異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第4章:魔法学園 入学準備編

第116話 『その日、怪物と接敵した』

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 私と姐さんの会話に、ソフィーも先輩もついていけていなかったが、私達は構わず続けた。
 リリちゃん? 彼女は飴玉を楽しそうに舐めてるわね。

「ではリン姐さん、私のステータスも見てみますか?」
「おや、良いのかい? ……いや、やめておこう。お前さんへの興味は尽きないが、まだその実力を測り切れていない。それに、こういった事は自分で調べてこその盗賊ギルドさ!」

 確かに、盗賊ギルドは所謂情報収集系の仕事を担当している。
 そのトップがその情報をタダで見せてもらうというのはプライドに反するんだろう。
 ……あれ? 私今、トップの強さをタダで見ちゃったんだけど。

「なら、どうして私には教えてくれたんです?」
「それはお前さんがあたいの職業を見事当てて見せたからさ。いやあ、この国にも『侍』を知る者が居たとはね。カッカッカ!」

 隠してる職業をバチ当てしたから教えてくれたのね。まあ『侍』や『忍者』は、和国専用の職業だからなぁ。王国の人が知ってるなんて、珍しいんだろう。

「それで? 今日はあたい達に何か頼み事があって来たんだろう?」
「あ、そうだったわね。ちょっと探して欲しい魔物や魔族がいて、盗賊ギルドにはそれらの位置を探って欲しいの」
「言ってみな」

 シラユキの作成に必要な物は以下の7つ。
 『覇龍の魔核』『ジュエリージェムジュース』『アラウルネの花びら』『天上の聖杯』『ヴラドブラッド』『シラユキの毛髪』『精霊の抜け殻』。

 この中で私でしか用意が出来そうにないものは『覇龍の魔核』と『精霊の抜け殻』。覇竜に関しては中位竜よりも格上だから、今は挑めない。『精霊の抜け殻』は精霊が進化するときに発生する。
 この先スピカが中位精霊から上位精霊に進化する時に得られると思う。

 次に『ジュエリージェムジュース』と『アラウルネの花びら』は、戦闘が発生するかどうかが未知数のもの。どちらも魔物素材ではあるが、前者はスライムの体液の為戦わずに得られるかもしれない。後者は対話が可能な種族のはず。私のCHRパワーで何とかなったりしないかな……?

 ちょっとアテがないのが『ヴラドブラッド』。これは吸血鬼の血塊だ。つまり心臓と言うか、彼らの魔力が凝縮した結晶ともいえる。
 これを得るにはずばり吸血鬼を討伐する必要があるのだが、どこにいるのかさっぱりわからない。

 そして生産スキルで作ることが出来る物が『天上の聖杯』だ。聖杯の主だった素材は『清められた聖水』と『聖鉄』、『光のインク』に『天使の羽根』だ。諸々の素材は割愛するが『聖鉄』の素材である『王鉄鉱』はピシャーチャの討伐により偶然入手した。
 他の素材はまぁ、学園ダンジョンや周辺のダンジョンとかで何とかなると思う。

「『ジュエリージェム』というスライムの発見情報、魔族『アラウルネ』の発見情報、それから吸血鬼の発見情報。これら3点、見つかり次第連絡して欲しいです。最終的に見つからなくても構いません、どこをどう探して見当たらなかったとだけでも報告してくれれば、私もその情報をもとに探しますので。また、見つかったとしても手出しは無用です。場所さえわかれば、討伐も交渉も私がしますので」

 リン姐さんは今の言葉を聞いて、驚くでも騒ぐでもなく、その情報を噛み締める様に押し黙っている。
 そして沈黙に我慢できなくなったのか、ソフィーが驚く様に問い詰める。

「シ、シラユキ! 吸血鬼なんてSランク級の化け物じゃない! そんなの探してどうしようって言うのよ」
「うん? ちょっとそいつらの血塊……簡単に言うと心臓が欲しくて」
「ひぇっ」
「そ、それも錬金術で使うの?」

 ソフィーが青ざめ、先輩も驚いた顔をしている。流石にグロかったかな?

