何となくクリスマス

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何となくクリスマス 1

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 師走に入ると、広瀬良太は今年も慌ただしくオフィスを出たり入ったりしていた。
 ここ青山プロダクションの主な事業内容はテレビ番組、映画等の企画制作及びタレントの育成、プロモーションである。
 社長の工藤高広は、在京キー局時代鬼の工藤と異名を取った敏腕プロデューサーだ。
 来春放映予定で秋から撮影に入っているドラマ『検事六条渉―ひとりぼっちの烏』は、俳優陣のスケジュールに合わせながらなので歩みはゆっくりだが、重厚な作りになっていて、制作陣も気合が入っているし、主演の山内ひとみが感情を抑えてセリフも物静かな表現が逆に凄みを感じさせると、良太は改めて大御所と呼ばれるひとみの実力を目の当たりにしている。
 世の中は戦争があちこちで勃発して、どこかの独裁者がやめようとしないから被害が増大し経済も落ち着かないし、おかげで物価は上がり、円安が続き、政府は政府でぐだぐだで、どちらを向いてもひどいことばかりだ。
 だが、人間、仕事をしないと生きては行けないわけで、つい先週末の金曜日には、青山プロダクション毎年恒例の業者を招待しての忘年会が行われた。
 今年は青山プロダクション企画制作でGWに封切られた映画『大いなる旅人-京都』が非常に好評でアカデミー賞候補の呼び声もある。
 実力派と言われながらこれまで賞とは無縁だった主演の青山プロダクション所属俳優志村嘉人も話題をさらったし、特に安倍晴明の生まれ変わりを演じた能楽師檜山匠が大きくクローズアップされた。
 だが、そうした華々しい話題も既に過去だとばかり、工藤は次の映画やドラマへと意識はとっくに移行している。
「え、コラボですか?」
 再来年春封切を予定しているのは人気推理作家小林千雪原作の『検事六条渉』と老弁護士シリーズのコラボ作品だという。
 たまたま千雪が六条渉シリーズに老弁護士シリーズの御園生弁護士と海棠弁護士を思い付きで登場させてみた原作を、映画化することになったのだ。
「何だって千雪さん、思い付きだけでそんな何人もメインキャストを出すかな」
 ついつい文句も言いたくなるというものだ。
 主役級の俳優が何人もということになると、いろんな意味で良太にとっては大変で面倒なのだ。
 しかも、ゲストのキャスティングが難航している。
 そんなこんなで頭を悩ませていた良太に、最近またぞろ降ってわいた難題を、とりあえず保留にしている。
 ただでさえ忙しい仕事の合間を縫って、四月から、アメリカの配信会社ネットプライムでのニューヨーク研修に参加することになったため、良太は何度か東京支社にミーティングに出向いているのだ。
 そこへもってきて、「明日、札幌へ飛んで、ロケに使う屋敷を見て来い」なんて、急に、今日になってこの横暴社長は良太に命令してきたのだ。
「明日? 俺、午後一でパワスポ入ってますから夕方じゃないと無理なんですけど」
「じゃあ、夕方行けばいいだろう。俺は明日名古屋だから行けるかどうかわからない」
「夕方ってことは泊まりですよね? 必然的に。明後日クリスマスイブじゃないですか」
「クリスマスイブが何の関係があるんだ?」
 これだよ、と良太は昭和なオヤジを上目遣いに見やる。
 ロマンチックな展開なんか毛ほども期待しちゃいないけど、たまにはさ、ご飯食べに行くくらいさあ。
 とまあ、散々心の中で文句をぶちまけるものの、本音は工藤に刷り込み状態の心を持て余している良太なのだ。
 この分だとイブはそのロケに使うという屋敷を見に行って、札幌から帰ってくるともう既に一日終わりました、ってな展開になるだけだよな。
 良太はこっそりため息を吐く。
「明後日はまた藤田から呼び出しを食らっている」
 げ、フジタ自動車会長の藤田は工藤を気に入っているのはいいが、必ず年末、呼びつけて飲み会だ。
 まあ、これじゃ工藤もクリスマスどころじゃないよな。
 そういえば、千雪さんや京助さんもクリスマスなんてのは毎年ないに等しいって言ってたな。
 以前難解な事件を解決に導いて以来、捜査一課の刑事から何かというと頼られるリアル名探偵小林千雪と法学部准教授である綾小路京助は、ダサいオヤジとイケメンの凸凹コンビとして世間からも注目されている。
 いつもながら千雪さんは原稿の締め切りに追われ、京助さんは年末になるとなぜか増える司法解剖でモルグに籠るのが常だという話だ。
 イブにモルグに籠ってご遺体とご対面、なんてのよりは札幌のロケハンのがまだマシ?
「俺もじゃあ、明後日の晩、プラグインのクリパ、間に合えば行ってきますから」
 そう言いながら面白くなさげな良太の表情を見て、「いいじゃないの、このところ良太ちゃんも忙しいばかりだから、プラグインのクリスマスパーティ、楽しんできたら?」とこのオフィスの要ともいえる鈴木さんが笑う。
「そうっすね。間に合うようにエア、取れればいいけど」
 良太は早速、飛行機のチケットを確保するべくパソコンに向かう。
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