異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第5章:魔法学園 入学騒乱編

第132話 『その日、親友の妹とお話した』

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 アルビノの美少女、アリスちゃん。
 そんな彼女を見つめるソフィーの目は、慈愛に満ちた優しい物だった。

 ……ソフィーったら、そんな顔も出来たのね。知らなかったわ。
 でも、それほど可愛がっている妹や、敬愛している姉が亡くなったから、あんなツンケンしたソフィーが出来上がったのよね。この世界ではそうはならなくなってるはずだけど、これからもこの世界が続くように、私が守って行かないと。

「……ソフィア姉様」

 でも、そんなソフィーとは対照的に、アリスちゃんの声色はとても冷たかった。

「なに?」
「座学は、欠陥品の私にとって、唯一の誇れる物でした。努力しても全く使えない魔法と違って、座学の点数だけは裏切らなかったのです。座学は私にとって、心の拠り所だったのです。でも、今回のテストでは、そんな私を軽々と超える点数を出した方が現れました。……そんな方を、私に紹介するなんて。ソフィア姉様はどう言うおつもりなのですか」
「え!? そ、それは……」

 ソフィーはそう思われた事が想定外だったのか、言葉を詰まらせてしまった。
 アリスちゃんは先ほどまでの困惑した表情に陰りが見え、哀しみへと塗りつぶされていく。

 それは今にも涙が溢れ始めてしまいそうな、悲痛な表情。

「……ッ! し、失礼します!」
「アリス、待って!」

 涙を見せないように、アリスちゃんは踵を返した。
 そんな彼女に対し、私は身体能力を駆使して一瞬で回り込み、ついでに抱きしめる。

「はい、捕まえた」
「!?」
「え、シラユキ!? ……え?」

 捕まったアリスちゃんは、何が起こったのかわからず困惑した表情を向けるし、ソフィーもソフィーで、私と先ほどまでいた場所を交互に見てる。
 そういえば私の身体能力の高さ、直接は見せてなかったような。

「は、放してください!」

 アリスちゃんは抵抗の意思を見せるけど、その力はとてもか弱い。そう言えば、さっき駆け出そうとした時も遅く感じたし、超絶非力なのかも、この子。

「いやよ。ソフィーと仲違いだなんて許さないから。大事な親友の妹なら、私にとっても大事な妹よ。誤解が解けるまで離さないわ」
「誤解? な、何が誤解だと言うのですか」
「そうねー。まず前提条件が間違っているわね。まずソフィーは、貴女を困らせて悦に入る様な残念な子じゃないわ。それは妹でもある貴女がよく知っている事でしょう?」
「……」
「あと貴女は、自分の取り柄が私に奪われたと絶望しているのかも知れないけど、そこも間違ってるわ。だって、本当なら歴史の点数、私0点だったもの」
「……え?」
「なにそれ、私も知らないんだけど」

 だって言ってないもん。

「それにね。貴女の価値が座学にしかないだなんて、ソフィーが一度でも言った事ある?」
「それは……きゃっ!」

 抵抗の意思が弱まったところで、彼女を抱き抱える。
 ああもう、ちゃんと食べてるのかしら。とっても軽いわね、この子。

 彼女を抱えたまま元いた位置へと戻り、そのままベンチに腰掛けた。アリスちゃんは当然、私の膝の上だ。

「心配になる程に軽いわね。もっとちゃんと食べないと、大きくなれないわよ」
「あ、あの! 恥ずかしいです、降ろしてくださいまし」
「だーめ」
「はぁ……諦めなさいアリス。こうなったシラユキはこっちの都合なんてお構いなしなんだから」

 そう言ってソフィーは、私の横を詰めて来て、アリスちゃんの頭を優しく撫でた。

「ごめんね、アリス。私、どうにか貴女が抱える問題を解決しなきゃって躍起になっていて、その行動が貴女をより苦しめる事になるだなんて、思ってもみなかったわ。座学はアリスにとって、唯一胸を張れるモノだったのよね。気が回らなくて悪かったわ」
「……やめてください、ソフィア姉様。そんな風に慰められても、惨めになるだけです」
「ソフィーって慰めるの下手なの?」
「うぐ……」

 もう、仕方がないわね。

「じゃあ改めて確認したいんだけど、アリスちゃんの座学の点数を教えてくれる?」
「……それが一体何になるのです」
「いいから」
「……数学92、歴史96、作法100、魔法40、薬学55でした」

 うんうん、ちゃんと頑張ってる点数ね。魔法と薬学はちょっと、問題自体がアレだっただけで。

「そう、つまり座学の合計は383点だったわけね。私は数学100、歴史100、魔法100の作法が80、薬学50の430だったのよね。薬学の結果は納得行ってないから、今度採点者のところに殴り込み掛けるつもりだけど、まあそれはそれとして」
「今サラッと恐ろしい事を口走ったわね」

 ソフィーの呟きはとりあえずスルーして。

「実際の歴史は私、0点なのよ。さっきも言ったけどね。で、薬学は100点のはずよ。だから本当の合計点は380点。つまり座学ではアリスちゃんが上なのよ」
「「すごい自信 (です)ね」」

