覚まし、大きな声を上げ始めたので、慌てた田辺はキッチンから包丁を持ってきて老女を刺し、孫の真山が忘れて行ったらしいジャケットがあったので、凶器の包丁をそれに包んで公園の植え込みに捨てた。
それが真相だった。
いかにも場当たり的な犯行だったにもかかわらず、たまたまそこにあった真山のジャケットが使われたことに、警察はミスリードされた。
渋谷のように疑いをもって動くものがいなければ、危うく冤罪をつくるところだった。
人間がやることだからミスもあるだろうけど、やはり捜査する側は気を引き締めてかからないと、と渋谷は言って切った。
冤罪にならなかったことに、少しばかり千雪もほっとした。
お陰でしっかり目が覚めてしまい、今度は空腹なのを思い出した。
「何か買ってこよ」
財布を持って玄関に向かおうとした時、チャイムが鳴った。
急に三田村の顔が千雪の前でアップになっている。
「ここでお前にキスしたら、さっきの女の子ら、どない反応するやろな?」
今にも唇が触れそうになっているのに千雪は眉を顰め、その肩を掴んで押し戻す。
「俺で遊ぶなや!」
「ちぇ、チャンスやったのに」
ニタニタ笑う三田村を思い切り睨みつけて、もう一度、アホ、と言い放つ。
「おい、お前、何やってる!」
そこへドカドカとやってきて仁王立ちになったのは、京助だった。
二人に気づいて、今のやりとりを見た途端、血相を変えてやってきたのだ。
「京助……。ああ、こいつ、高校の同級生の三田村や。昨日、久しぶりに会うて」
京助に鬼の形相で見下ろされた三田村は、徐に立ち上がった。
「ああ、お噂は。つい最近ドイツから帰国したばかりで、京都での話、聞きました。三田村と言います」
「綾小路京助、法医学教室にいてる、先輩なんや」
まだ警戒を解こうとしない京助を千雪はとりあえず三田村に紹介する。
「千雪がえろうお世話になっとるみたいですね」
三田村は明らかに牽制するような眼差しを京助に向けた。
桐島から、京助の話は聞いていた。
気になったのは、すごく親しげだったという、そこのところだ。
ここまでやってきたのは、その京助にも会ってみたいと思ったからだ。
いったい、どう、親しいのだろう、と。
「フン、こいつは世話のしがいがあるからな」
京助は三田村の牽制を鼻で笑って言い返した。
「おい、夕べ、速水のやつに聞いた。これで何も隠すことはないってわけだ」
ボソリと京助が言った。
「今夜、部屋に行くからな」
京助は千雪の肩にぽんと手を置くと、少し離れたテーブルにいる速水や文子、それに牧村のところへ戻っていった。
速水の自分に向けられた視線は感じていたが、今日は絡んでくる気はないらしいのはありがたかった。
「千雪、あいつ、何、威張ってんね」
京助の言葉に三田村は少しムッとしていた。
「お前ら、どういうおつきあいしてんのや?」
真っ向から問われた千雪は一呼吸置いて三田村を見返した。
「どういうも、ないで? ほな、俺、講義あるから」
ごまかしは効かない、三田村に気づかれたと千雪は思ったが、三田村なら今さらどうでもいい。
千雪は空の紙コップを持って立ち上がる。
「来週末、桐島のリサイタル、行くやろ? またチケット持ってくるわ」
三田村は千雪の背中に向かって言った。
「ああ、わかった」
人に知られて、後ろめたいなんて、好かん。
京助はストレートに感情をぶつけてくる。
でも俺がいてへんかったら、京助は文子やもっと他の女性に愛情を向けてたん違うやろか。
何か、俺、ひょっとして、京助にとっては疫病神と違うか?
ああ、ほんまに、こういう感情のモヤモヤが嫌なんや。
千雪はひとり、どこにも持って行き場のない感情をもてあました。
ようやくレポートにも目処がついたので、部屋に帰ってベッドに横になっていたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。
千雪は電話の音で目が覚めた。
「………はい」
しつこく鳴り響く電話のコール音に、やっと起き上がった千雪はひどく不機嫌な声を出した。
「千雪くんのお陰で、真犯人逮捕した」
いつもに増して大きな声は渋谷だった。
事件は急展開し、今朝ほどの千雪の下手な小芝居に真犯人が食いついて、逮捕に至ったという。
「田辺の婚約者に張り付いてたらこの女、何かを例の証拠品が見つかったすぐ近くに捨てたんで、問い詰めたら簡単に全て吐きましたよ」
女が持っていたのは血痕がついた巾着で、老女のものだった。
実は田辺が老女のところに通う以前、彼女が老女の家に行っていた。
だが、彼女がたまたまその巾着を見つけたので、老女は他の介護士に代えさせたというのだ。
彼女はその巾着におよそ三百万が入っていたのを婚約者の田辺に話した。
田辺は派遣センターで老女の担当に志願し、それを奪う機会を狙っていた。
だが、いざそれを盗み出したと思った途端、眠っていたと思った老女が目を覚まし、大きな声を上げ始めたので、慌てた田辺はキッチンから包丁を持ってきて老女を刺し、孫の真山が忘れて行ったらしいジャケットがあったので、凶器の包丁をそれに包んで公園の植え込みに捨てた。
それが真相だった。
いかにも場当たり的な犯行だったにもかかわらず、たまたまそこにあった真山のジャケットが使われたことに、警察はミスリードされた。
渋谷のように疑いをもって動くものがいなければ、危うく冤罪をつくるところだった。
人間がやることだからミスもあるだろうけど、やはり捜査する側は気を引き締めてかからないと、と渋谷は言って切った。
冤罪にならなかったことに、少しばかり千雪もほっとした。
お陰でしっかり目が覚めてしまい、今度は空腹なのを思い出した。
「何か買ってこよ」
財布を持って玄関に向かおうとした時、チャイムが鳴った。
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