「そうだけど……。あ、もしかして2人共魔物の解体とかした事ないの?」
「うっ、それは、その……」

 当たってた。

「まあダンジョンの敵は、素材を残してあとは消えちゃうもんね。でもダメよ、2人ともそんなんじゃ魔法は上手くならないわ」
「ええっ、ダンジョンの魔物じゃダメなの!?」
「ダメってわけじゃないけど、でも魔物の体が残らないと、自分の魔法が具体的にどんな結果を齎したのか、マジマジと見られないじゃない? 魔法がどんな効果を引き起こしたか知ることで、加減や調整も上手くなるし、その結果スキルの成長につながるわ。それは戦闘スキルも同じね。姐さんもそう思うでしょ?」

 考え事を終わらせ、話を聞いていた姐さんも感心した様に頷いた。

「ああ、お前さんの言う通りだ。敵を斬っても、ダンジョンの敵はすぐ消えちまう。切れ味を学ぶ機会がねえんだよなぁ。それでいて近頃の若いもんは、ダンジョンの敵を倒してさえいれば何でも出来る気になっていやがる。解体も出来てようやく一人前の冒険者だ。嬢ちゃん達も覚えときな」

 まあ解体をしなくて済む分楽ではあるんだけど、得られる物も偏るんだよね。ドロップする素材の品質は、討伐の仕方を問わず運次第で良いものも悪いものも出る。
 逆に外では、素材の質は討伐者の倒し方次第。まさに腕の見せ所となるわけで。綺麗に倒せば良い素材が手に入るし、滅多刺しにすれば素材も廃棄行きだ。

 そういう意味でも、学生が慣れるためにダンジョンに行くのは良いんだけど、そこで満足してたら成長出来ないってことね。

「外、かぁ……」
「解体ですか……」

 ソフィーも先輩も、尻込みしてるわね。もしかして……。

「2人共、外に出た事すらない……とか?」
「「……」」
「はは! そうさ、文字通りこの2人は箱入りなのさ。王都内なら自由に動けるんだが、親が過保護すぎるのも問題だね。この歳になっても一度も出る事なく来ちまったってわけさ」
「へー」

 まあ学園に入ったとしても、今後私はダンジョンだけにお世話になる事はないだろうし、それなりの頻度で冒険者ギルドは活用すると思う。そんな時はソフィーや先輩とか、連れて行ってあげるのも良いかもしれないわね。
 ……その時は公爵様に許可をもらう必要、あるかな?

「ま、それは兎も角だ。依頼の件、了解した。1つ確認なんだが『アラウルネ』という魔族の事なんだが、聞いたことが無い。すまないが『アルラウネ』の事ではないのか?」
「あー、『アルラウネ』の亜種なんだけど……。この際見つけてくれるならどちらでも良いわ。その後は私が直接交渉して探したりするから」
「あいよ。んじゃあ、依頼の希望者が来たら、陛下やアリシアに伝える様にするよ。受注者の面接も必要だろう?」
「ありがとう。それでこの件の報酬なんだけど、どうすれば良いかしら」
「報酬? それなら公爵様から前金をたんまり貰ってるから大丈夫さ。だからお前さんは気にせず……」

『ビー! ビー! ビー!』

 彼女の言葉を遮る様に、何かの機械音がけたたましく鳴り響いた。リン姐さんはすぐに執務用の机へと飛び付き、発信源である魔道具を起動させた。

「こちらリンネ」
『ザザザ……こちらチーム・カゲロウ。作戦は順調なり。第二と共に目標を確保せり』
「了解した。逃げ出した者はそいつで最後か?」

 何だろう、捕物でもしてるのかしら?