 礼儀作法は知らないなりに頑張ったと思うけど、歴史は2問目以降見てすらいないのよね。もしかしたら、中には私の知ってる様な問題も乗っていたかも知れないけど、そこは1度捨てた以上、計算外にすべきだわ。

「それで歴史の0点、だっけ? それ、どう言う意味なのよ。私、何も聞いてないんだけど」
「それはねー。問題を見て開始早々諦めちゃって、陛下の似顔絵を裏面に描き殴ったの。陛下への絵を0点と言い張れるものならやってみなさい。と、冗談のつもりでやったんだけど、100点扱いになっちゃったのよね。困っちゃうわ」
「「……」」

 ソフィーからは呆れた様な視線が飛んできた。
 アリスちゃんの顔は伺えないけど、きっとソフィーと同じ顔をしてるんじゃないかしら。そう思っていると、アリスちゃんがボソッと呟いた。

「シラユキさんほど聡明な方なら、真面目にテストを受ければそれなりに高得点が狙えたのではないですか?」
「うーん、テスト前日までドタバタしていて、勉強する暇が無かったのよね。それに、私この国の人間じゃないから、あんまり歴史に興味なかったと言うか……。1問目からしてどうでも良かったもの」
「お父様の活躍をどうでもいいと仰られる方は、初めて見ました……」
「シラユキ、おじ様の職業やレベルを聞いても、眉一つ動かさなかったもんね」
「だって、さほど凄いとは思わなかったし……。あ、これ不敬かしら?」
「……聞かなかった事にしてあげる」
「ありがと」

 入学するまでに、何度か王城に遊びに行ったんだけど、その時陛下から似顔絵の感想を貰ったのよね。
 とっても喜んでくれてたけど、あんなに喜ばれちゃうと、回答用紙に描いたのが申し訳なくなっちゃったわ。今度、ちゃんとした画材を使って描いてあげようかしら?

「……似顔絵」
「アリスちゃん、どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません」
「教えて?」

 シラユキちゃんの前で隠し事は出来ないのよ。さあさあ、白状なさいな。

「……子供の頃、お父様に似顔絵を描いてみことがあったのです。その時はとても喜んで頂いて。……それ以降、一度も描いていなくて。私もシラユキ様に倣ったほうが良いのでしょうか」
「素敵じゃない。娘からの絵を喜ばない親はいないわ。是非描いてあげて」
「……」

 これ以上私から首を突っ込むのは野暮かな?
 そう思っていたところで、ソフィーが割り込んできた。

「そ、それでね、アリス。シラユキを紹介したかったのには理由があるの」
「……理由、ですか? ソフィア姉様念願のお友達が出来たからでは無い、と?」
「……それもあるけど」

 あるんだ。

「アリスをずっと悩ませてきた、魔法が使えない病を取り除く事が出来るの。このシラユキなら!」

 ソフィーは興奮した様にアリスちゃんに熱く語った。
 それに対し、アリスちゃんの反応は……。

「……ソフィア姉様には失望しました」

 白けていた。

「私が魔法を使えずに悩んでいる事を、ソフィア姉様は誰よりも理解してくれていると信じていました。ですが、そんな嘘をつく為に友達を連れてくるだなんて……。私の病気は治らないのです。お父様が今まで、一体何人の高名な魔法使いや学者、お医者様を連れてこられたと思っているのですか。その全員から、私は魔力の無い欠陥品、出来損ないだと言われたのです。シラユキ様が普通よりちょっと魔法が優れてるからって、私は騙されませんから!」
「アリス……」

 あ、コレは重症だわ。
 カープ君は魔法を使う事を夢見て、諦めずに努力をし続けていたけど、アリスちゃんは諦めてるのね。
 諦めてる子に教えるのは、絶望的に難しいわ。

 ……あれ?
 ならなんで、魔法学園の魔法科に通い続けてるのかしら。魔法関係の座学も、諦めていて嫌いなら、勉強する必要はない訳だし。
 騎士科は体力的に厳しくても、調合学科になら入れるんじゃない? それでも尚魔法科にい続けるってことは……。

「嘘言わないで」
「……っ!」
「コレでも私はアリスのお姉さんなのよ。貴女が魔法を諦めていないことくらいお見通しよ」

 ああ、そうなんだ。良かった良かった。
 さすがに魔法を諦めてる子に魔法を教えるのは難しいからね。

 やっぱり、ある程度私の講義を受け入れてくれる状態じゃないと、『魔力溜まり』の説明を受けても理解してくれないだろうし、半信半疑のままじゃせっかくの知識も無駄になっちゃうわ。
 魔法の行使には、心の在りようが正確に反映されるから、疑ったまま使っても魔法は不発に終わるわ。1度でも不発に終わってしまえば、2度と私の授業は信じてもらえなくなる。そうなったら詰みね。

