俺の命は1000円だった。〜壊れた男は異世界で復讐を誓う。

infinitey009

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第2章 勇者大戦

廃墟から始まる魔王の町

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 己の感情をむき出しにして叫ぶ獣人族の親から生まれたティルトと、それを見て愕然とする『落ち人』の娘であり奴隷館の主である老婆マァサ。

 人の姿でありながら母親を人間に蹂躙された姿を見て育ったティルトの怨念は、俺の中の憤怒すらも喜びを隠せない程濃厚なものであり、マァサをこちら側につけるにはうってつけの材料になるだろう……



「ティルト……お前の復讐心はよく分かった。だが、それを成すためにはこの世界を敵にしなければならない程大きな問題だ。俺は自分自身の為だからそれに立ち向かえるが、お前にはその覚悟があるのか? 母親の為に復讐をする事を決意する程の優しさの持ち主であるお前に、何も知らない無垢な人間の子供でも殺せる程の決意がお前にあるのか? 」

 俺の無慈悲な言葉にティルトは口を閉ざし、先程までの烈火の如く荒れていた心さえも鎮まってしまうティルト。

 その姿を見て安堵するマァサだが、生憎俺はそんな生易しい言葉でティルトの復讐を止めるつもりはさらさらない。

「だから、お前は俺の命令で人間共を殺せ。母親の為ではなく、俺の命令で人間達を、いや俺の敵となるものを全て滅ぼしてしまえ。お前の殺した相手の責任は俺が全て持つ。お前の復讐すべき相手も俺が探し出し、必ずお前の眼の前に連れて来てやろう。その代わり、俺の為に働き俺が命じる相手のみを全て駆逐するんだ」

「……あんた!何を言うんだ! ティルト、そんな奴の言う事を聞くんじゃ無い! 確かにあんたの母親の事は無念だし、あんたの気持ちが分からなかった私が悪かった……でもそいつの言う事だけは聞くんじゃ無いよ!」

 俺の言葉に耳を傾けるティルトを必死に説得しようとするマァサだが、そんな言葉は今のティルトの心には決して届く事は無いだろう。



 復讐を誓い今まで生きてきた男の狂った思いはそんな優しいだけの言葉では決して動く事はない。

……復讐を求める心に一番響く言葉、それは復讐を認める事だからだ。

「ティルト分かったか? これが普通の反応だ。例え身近な人や、愛する人が殺されたとしても周りや自分の今後を考えてその心を押し殺して生きていく……言うなれば生存本能とも言うべきものだな。だが、俺やお前のように全てを失ってでも復讐を果たそうとする者も僅かだがいる。俺のように心が壊れた者や、お前のように自分よりも愛する者を大切にしてしまうような人間だ」

 俺はそこで言葉を区切ると周りを見渡しマァサの奴隷達を見る。

 俺の言葉を聞いて納得したような者もいれば、相容れない事だと言わんばかりにこちらを見る者もいる。

 これは普通の反応だ……人間にとって大切なものなどその人によって違うし自分が一番大切だと思う事など当たり前の事なのだから。

 しかし、俺の生まれた世界でも確かに自分以上にその『何か』大切にする者も確実に存在していた。

 それは宗教と呼ぶものであったりお金であったりと、様々な形をとってはいたがその頃の俺から見ても狂信的と見える姿は一般人には受け入れられないものだったはずだ。

「だからティルト、お前の枷を外してやろう。お前の復讐を俺は受け入れよう……その代わりお前は俺の命令によって俺の敵を滅ぼせ。全ての業は俺が受け入れる。壊れた心しか持たない俺には罪悪感など、とうに無くなっている。俺は俺の為にこれから国を作る。お前はお前の復讐の為、そしてそれを成す為に俺の元で働け」

 憤怒と俺自身に湧き上がる歓喜のような感情に身を任せながら、俺はティルトの返答を待つ。

 何かを耐えるような顔でマァサを見ていたティルトだが、頭を大きく左右に振ると、その目には俺に似た狂気を感じさせる炎を宿し、俺の目を見返していた。

「俺にはあんたの言うことが良く分からない……だけど、あんたが俺の心を認めてくれた事だけは分かった。俺は俺の復讐さえ果たせるなら何もいらない……その代わり俺の復讐を遂げさせてくれ! 」

 愕然とするマァサからの視線を振り払うように俺に告げたティルトの言葉に、俺は満足感を覚えながらティルトの手を取りティルトを立たせる。

 全てを振り切った感じを見せるティルトを自分の配下とした俺は、茫然自失としたマァサに視線を向け、最後の仕事へと向かう。

「マァサ分かったか? これが俺という存在だ。己の復讐の為、手段を選ばずどんな損害を出したとしても成し遂げる……そんな不器用な俺だ。ティルトもいつ失うか想像もつかない。マァサ……お前が俺の元に居ればその可能性を少なくする事が出来るはずだ……さぁ選択の時だ。俺の元で働いて被害を少なくしていくのか、それとも敵対して俺の野望を阻むのか教えてくれ。例え敵対を選んだとしても、この町から出る間は攻撃しない事を確約しよう」

 マァサの歯ぎしりする音を聞きながら、俺はマァサへと残酷な選択を突きつける。





 どれほどの時間が経ったかは分からなかったが、俺の目の前で肩を落とし座り込むマァサが片手を上げた時、俺はこの町を自分の物に出来た事を確信したのだった。
 



 
 次回配信は来週となります。
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