『はっ。魔物化した者も居ましたが、全て討伐済み。また、薬で眠らせた者は魔物化をしないようです。その際、禍々しい魔道具も同時に回収済み』
「それは回収班に任せる。引き続き、警戒を怠るな。奴らは未知の技術を用いている。油断して護送に失敗せぬよう、各員に伝達しな」
『はっ』

 魔物化って事は、アブタクデの同類と鬼ごっこをしていたのね。話の内容を聞く限り昨日からずっとしていたのかな。王都の膿を掃除するためとは言え、丸一日使って走り回るだなんてほんとご苦労様だわ。労ってあげるべきかしら。
 まぁ、ミカちゃんには、その言葉だけでも十分に効果は出ると思うけど。個人的には労ってあげたい。

「大変そうね」
「他人事の様に言ってるけど……いや、実際他人事なのか」
「そりゃね。私の手から離れた以上、いつまでも気にしたって仕方がないわよ」
「シラユキちゃん。今のお話って、あの人の関係者は全て捕まえたって事で良いのよね。これでもう、無関係の人たちが悲しい目に遭わずに済むのかしら……」
「ひとまずは解決したと思うわ。ただ、奴らを唆した元凶が、大人しくしているかが問題だけど」

 確か黒幕の魔族は、嘆き苦しむ人間達の魂を使って、魔王を復活させようと目論んでいるのよね。しかも、ただ絶望しただけの人間などではなく、人間の手で直接絶望させられた人達の魂でないとダメなんだとか。魔王って随分偏食家なのね。
 なんでそんな特殊な物でないといけないかは知らないけれど、長年かけて作った牧場を壊されて、彼らは大人しく指を咥えて見ていられるかしら?

『ザザザ……なんだアイツは!? 空を飛んで……』

 ほ?

「カゲロウ、どうした!」
『突如、空中に黒い翼の生えた男が現れました! 奴は一体……なっ! 総員戦闘準備! 奴はザザ、ザザザ!』
「カゲロウ! どうした、応答せよ!」
『ザザザザ』

 ……え? フラグ回収早すぎない??

「くっ、通信が切れた! 向こうで何かあったに違いない……」
「リンネさん、今のは……」
「フェリスお嬢さん、ちとばかし不味いことになった。状況は分からんが、すぐにでも現場への確認と、公爵様や陛下にも遣いを出さねば」
「それでしたら暗部の方がそばにいたはずです!」

 先輩が手を叩くと、天井裏に控えていた人が降りてきた。

「こちらに」
「助かる。では早速で悪いが」
「あー、ちょっと良いかしら」

 とりあえず待ったをかける。
 ソフィーは顔は引き締まっているけど、ただならぬ事態に緊張しているのがわかるわね。先輩もリン姐さんも、突然呼び止められて困惑しているみたいだ。
 ちなみに慌ただしくなる部屋の空気とは対照的に、私とリリちゃんはリラックスしたままだった。リリちゃん、落ち着いてるなぁ。良い子良い子。

「リン姐さん、現場の場所はどこ?」
「今はそんな事を」
「現場は、どこ?」

 少し『威圧』を込めて伝える。効果はあったみたいで、リン姐さんは渋々頷いた。

「ちっ……王都郊外、北東の平原だ」
「シラユキちゃん?」
「ちょっとシラユキ、そんな事聞いてどうするのよ」
「どうするって、決まってるじゃない。私が行って解決してくるのよ」

 魔人なんて、今の王国のレベルじゃ勝ち目無いでしょ。

「シラユキ、何が現れたのか分かるのか?」
「そりゃ奴らの元締めである魔人でしょ。空飛んでて羽も生えてるみたいだし」

 そう言いつつ、リン姐さんの背後にある窓を開け、身を乗り出す。
 ちょっとはしたないけど、急ぐんだし仕方がないわよね。

「お姉ちゃん、いってらっしゃいなの」
「うん、行ってきまーす。アリシアに宜しく言っておいて!」
「ちょ、シラユキ待っ……!」

 ソフィーの静止の声を待たず、そのままギルドの屋根へと駆け上がる。私ほどの身体能力があれば、多少の出っ張りさえあればスイスイと登れてしまう。

「えーっと。王城はあっちだから、北東の平原は王城を背にして……あっちね。うん、なんだか遠くで魔法が飛び交っているような、そんな気配を感じるわ」

 でも段々と、放たれる魔法の数が減っていってる気がする。
 多分使っているのは魔法使いの魔法ではなく、魔道具による一斉射撃かしら。無詠唱どころか詠唱破棄すら稀な世界では、あんな弾幕を張れる人はいないだろうし。
 魔道具に入っている魔力が枯渇したのか、それとも術者が倒れてしまったのか。どちらにせよ、悠長に眺めている時間はないわね。