 そう思うと、やっぱり私のCHRパワーは最高に相性が良いわ。無警戒の相手なら確実に私の言葉を受け入れてくれるんだもの。
 詐欺師も真っ青な能力ね。

「……でも、信じられません。この方がどんなに優れていたとしても、私みたいな欠陥品は魔法が使えないのです」
「ねえ、アリスちゃん。アリスちゃんはいっぱい魔法の勉強をしてきたのよね」
「……はい」
「なら、魔法を行使する上で、いくつもの制約があると知っているわね? 詠唱であったり、適合属性だったり」
「はい」
「それじゃあまずは、そんな間違った常識から壊して行きましょうか」
「……え?」

 この世界に伝えられている魔法の講義そのものが間違っている事を見せれば、今までアリスちゃんを無能と判断してきた連中の言葉が、正しくない事を理解してくれるはず。
 まずはそこから始めましょうか。

「シラユキ様は、こう言いたいのですか。私が今まで勉強してきた事に、間違いがあったと」
「ええ」

 やっぱりこの子、頭が良いわね。私が何を伝えたいのか、瞬時に理解して見せた。
 例えその内容自体が信じられない物だったとしても。

「間違った定義を元に魔法を行使しようとしていたから、私は魔法が使えなかったと」
「そうなるわね」
「……。では、証明してください。私の常識が……いえ、世界の常識が間違っている事を」
「そうね、私が見せるのも良いけど……。やっぱりここは、言い出しっぺが見せてあげるべきよね。ソフィー?」
「ええ、任せて」
「ソフィア姉様……?」

 ソフィアは一度深呼吸をして、両手を前に突き出す。

「アリス、私の適性属性、知っているわね?」
「はい。風と、水、そして火属性のトリプルユーザーです」
「……『アイスボール』」
「……えっ?」
「はい、シラユキ」
「はーい」

 ソフィーの『アイスボール』を受け取り支配下に置く。そうする事でソフィーは次の魔法へと専念出来る。

「『アースボール』」
「はいパース!」
「よろしく。……『サンダーボール』」

 そうして、ソフィーの手から3つのボール魔法が出現した。どれもこれも、出会った頃には習得していなかった属性の魔法だ。

「!!? ソ、ソフィア姉様。これは一体……」
「ふふ、どうよ。私だって成長するのよ」

 ずっと昔からソフィーを知っているであろうアリスちゃんは、驚きを通り越したようで一瞬フリーズしたが、復帰するとすぐさま捲し立てる様に質問をし始めた。そんなアリスちゃんの姿に、ソフィーも嬉しそうに答えていく。

 私がソフィーと出会って、何だかんだでもう半月ほど経過している。その間、ただ漠然とイチャイチャしていたわけでは無いのだ。
 魔物と戦うことも無く、これといった事件もなく、取り急ぎ調合する素材もなかったので、暇な時間はずーっとソフィーやフェリス先輩。そしてココナちゃんに魔法の授業をしてあげていたのだ。

 家族には今手元にある魔法に集中したいと断られちゃったので、余計に火がついちゃった。

 ココナちゃんには『狐火』と相性の良い風属性と雷属性を。
 ソフィーとフェリス先輩は、扱えなかった属性全てを教え込んだ。
 雷の性質を0から理解させるのには苦労したけど、直接痺れさせたら早かった。まあ、その時起きた事件は、淑女にあるまじき醜態を晒してしまった訳だけど……。顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする反応が三者三様で、それがまたカワイかったわ。

 そう思うと、今後雷を教える場合同様の手段を使う必要があるのかも知れないと考えると……ちょっとアレかも知れないわね。
 解決策として、先にお手洗いを済まさせるべきかしら……?

 そう考えているうちに、アリスちゃんの質問攻めは終わったらしい。
 とっても興奮しているみたいで、普段色白のアリスちゃんがわかりやすいほどに顔を紅潮させていた。

「誰でも、ヘクサユーザーになれる……」
「そうよ。シラユキの教えはすごいのよ」
「……ねぇ、割って入ってなんだけど、6属性が使える人は、皆そう呼ばれちゃうの?」
「ええ。子供は皆、ヘクサユーザーに憧れるものよ」
「何だかダサい呼び名ねぇ……」
「「……」」

 どうせならエレメンタルマスターとか、オールラウンダーとか。そんな風な呼び名の方が格好良いわ。
 まぁ、みんながみんなそうなったら、ありがたみが欠片も無いんだけど。

「それじゃ、ついでにもう1個か2個ほど常識壊しちゃいましょうか」
「ま、まだあるのですか? 今の魔法常識1つとっても、十分凄いお話でしたが」
「甘いわよ、アリス。シラユキの常識ブレイカーはこの程度じゃすまないわ。この半月で私の破壊された常識は片手じゃ収まらないもの」
「そ、そんなに!?」

 ソフィーが何だか自慢げに言ってるけど、ソフィーに教えた事なんて氷山の一角というか、大した情報は無いんだけど。いや、まぁこの国の経済状況や歴史は十分壊しちゃうか。
 でもまぁ、本当にまだまだ全然なのよ?

「ソフィーにはまだ、1割どころか1%も教えてないんだけど?」
「「……」」

 黙っちゃった。

 さて。
 それじゃあ、なんとかの教授に見せたような、無詠唱魔法の数々をお披露目しましょうか。

『リリちゃんとはまた違った妹が出来た気分ね!』
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