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何となくクリスマス 2
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大体今頃から、この時期、取れるのかよ?
問題はそこじゃんね。
心の中でぶつぶつ言いながら良太は航空会社のサイトにアクセスする。
「おい、チケットは紫紀さんが用意してくれている」
ややあって一件電話を終えた工藤が言った。
「え? なんで紫紀さんが?」
怪訝な顔で良太は工藤を見た。
「以前行った綾小路の山小屋を千雪が横溝風な舞台にして書いたんだと。千雪から使っていいかと打診があったと紫紀さんから連絡があった」
「だったら別にわざわざ行かなくたって、そこ使わせてもらえばいいだけじゃんね」
ボソボソと良太は言った。
「ああ? 確認しないで使えるわけないだろう!」
「はいはい。だって、紫紀さんちの管理なら万全じゃないのかよ」
工藤の怒号にも小声で良太は言い返す。
確かに、管理が万全だとはいえ、映画やドラマで使うとなると、いろいろと見ておく必要があることくらい、良太も身に染みてわかっているのだが。
「チケット、じゃあ、往復用意してくれてるってことですか?」
「帰りは新千歳十八時五十五分発、羽田二十時四十分だ」
「はあ、わかりました」
まあ、ちょっとはプラグイン、覗けるか。
もうずっと、仕事漬けの毎日だから、鈴木さんじゃなくてもちょっとくらい楽しみがあってもいいよな、クリスマスくらい。
良太はそんなことを思いつつ、工藤ともずっとここんとこご飯も食べてない、となんとなく面白くないのだった。
とはいえ、毎年、工藤の行きつけのバー、『オールドマン』にはオーナーの前田に、工藤へのお歳暮として、ロンサカパXOを入れてもらっている。
クリスマスプレゼントとしないところが味噌であるが。
ちなみに工藤の誕生月の八月には、工藤へのお中元としてブランデーのボトルを入れてもらった。
ここ数年、良太の工藤への意思表示はその程度だ。
まあ、バレンタインデーには、工藤に届くたくさんのプレゼントのどさくさに紛れて、何か小物とかを母親が送ってくれたブランデーケーキなどと一緒に渡したりしているが。
にしても、いくら映画のスポンサーで千雪さんの従姉の夫だからって、飛行機のチケット代、紫紀さんのポケットマネーなんて普通ないって。
けど、そんなもの紫紀さんがこっちに請求するわけないし。
不思議と、工藤って藤田会長もそうだけど、紫紀さんにも気に入られてるし。
考えてみるとおかしな男だよな、工藤って。
まあ、冬の札幌、一人で散策ってのもいっか。
などと勝手に思い巡らせていた良太に、「ああ、山小屋ってのは札幌じゃなくて、ニセコだからな」などと付け加えて、工藤は、出かけてくるとオフィスを出て行った。
「は? ニセコ~?! って札幌から車で二時間じゃないっすか!」
良太が喚いた頃には既に工藤の姿はなかった。
翌日の午後に良太は、打ち合わせの後そのまま羽田に行けるようにと、キャリーケースに着替えや防水の雪用ワークブーツなどを入れ、猫の世話をまた鈴木さんにお願いして会社を出てきた。
「何もニセコの山小屋なんか使わなくても、東京にあるいつもドラマで使うような怪しげな建物にしてくれたらいいのに」
確かに紫紀のポケットマネーから出ているに違いない、JALビジネスクラスのゆったりした席で、良太はブツブツとまだ千雪への文句を口にしながら、良太は映画化されるという原作を読み始めた。
読みだすと面白くて、一時間半ほどのフライトはあっという間に過ぎ去り、良太は小雪のチラつく新千歳空港に降り立った。
タクシー乗り場に向かおうとした良太は、「あ、良太さん、お疲れ様です~」という聞き覚えのある声に振り返った。
「公一さん、え、まさか、迎えに来てくれたとか?」
大学を卒業し、綾小路の家で父親である執事の藤原の見習いをしている公一は、最近、綾小路家近くのマンションに独り暮らしを始めた陽気な若者だ。
綾小路で何かのイベントがある時は駆り出されるし、今年のスキー合宿も一緒に行ったので良太も親しくなった。
「ええ、紫紀さんから連絡があって、良太さんと工藤さんをニセコの山小屋に案内するようにって言われてて。あれ? 一人?」
公一は良太のキャリーケースを持ってくれた。
良太はリュックを背負いなおし、「工藤は名古屋だから、俺一人」と答える。
「何だ、そっか」
「悪いな、こっちの都合でこんなとこまで」
「いやいや、二、三日スキーしてきていいって言われてるし。紫紀さん気前いいから」
「そりゃよかった」
最近、ロンドンに行ったことや年明けに予定されている綾小路家主催の初釜の準備のことなど、公一は面白おかしく良太に聞かせてくれるので、ニセコまでの道のりも楽しい気分で過ごせた。
ちなみに綾小路で紫紀の妻小夜子主宰の初釜には工藤も良太ももちろん招待を受けている。
その前に年明け早々、小夜子の実家である呉服問屋大和屋のイベントが開催され、そこでも茶の湯が振舞われるのだが、そっちの方がどちらかというと肩は凝らない足も痺れないから楽しみでもある。
「お疲れ様でした~」