「屋根を伝って走るのは、出来なくはないけれど踏ん張る事で踏み抜いたりしてしまうと怖いのよね。まだ、足回りの力加減の練習、出来ていないし」

 だから、移動ルートは1つだけ。

「飛んできゃ良いのよ」

 私は、身体に風の膜を纏わせた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ……強い。この男……いや、魔人か。
 噂では、魔人は武術も魔法も両方使いこなせる万能な者が多いと聞くが、例に漏れずこの男もそうなのだろう。

 武術や膂力に関しては陛下と互角。そして魔法の腕や詠唱速度はアリシア並。
 接敵してすぐはこちらにも数の利があったが、突然の攻撃により支援部隊は混乱し瓦解。私の第二騎士団はすぐに立て直したものの、徐々にその数を減らされている。
 相手はたった1人だというのに、奴は戦いながら魔法を放ち、遠距離に徹している仲間達を次々と倒していく。幸い、まだ死者は出ていないが、それも時間の問題だ。

 その上この魔人は、どれだけ剣で斬ろうと、魔法を当てようと、満足の行くダメージを与えられていない。それどころか、徐々に回復しているではないか!
 この回復力、先日見た怪物ほどではないにしろ、厄介な能力を持っているようだ。あの方はよくぞ、あれほどの怪物を仕留めたものだ。

「くく、勇猛果敢と伝え聞く第二騎士団とやらも、やはりこの程度ですか。弱い、弱すぎる。やはりこの国は、我々魔族の餌場に相応しい」
「ぬかせ! 魔族など、私が斬り伏せてくれる!」

 そう吠えて見せるも、奴を倒しきる手立てが思い浮かばない。何よりも、この武器では致命傷を与えることは出来ないだろう。既に1本目が折れ、2本目もいつまで持つか……。
 そもそも魔人は、魔族の中でもとりわけ個体数が少なく、人間の生活圏では滅多に目撃する事はないと言われていた。しかし、出会う事があれば死を覚悟する様にとも伝えられている。
 なぜなら、その戦闘力の高さもそうだが、人間に対して非常に強い悪意を抱いているという事だ。

 奴らは人間を一度見ると、残虐に殺さなければ気が済まないという。
 王国では、子供を寝かしつける時には、悪い子の所には魔人がやって来る。と伝え聞かせるほどだった。
 
 だから魔人の事は、非常に危険という事以外、具体的にどんな能力を持っているのか、まるで分っていなかったのだ。こちらがどれだけ攻撃しようとも回復する能力を持っているなど……。対策を考えている間にも、こちらの仲間はどんどん減らされて行く。
 どうすればいい。どうすれば……。

「ふん、戦いの最中考え事ですか? 随分と余裕です、ね!」
「しまった!」

『ガキィンッ!』

 奴の攻撃は私の剣の芯を捉え、武器が砕かれてしまった。
 武器の性能すら違い過ぎるのだ。全ての攻撃をいなさなければ、1本目の時のようになると解っていたのに……くっ!