公一に労われて車を降りた良太は、『トンネルを抜けると雪国だった』なる、最近千雪に勧められて読んだ川端康成の『雪国』の冒頭が頭に浮かんだ。
問題はそこじゃんね。
心の中でぶつぶつ言いながら良太は航空会社のサイトにアクセスする。
「おい、チケットは紫紀さんが用意してくれている」
ややあって一件電話を終えた工藤が言った。
「え? なんで紫紀さんが?」
怪訝な顔で良太は工藤を見た。
「以前行った綾小路の山小屋を千雪が横溝風な舞台にして書いたんだと。千雪から使っていいかと打診があったと紫紀さんから連絡があった」
「だったら別にわざわざ行かなくたって、そこ使わせてもらえばいいだけじゃんね」
ボソボソと良太は言った。
「ああ? 確認しないで使えるわけないだろう!」
「はいはい。だって、紫紀さんちの管理なら万全じゃないのかよ」
工藤の怒号にも小声で良太は言い返す。
確かに、管理が万全だとはいえ、映画やドラマで使うとなると、いろいろと見ておく必要があることくらい、良太も身に染みてわかっているのだが。
「チケット、じゃあ、往復用意してくれてるってことですか?」
「帰りは新千歳十八時五十五分発、羽田二十時四十分だ」
「はあ、わかりました」
まあ、ちょっとはプラグイン、覗けるか。
もうずっと、仕事漬けの毎日だから、鈴木さんじゃなくてもちょっとくらい楽しみがあってもいいよな、クリスマスくらい。
良太はそんなことを思いつつ、工藤ともずっとここんとこご飯も食べてない、となんとなく面白くないのだった。
とはいえ、毎年、工藤の行きつけのバー、『オールドマン』にはオーナーの前田に、工藤へのお歳暮として、ロンサカパXOを入れてもらっている。
クリスマスプレゼントとしないところが味噌であるが。
ちなみに工藤の誕生月の八月には、工藤へのお中元としてブランデーのボトルを入れてもらった。
ここ数年、良太の工藤への意思表示はその程度だ。
まあ、バレンタインデーには、工藤に届くたくさんのプレゼントのどさくさに紛れて、何か小物とかを母親が送ってくれたブランデーケーキなどと一緒に渡したりしているが。
にしても、いくら映画のスポンサーで千雪さんの従姉の夫だからって、飛行機のチケット代、紫紀さんのポケットマネーなんて普通ないって。
けど、そんなもの紫紀さんがこっちに請求するわけないし。
不思議と、工藤って藤田会長もそうだけど、紫紀さんにも気に入られてるし。
考えてみるとおかしな男だよな、工藤って。
まあ、冬の札幌、一人で散策ってのもいっか。
などと勝手に思い巡らせていた良太に、「ああ、山小屋ってのは札幌じゃなくて、ニセコだからな」などと付け加えて、工藤は、出かけてくるとオフィスを出て行った。
「は? ニセコ~?! って札幌から車で二時間じゃないっすか!」
良太が喚いた頃には既に工藤の姿はなかった。
翌日の午後に良太は、打ち合わせの後そのまま羽田に行けるようにと、キャリーケースに着替えや防水の雪用ワークブーツなどを入れ、猫の世話をまた鈴木さんにお願いして会社を出てきた。
「何もニセコの山小屋なんか使わなくても、東京にあるいつもドラマで使うような怪しげな建物にしてくれたらいいのに」
確かに紫紀のポケットマネーから出ているに違いない、JALビジネスクラスのゆったりした席で、良太はブツブツとまだ千雪への文句を口にしながら、良太は映画化されるという原作を読み始めた。
読みだすと面白くて、一時間半ほどのフライトはあっという間に過ぎ去り、良太は小雪のチラつく新千歳空港に降り立った。
タクシー乗り場に向かおうとした良太は、「あ、良太さん、お疲れ様です~」という聞き覚えのある声に振り返った。
「公一さん、え、まさか、迎えに来てくれたとか?」
大学を卒業し、綾小路の家で父親である執事の藤原の見習いをしている公一は、最近、綾小路家近くのマンションに独り暮らしを始めた陽気な若者だ。
綾小路で何かのイベントがある時は駆り出されるし、今年のスキー合宿も一緒に行ったので良太も親しくなった。
「ええ、紫紀さんから連絡があって、良太さんと工藤さんをニセコの山小屋に案内するようにって言われてて。あれ? 一人?」
公一は良太のキャリーケースを持ってくれた。
良太はリュックを背負いなおし、「工藤は名古屋だから、俺一人」と答える。
「何だ、そっか」
「悪いな、こっちの都合でこんなとこまで」
「いやいや、二、三日スキーしてきていいって言われてるし。紫紀さん気前いいから」
「そりゃよかった」
最近、ロンドンに行ったことや年明けに予定されている綾小路家主催の初釜の準備のことなど、公一は面白おかしく良太に聞かせてくれるので、ニセコまでの道のりも楽しい気分で過ごせた。
ちなみに綾小路で紫紀の妻小夜子主宰の初釜には工藤も良太ももちろん招待を受けている。
その前に年明け早々、小夜子の実家である呉服問屋大和屋のイベントが開催され、そこでも茶の湯が振舞われるのだが、そっちの方がどちらかというと肩は凝らない足も痺れないから楽しみでもある。
「お疲れ様でした~」
公一に労われて車を降りた良太は、『トンネルを抜けると雪国だった』なる、最近千雪に勧められて読んだ川端康成の『雪国』の冒頭が頭に浮かんだ。
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