「ほうら、捕まえましたよ」

 そのまま、奴に腕を取られ、組み伏せられてしまった。

「隊長!?」
「ミカエラ様ぁ!!」
「構うな、私ごとやれ!!」
「五月蠅い虫どもですね」

 そう言って魔人は、腕を振るう。
 すると突風が巻き起こり、可愛い部下たちは吹き飛ばされてしまう。

「貴様!!」
「ククク、良いですねその目。それに、よく見れば強く、そして深い欲望も持っているようですね」
「欲望、だと?」
「ええ、そうですとも。あの家畜……何と言いましたかね。この地を任せていた傀儡が居たのですが、権力欲と願望が極端に強い男でね。非常に扱いやすかったのですが、いかんせん下地が弱すぎました。それでもこの国であれば十分な脅威になれると思っていたのですが、先日いとも容易く死んだようでしてね」

 この魔人が言う家畜とは、アブタクデの事だろう。確かにあの膂力に回復能力は脅威だった。技術や魔法は無かったが、それでもアレが王都内で暴れたらと思うと、何人犠牲になっていたか想像出来ない。

「ですから、新しい駒が欲しかったんですよ。それなりの下地に高い願望を持つ貴女なら、立派に我々の望みを叶えてくれるでしょう」
「誰が貴様などに!」
「いいえ、貴女が望むのです。我々の術に飲まれたら最後、人は誰しもが欲望に飲まれ、自覚のない操り人形になるのです。ああ、貴女ほどの強者が部下になれば、魔王様の右腕となるのも夢ではありませんね……!」

 魔人は陶酔するように顔を歪ませ、片手を上げた。
 その手には、得体の知れない力が渦を巻いていた。この渦に触れてはならない。私は魔人を払いのけようと必死にもがくが、体に力が入らない。

「無駄ですよ。さあ、受け入れなさい。これが貴女の新しい心臓になるのです」
「くっ……!」

 私が私でなくなる。

 そう思った時、世界の時の流れが遅くなったように感じた。ああ、これが走馬灯とやらか。様々な過去の記憶が、フラッシュバックする。

 様々な出会いを経て、私は第二騎士団を設立した。当初は貴族の子女たちの道楽部隊と見下されていたが、数々の戦功を上げる事で第一騎士団と肩を並べるに至った。
 そうした後も、気に入った女性を見かけては声をかけ、鍛錬に勤しみ、美しく煌びやかなレディー達と共に過ごす日々。幸せだった。
 そんな生活に転機が訪れた。

 見たことのない美しいドレスを身に纏い、圧倒的な力で怪物を撃滅する異国の戦乙女。
 天女のように美しいあの人に、私は心を奪われた。もう一度……あの人に会いたい。

 私の願いが叶ったのか、いるはずのない彼女の姿が宙に舞っていた。
 まるで幻のように揺らめく彼女は、輝く太陽を背にしている。
 私を見た彼女は、小さく微笑んだ気がした。

 ああ、これでもう、思い残すことはない。
 最後に、彼女の姿を見ることが出来たのだから。

「―――シラユキちゃん……ッ!」

 ……? 彼女が、降ってくる?
 それに、何かを叫びながら……。

「キーーーーーーック!!!」
「グボアッ!?」
「うっ……!」

 高速で降りてきた彼女の足が、見事に魔人の顔面にめり込んだ。
 魔人の男はそのまま数十メートル吹き飛ばされ、砂ぼこりと共に見えなくなる。

 暴風と共に落ちてきた彼女は、私を見下ろしていた。

「はあい、ミカちゃん。元気?」
「……」

 見上げる彼女は、昨日見た時とはまた違った美しさを持っていた。今まで様々なレディーを口説いてきたが、今の彼女を形容する言葉を、私は持ち合わせていなかった。
 それほどまでに今の彼女は、美しく、輝いて見えた。

「もうミカちゃんったら、泣いてるの?」

 子供をあやす様に、微笑む彼女がまた愛おしい。
 潤む目をこすり、もっと彼女を見ようとしたその瞬間。風のいたずらか、はためく彼女の内側が目に入ってしまった。
 本来であれば見えてはならない物、身を守る最後の防波堤。それが垣間見えた時、また目を奪われてしまった。

「黒か……」

 純白の君も良いが、漆黒を纏う君も、また美しい……。

 芸術的なその意匠を作った職人を、私は心の中で絶賛した。
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